2027年の始動を目指しているNBAヨーロッパが、新たなフェーズに突入した。
アメリカ現地時間の3月31日をもって、フランチャイズ参入枠への入札が締め切られ、実現へ向けての枠組みが見えてきた。報道によれば、この時点で120を超える団体や投資家が関心を示し、5億ドルから10億ドル(約750億~1500億円)、なかには10億ドルを超える入札も確認されているという。
NBAは、昨年の段階でロンドン、マンチェスター、パリ、リヨン、ミラノ、ローマ、マドリード、バルセロナ、ベルリン、ミュンヘン、アテネ、トルコの7か国12都市にフランチャイズを置くことを発表している。今回の入札方式は、これらの都市単位での希望を募ったもので、一番人気はロンドンやパリだが、全12都市に対して入札があり、総数を見ても10倍を超える希望が殺到したことになる。
今回は、変更や撤回の余地を残した“非拘束的入札”とはいえ、これだけの関心が寄せられたことに対してはNBA側も手応えを感じたようで、欧州のバスケサイト『Eurohoop』には、副コミッショナーのマーク・テイタム氏による以下のようなコメントが掲載されている。
「NBAとFIBAの協力体制により立ち上げられるヨーロッパでの新リーグにおいて、恒久的なフランチャイズ枠に対し、数多くのチームや投資家から大きな関心が寄せられている。こうした熱意と入札の規模は、我々の提案するビジネスモデルに対する市場の信頼と、いまだ開拓されていない膨大なポテンシャルを反映したものだ。
今後は入札内容を詳細に検討し、欧州全土でのバスケットボールの成長を加速させるという我々のビジョンと取り組みに共感するパートナーを最終候補として選定していく」
テイタム氏の発言にもあるように、入札を行なったのは、すでにバスケットボールクラブとして運営している団体、そしてビジネス目的の投資家たちだ。投資家・投資企業が参入枠を獲得した場合は、すでにその都市にある既存のバスケットボールチームと提携、あるいはまったく新たなクラブを立ち上げる、2パターンが考えられる。
実際に入札をしたとされる投資企業の中には、サウジアラビアの公共投資基金(PIF)、カタール・スポーツ・インベストメンツ(QSI)、世界的な投資企業であるレッドバード・キャピタルやオークツリー・キャピタル・マネジメントも名を連ねている。
PIFはイングランドのプロサッカーチーム、ニューカッスル・ユナイテッドのオーナーで、QSIはフランスの同じくプロサッカーチーム、パリ・サンジェルマン(PSG)のオーナー。そしてレッドバードとオークツリーは、それぞれミラノを拠点とするサッカーのライバルクラブ、ACミランとインテル・ミラノのオーナーだ。
彼らの場合は、既存の街クラブを吸収、あるいは新たに組織する形で”バスケ部門”を新設する形となるが、すでにサッカー部門で確立しているブランド力やインフラを利用できる点が大きなメリットと言える。
一方で、すでにバスケットボールクラブとして活動しているクラブは、アリーナやファン、選手育成組織などを有しているため、運営という意味では最もスムースだ。
しかし彼らにとっての問題は、NBA側が要求している推定5~10億ドル規模のライセンス料を捻出できるのか。レアル・マドリーのようなサッカー部門で世界にその名を轟かせるクラブであっても、バスケ部門はジリ貧で、財政問題のためにNBAヨーロッパ参入を検討せざるを得ないクラブは少なくない。
たとえばパリでは、PSGと並んで、先日ジャ・モラント(メンフィス・グリズリーズ)が経営に参画したことが報じられた、ヴィクター・ウェンバンヤマの古巣であるメトロポリタン92も入札に参戦している。
PSGはバスケ部門を持たないため今後新設する必要があるが、潤沢なカタール資本がバックについている。対してメトロポリタン92は、すでにバスケクラブとしての歴史はあるものの、2024年に財政破綻し、現在は新たな支援の下、名前を変えて下部リーグから再スタートを切った。まさに、両極端の立ち位置にある者同士のバトルが展開されることになる。
さらに言えば、PSGの経営陣にはケビン・デュラント(ヒューストン・ロケッツ)がおり、パリに関してはデュラントvsモラントのバトルともなり得る。
ちなみに、今回の入札においては、すでにユーロリーグに参戦しているクラブも参加しているのは明白であるものの、具体的にどこのクラブであるかは明かされていない。
ただ、トニー・パーカー(元スパーズほか)がオーナーを務めるリヨンのアスヴェルに関しては、パーカー自身が前々からNBAヨーロッパ参戦の意思を表明していたため、ほぼ確実だ。
そうしたなか、ここへ来て加速しているのは、NBAヨーロッパとユーロリーグの合体の可能性だ。その背景には、今年初頭にユーロリーグのCEOへチュス・ブエノ氏が就任したことが挙げられる。
バルセロナなどでプレーした経歴を持つスペイン出身のブエノ氏は、現役引退後はスペイン代表チームのエグゼクティブ・ディレクターなどを歴任。その後NBAのフロントオフィスのメンバーとなり、欧州・中東・アフリカ担当の副社長として現コミッショナーのアダム・シルバーと同僚関係にあった。
つまり今回のブエノ氏の就任で、ユーロリーグとNBAとの距離はぐっと縮まったのだ。
近々会談が予定されていて、そこで具体的な決定がなされるのではと欧州バスケ界は大きな興味をとともに進展を見守っている。
現在噂されている青写真は、NBAヨーロッパの12クラブ、ユーロリーグから既存の欧州トップレベルの12クラブが参戦する24チーム体制とすること。ユーロリーグの永久ライセンスを保持しているのは現在13クラブで、そのうちひとつは現在、戦争を理由に除外されているCSKAモスクワであるから頭数は合うが、NBAが挙げた開催都市が被る場合はアレンジなどの調整も考えられる。
そうなると、NBAヨーロッパを初期段階から支援してきた国際バスケットボール連盟(FIBA)とユーロリーグが手を組むことにもなる。長く敵対関係にあった両者が一枚岩になるという点でも、これは欧州バスケ界にとって歴史的な出来事だ。
今後は、入札内容を精査した後にリストを絞り込み、その上でNBA側が求める最終条件を提示して、そこへ向けての拘束力のある入札(Binding Bids)を行なう。そしてNBA理事会での承認を経て、正式にオーナーが決定という運びとなる。
まだまだ先の話のように思われたが、2027年といえばもう来年。NBAヨーロッパなる新たなリーグは、ここから加速度的に具体化していきそうだ。
文●小川由紀子
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