
2026年10月9日(金)に劇場公開を控える映画「どこよりも遠い場所にいる君へ」。本作は、2025年に「カフネ」で本屋大賞を受賞した注目の作家・阿部暁子先生による人気青春小説(集英社オレンジ文庫刊)を原作に、今話題の「超かぐや姫!」も手掛けた、へちまをキャラクターデザイン・総作画監督に迎え老舗アニメーションスタジオ・トムス・エンタテインメントが手掛ける瑞々しい少年少女の揺れる想いと秘密が複雑に絡み合う物語だ。公開を秋に控え、今まさに制作が佳境を迎えていると聞きつけたWEBザテレビジョン取材班は、東京・中野にあるトムス・エンタテインメント/第6スタジオを訪問。忙しい現場に無理を言ってお邪魔しつつ、PVで描かれている美しい映像がどう作られているのか、アニメ制作の最前線をレポートする。さらに、和田純一監督が語る「七緒は泣くけど和希は泣かない」という言葉に込められたエモい仕掛けとは? 現場のリアルな空気感と、監督へのミニインタビューをお届けする。
■中野にそびえる「アニメの殿堂」。歴代の国民的キャラクターがお出迎え
本作を手がけるのはトムス・エンタテインメント。「名探偵コナン」や「それいけ!アンパンマン」といった現在も放送中の国民的アニメはもちろんのこと、「ルパン三世」や「あしたのジョー」「巨人の星」など、日本のアニメ史に燦然と輝く名作まで、幅広い世代に愛される数々の作品を世に送り出してきた。アニメに詳しくない人でも、これまでの人生で必ず一度はトムスの作品に触れたことがあるはずだ。

エントランスに入ると、そこには誰もが知るキャラクターたちや歴代作品のフィギュアがお出迎え。また会議室には歴代作品が綴られた巨大な年表も飾られており、その歴史の重みを感じさせてくれる。そんなレジェンドスタジオで現在制作を進めているのが、映画「どこよりも遠い場所にいる君へ」(以下、「どこきみ」)なのである。
■潜入!映画「どこきみ」が生まれる制作の最前線


現場にいたのは和田純一監督ご本人。モニターに映っている可愛らしい猫について、色彩設計のスタッフさんと打ち合わせ中。キャラクターデザイン画から線画の設定を起こした際、縞模様のニュアンスなどが少し変わってしまったようで、塗り分けの線をこの場で足すか、それとも線画そのものを修正してもらうかの判断を悩んでいるとのこと。このように、1枚の絵、1秒の動きにこだわる姿勢が、美しい映像を生み出しているのだ。
その後、和田監督は原画チェックへ。「この1週間ぐらいで一気に手元にカットが回ってくるようになったんですけど、内心『遅いよ!』って思ってます(笑)」と、生々しい本音もついついポロリ。笑いを交えつつも、現場が凄まじいスピード感で動いていることがひしひしと伝わってきた。
■絵コンテ、原画、台本を特別公開!


ここで、絵コンテ、原画、アフレコ台本といった制作資料を特別に公開。アニメーションは、シナリオ、絵コンテ、原画といった工程を経て作られる。そこにキャストの声や音楽が乗り、色を付け、キャラクターと背景を重ねる撮影があり、最後に編集作業が行われる。例えば、絵コンテには「雨つぶセル予定」や「素材が上がり次第処理確定する」といった細かい指示が書き込まれており、原画ではキャラクターの息遣いまで聞こえてきそうな表情が描かれている。さらに台本では、カメラの動きや演出なども書き込まれているのが分かる。
■【予習】映画「どこきみ」が描く、切なくも温かい“ひと夏の奇跡”
監督のインタビューに入る前に、本作のストーリーと魅力的なキャラクターたちを少しだけ予習しておこう。
豊かな自然にあふれた離島・采岐島――。
その島には、“神隠しの入り江”と呼ばれる場所があった。
とある事情で都会を離れ、采岐島の高校に進学した少年・月ヶ瀬和希は、
ある初夏の日、“神隠しの入り江”で一人の少女が倒れているのを発見する。
少女の名前は秋鹿七緒。
身元不明の七緒は、和希とともに彼女を救助した高津という男性に保護されることになる。
七緒のことが気になり、それからたびたび放課後に彼女のもとを訪れるようになった和希。
二人の距離は少しずつ縮まっていくが、やがて和希は、七緒から驚きの言葉を聞かされるのだった。
出会うはずのなかった二人が出会い、少しずつ色づいていく日常。
ひと夏を共に過ごした二人がたどり着いたのは、切なくも優しい未来だった――
少年少女の揺れる想いと秘密が複雑に絡み合うストーリーだ。
■和田純一監督ミニインタビュー:この「光」と「距離」に込めた想い
多忙なスケジュールの合間を縫って、和田純一監督が少しだけ取材に応じてくれた。モニターを見つめる真剣な眼差しから一転、穏やかな笑顔で作品への想いを語る監督の言葉をお届けする。
――先ほど少しだけ設定を拝見したのですが、舞台となる島の色味や空気感が本当に美しくて。ロケハンにも行かれたそうですが、映像表現におけるこだわりを教えてください。
和田 舞台である采岐島のモデルは島根県の隠岐諸島なのですが、何日も島を取材をさせていただいて、植生や建物の色などをつぶさに調べました。特に高津の家の周辺などは、島が営んできた歴史の跡を色濃く出していますね。一方で、和希と七緒が出会う「神隠しの入り江」については、日本海の色ではなく、インドネシアやハワイのような南国の色彩を意識しています。現実のリアリティと、心象風景に寄ったファンタジーな色を使い分けています。
――キャラクターについてもお聞きしたいのですが、高津役には俳優の玉木宏さんがキャスティングされています。
和田 実は、かなり初期の段階からプロデューサー陣と「玉木さんにやってもらえたら嬉しい」と話していて、絵コンテの段階から玉木さんを想定して書いていました。声優さんのお芝居とはまた違う、リアルなトーンが素敵で「これこれ」って思いました。
――本作は和希と七緒の関係性がとてもエモいです。監督が一番大切に描いているポイントはどこでしょうか?
和田 原作にもある要素ですが、やはり「和希視点で見た七緒」という部分ですね。七緒という女の子に出会って、彼女の明るさや前向きさに触れることで、和希がどう変わっていくのか。そんなひと夏の体験を強く出したいと思っています。
――和希視点の物語なんですね。
和田 そうですね。和希は感情を表に出すのが苦手なタイプなので、泣きたくても涙を堪える。反対に七緒は感情を表に出しまくる子なので、「七緒は泣くけど和希は泣かない」という対比が映えていて、そこにキュンとなってもらえたらいいなと思っています。
――では最後に、映画の公開を楽しみにしているファンに向けてメッセージをお願いします!
和田 原作小説では和希の「心の声(独白)」で進んでいく展開が多いのですが、アニメではそれを映像としてどう表現するかという点に注力しています。アニメならではの新しい解釈や、原作にはないシーンも入っています。シナリオは原作者の阿部先生からも「良かったです」とおっしゃっていただけたので、自信を持って全力で作っています。ぜひ完成を楽しみにしていてください。
――ありがとうございました!
制作現場で目撃したのは、手作業による膨大な制作物の数々と、スタッフ一人ひとりの「少しでも良い作品にしたい」という地道な熱意。監督の言葉通り、リアルとファンタジーが混在した島の独特の佇まいは、観るものの心を惹きつけてやまない魅力が散りばめられている。透明感あふれる映像とともに、切なくもあたたかい世界観を届ける映画「どこよりも遠い場所にいる君へ」は10月9日(金)に公開。期待に胸を膨らませて待ちたい。
◆取材・文=岡本大介

