ラグビー日本代表の李承信は、家族との繋がりを重んじる。
「一番のモチベーションです。なぜラグビーをするのかと言えば、家族のためというところがあります」
昨年は次男で現三菱重工相模原ダイナボアーズの承爀の、また長男の承記の結婚式へ出席。長男の1日は代表活動期間中だったが、その数カ月前にエディー・ジョーンズヘッドコーチの許可を取った。
「『ファミリーファースト。行ってきていい』と。…よかったです」
上司に大事な交渉事をするタイミングを探る術は、11歳から父子家庭で過ごすなかで培ってきた。幼少期こそ「結構わがままに生きていた」ものの、家庭内での父の負担が増えたのを察するうち、他者の顔つきから心理を読み解くのが得意になったとのことだ。
「目配り、気配りはできる方だと思います!」
最近は自身が家庭を持った。現在参戦中の国内リーグワン1部のさなか、3月5日に結婚したことを公表した。
それまで所属するコベルコ神戸スティーラーズの寮で暮らしていたのを終え、新居からグラウンドという職場に通う。
これまでの選手生活で学んだ知識やチームから手渡される個別の栄養指導の書類をもとに、妻に普段の食事メニューをリクエストする。「自炊はできない」と苦笑する青年は、感謝しきりだ。
「食事、ケアを含め、ラグビーにフォーカスできるようサポートしてもらっています。自分ひとりでやっているところから、守るべきものができた。モチベーションの意味でも、支えてもらっています。ラグビーに対して、強い思いを持つようになりました」
こう述べたのは4月5日。東京・秩父宮ラグビー場での第14節に途中出場した。共同主将のひとりで普段は先発出場が多いものの、デイブ・レニーヘッドコーチの大局観に基づきリザーブに回っていた。
リコーブラックラムズ東京を40―19で下したが、口にしたのは自身のパフォーマンスへの反省点だ。
「(出番を得てから)結果としてトライを獲れたところはポジティブですが、自分のなかで『もう1歩』で相手を崩せるピクチャーは見えていながらブレイクダウン(接点でのせめぎ合い)、規律(の乱れ)で求めている形にもっていけない(局面もあった)。フラストレーションのたまる試合だったかな」
遡って3月20日には地元の神戸総合運動公園ユニバー記念競技場で、当時首位ながら最下位だった横浜キヤノンイーグルスに29―38で敗戦。攻めあぐねる展開にこううなだれていた。
「チャンスが来るまで『待ってしまった』感覚というか…。何となくフェーズを重ねていれば相手がミスしたり、自分たちがチャンスを作れたりするだろうというマインドセットがあった。変えないといけない」
もっとも続く28日には、敵地の静岡・ IAIスタジアム日本平で静岡ブルーレヴズに41―20で勝利。失敗をそのままにせず、破壊力と粘りの合わせ技で主導権を握った。6傑によるプレーオフ行きを決めた。
かくして迎えたブラックラムズ戦でも、序盤から波状攻撃を披露して早々に流れを掴んでいた。
ブロディ・レタリック共同主将らニュージーランド代表経験者が攻守にインパクトを示してきた一方、スコアした直後の守勢局面において組織でよく我慢しているのも確かだ。
簡単に満足しない李も、現体制3シーズン目の充実ぶりを確かに感じ取っていよう。
ちなみに、この午後にゲーム主将として攻守に奮闘のアーディ・サベアについて、李は、組織の一員としてこんな所感を述べた。
「一瞬、一瞬にベストを尽くす姿には、チームとして学ぶところがある」
身長176センチ、体重85キロの25歳。定位置は司令塔のスタンドオフだ。高いゴールキックの成功率が注視されるが、ゲーム中の多くの時間はゲームコントロールに力を注ぐ。
プレーとプレーの合間に陣形を整え、手前に立ったフォワードの後ろから顔を出しては周辺にさばく。隙があれば自ら仕掛ける。
「プレーが切れた時にどうゲームにアプローチするかが大事です。どんなアタックをするのか、敵陣でプレーすべきかなど、より具体的にチームにメッセージを与え、リードすべきかなと」
大切なのは「目配り、気配り」である。
取材・文●向風見也(ラグビーライター)
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