
「常勝軍団を内側から見てみたい」お互いに要求し合うバチバチの雰囲気「学びが多かったですね」【伊藤翔のサッカー人生④】
2025シーズン限りで現役を引退した伊藤翔にロングインタビューを実施。19年のキャリアを振り返ってもらった。全11回のシリーズで、第4回は鹿島アントラーズ時代だ。
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横浜F・マリノスでの最終年だった2018年に、30歳の大台を迎えた伊藤。サッカー選手としての円熟期を迎え、本人はトリコロールのユニホームを身にまとって戦い続けるつもりだった。
そんな彼に突如としてオファーが舞い込む。常勝軍団・鹿島アントラーズの鈴木満GMから直々に誘われたのである。
「僕自身、マリノスがメチャクチャ好きで、外に出るつもりはなかったんです。でも鹿島から『来てほしい』と言われた時、『常勝軍団を内側から見てみたい』という気持ちになりました。2018年にACL(アジア・チャンピオンズリーグ)を獲得し、国内外合わせて20冠を獲得していた強いチームは一体、何が違うのか。それを外から見るのと、中から見るのとでは全然違うんだろうなと思って、すごく興味が湧きましたね。
それに自分も30代になって、サッカーをやめた後のことも多少は考えるようになりました。引退後にGMや監督、コーチ、あるいは協会の仕事など何らかの形でサッカーに関わっていくのであれば、鹿島というクラブを見ていくことは確実にプラスになるという考えもあって、移籍を決断しましたね」と、伊藤はベテランらしい目線を持ちつつ、国内3つ目のクラブへ赴いたという。
2019年の鹿島は、大岩剛監督体制3年目。前年のACL制覇に貢献した小笠原満男が引退、西大伍がヴィッセル神戸、昌子源がトゥールーズへ移籍。2019年夏にも安西幸輝がポルティモネンセ、安部裕葵がバルセロナ、鈴木優磨もシント=トロイデンへ赴くなど、主要メンバーが大きく入れ替わったことで、天皇杯こそファイナルまで勝ち進んだものの、無冠に終わってしまったのだ。
「それでも2019年は“鹿島らしさ”というのを感じましたね。現場の監督と選手たちはもちろんベストを尽くしていましたけど、会社の人たちの仕事への取り組み方もそうですし、組織としての方向性がしっかり定まっているのが、鹿島の強みなんだと分かりました」と彼は神妙な面持ちで語る。
その鹿島も2019年夏に経営母体が日本製鉄から現在のメルカリに移行。直後の2020年にはコロナ禍に突入し、強固な基盤が少し揺らぎかけたように感じられた時期もあった。
「僕はグルノーブル時代、日本のIT企業であるインデックスが撤退していくのを目の当たりにして、経営母体が変わるとクラブの雰囲気にも影響することを体験してきました。鹿島はそれほどの大きな変化はなかったですけど、やはりどこか違うなという印象を受けたのは事実です」と伊藤は率直な感想を口にする。
小泉文明社長も、筆者が今年2月に行なったインタビューで「2020年元日の天皇杯決勝で神戸に0-2で敗れた後、『ここからチーム力をアップさせ、経営面も高みを目ざしていかなければいけない』と感じた矢先にコロナ禍に突入した。目まぐるしく状況が変わるなか、お客さんの安心安全を守りつつ、財務的なところを健全化するということに奔走することになり、2022年くらいになってようやく平常運転になった印象です」と語っていた。そういった落ち着かない空気感を現場の選手たちも敏感に感じ取ったということかもしれない。
「さらに言うと、2020年はザーゴさんに監督が代わり、和泉(竜司)や永戸(勝也)、広瀬(陸斗)、杉岡(大暉)といった新たな選手が来ましたよね。そのうえでボールをつなぐスタイルに変えていこうとしていた。コロナで活動できない時期もあったりして、みんな戸惑いを覚えたと思います」と伊藤は言う。
そして8月末には、U-15日本代表時代からの盟友・内田篤人が異例の時期に引退してしまう。
伊藤自身が4月3日の引退会見で「印象に残るゴール」として挙げた、2019年3月の川崎フロンターレ戦のゴールは、内田のロングパスが起点だった。
鮮やかな左足トラップから右足で決めたビューティフル弾。内田との名コンビぶりを表現。それだけに、一足先に仲間がユニホームを脱いだことは、隙間風が吹くような感情に襲われたことだろう。
「結局、自分もこの年末に鹿島を出ることになりましたが、お互いに要求し合うバチバチした雰囲気というか、向上心の強さはやはり鹿島が抜けていました。もちろんマリノスにはマリノスの強さがありましたけど、鹿島では優勝を常に目ざしているチームらしい意識の高さは感じましたね。
僕は昭和生まれなんで、ストレートに意見を言うウッチーや優磨みたいな選手とやれたのは楽しかった。鹿島時代は時間的には短かったですけど、学びが多かったですね」
2020年の鹿島はJ1で5位と優勝争いから脱落した形でフィニッシュ。ルヴァンカップもベスト4にとどまるなど、伊藤はまたもタイトルに手が届かなかったが、難しい時期の鹿島に身を置いたからこそ、見えたものもあったはず。自分自身がそこからどうしていくべきかを考える良い機会になったのも間違いないだろう。
※第4回終了(全11回)
取材・文●元川悦子(フリーライター)
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