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「今までとまた違うピッチャーになれた感じがする」メジャー3年目で好スタートを切った今永昇太の“微速前進”<SLUGGER>

「今までとまた違うピッチャーになれた感じがする」メジャー3年目で好スタートを切った今永昇太の“微速前進”<SLUGGER>

カブスの今永昇太投手が「リスクヘッジ」という、野球界ではあまり聞かない言葉を使ったのは4月10日金曜日、リグリー・フィールドでのパイレーツ戦に登板した直後のことである。その夜、彼は今季3度目の登板で6回無安打無失点と好投しながらも打線の援護がなく、またしても勝ち星がつかなかった。

「打者が待ってない球を選択し続けることができたと思いますし、待ってる時に最低限リスクヘッジできたので、そこは良かった」

 リスクヘッジ(Risk Hedge)とは、将来、起こり得るリスクを予測し、それを最小限に抑えるための備えや対策のことだ。ビジネスではトラブル対応や損害の回避、金融投資では分散投資などの防御策を指し、「万が一の備え」や「保険をかける」と同じ意味で使われる。

「紙一重の部分ではあるんですが、試合前からミーティングとか自分なりのデータの研究を重ねて、まずその選択が合ってたのかどうか。試合中に関しては『今のは打者の方が少し上手だった』って、一瞬だけ切り替えることも必要。それを一球ずつ重ねていくことが大事ですし、今日は選択も良かった。なるべく長打を打たれない配球と質だったと思います」

 自主トレ期間中は、自分や周りの仲間を鼓舞するため「俺、最高。」と描かれたTシャツを着ているが、普段は他の多くの投手たち同様、「俺、凄いだろ?」などとは決して言わない人である。囲み会見の彼は、たとえ饒舌になっても謙虚な感じは失わず、そういう意味ではとても慎重だ。

 たとえば、今季は速球=4シーム・ファストボールの平均球速は昨季の時速90.8マイルから92.1マイルへと上がっている。わずか1.3マイル(約2キロ)の違いだが、日本メディアのみならず、米メディアも「今年は(球速が)出ている」という印象を持っている。セイバーメトリクス系の指標も軒並み上がっており、Run Value(得点価値)も、昨季の-10から4に上がった。じゃあ、その4シームで「打者を押し込めている感覚はあるのか?」などと尋ねると、こんな答えが返ってくる。「それは正直ないですね。(相手は)100マイルも打ち返す打者なんで。もちろん、球速アップのトレーニングは引き続きやらなきゃいけないと思いますけど、、93マイルの球をどうやったら96、7マイルに見せることができるんだ? ってのが大事なんで。93マイルの真っすぐを待ってる打者に(体感でも)93マイルの真っすぐを投げるのはちょっと危険なので、いかにそれを惑わしながら『忘れた頃の真っすぐが速い!』と思ってもらえるような、そういう配球が大事なんじゃないかなと思う」

 続く15日、今季4番目の登板となった敵地でのフィリーズ戦で、今永はメジャー自己最多タイの11三振を奪って、今季初勝利を挙げた。2ケタ奪三振は渡米後4度目だが、これまではすべて1年目の2024年の記録で、昨季は一度もなかった。

「三振に関しては、投げ終わった時に気がついたぐらいなので、11個も取れて良かったなという感想ですね。先頭打者に本塁打を打たれましたけど、頭の中ではこういう風に投げればもっといい球が行くはずだという閃きがあった。あの後、三人でしっかり抑えられたことが、結果的にターニングポイントかなと思います」

 昨季、本塁打と打点の二冠王に輝いた指名打者カイル・シュワバーは3打席連続の空振り三振。シュワバーと並ぶ主砲ブライス・ハーパーからも2三振を奪う圧巻の投球だった。

「信頼を崩すのは本当に簡単なので、こうやっていい試合、踏ん張る試合を続けていかないと、大事なイニング、大事な試合、大事な打者を任せてもらえなくなる。今はとにかく、地に足つけて、次もいい投球をするぞって言うよりは、また明日から丁寧な一日を過ごしていくことが大事」 喜んでばかりはいられない、というのが正直な心境かもしれない。シーズンはまだ始まったばかり。たったの4試合で今季のすべてを語れるわけがない。内容はともかく、成績だけなら去年も最初の4試合で2勝1敗、防御率2.70と悪くはなかった。今年は1勝1敗、防御率2.82である。

 目に目て明らかに違うのは、平均球速と腕の角度だろう。Arm Angle(腕の角度)は昨季の36度からデビュー年の40度に戻り、「上から叩く」ような投球フォームが再生された。

「腕を上げたことによって、下半身の動きもああこういうことかって、こう下半身を使えば腕が走るなっていう、今までになかった発見があった。(腕は)無理やり上げようとしているところもありますし、上げることによって、ホップ(伸びる)成分が出て、プラス上げた位置でスプリットも離せるスキルも上がってきたので、本当にもう、今までとまた違うピッチャーになれた感じがする」

 今までとはまた、違うピッチャー。

 そう、今永は昨季どころか、デビュー年の一昨年とも違うピッチャーに見える。

「自分の出したいボールの動きをしっかり一球一球修正して、試合ごとだったり、一球一球できていることを実感してます。たとえば、リグリー(のスコアボード)って縦の動きと横の動きが可視化されているじゃないですか。(今の球は)打者からはよく見えてなかったなとか、今のフォームと数字をかけ合わせた時にあまり脅威ではなかったなとか、(相手が)あまり恐怖心を持ってないだろうな、という予測の下、このフォームでこういうリリースをしたらどういう動きが出て、相手打者がこう見えるだろうという予測をして投げていける。そういう数値が出る球場では、どんどん利用していった方が良いなと思います」

  ほとんどすべての球場で可視化されている、Vertical Drop(垂直方向の落差)やHorizontal Break(水平方向の変化)は、https://baseballsavant.mlb.comで我々も見ることができる。MLBでは、投手コーチや分析官がタブレット片手に投球練習を見守るのが常であり、もはや、テクノロジーなしでは成立しない環境にある。

 今永のスウィーパーは昨季、Arm Angle(腕の角度)を下げて横幅の変化を大きくしたことで、前出のRun Valueは、持ち球最高の12を記録した2024年のスプリットに次ぐ8を記録した。ただし、すでに昨季中から、「いかにもスライダーを投げるぞって感じになる」(今永)と、取り組むべき課題としていた。

 実際、1月の自主トレーニングでは、なるべく腕の角度を下げないようにスライダーを練習しており、キャンプが始まり、日本がワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で盛り上がっている最中も、オープン戦や登板間の投球練習で微調整を続けていた。そこで実証されたのは、「自分の場合、(横の動きは)13インチあればいい」(今永)という事実だ。

 腕を上げて投げることで、メインとなる真っすぐ=4シームの陰で、密かに回転効率を意図的に落とした速球=2シームにも新たな活路を見出した。

「シームシフトを使えるようになったので、自分が曲げようとせずとも、ボールの縫い目で曲げることができるようになった。肘を下げて投げちゃうと、ボールの真後ろをリリースしちゃって、より回転効率が上がっちゃうんで、100%に近づいてしまう。上から投げることによって、カット気味に入ってくれて縫い目で動かすことができるようになった」
  正確には「シーム・シフト・ウェイク(Seam-shifted wake)」(SSW)。投球の縫い目(Seam)が非対称な向きにあることで気流が乱され、非対称な乱流が生じて、スピン移動量を超えた予期せぬボールの変化を引き起こす空力学的現象のこと。ボールの片側に「低圧」領域を作り出すことで、ピッチャーが2シーム、スイーパー、チェンジアップといった球種の動きを増幅させることを言語化したものだ。

「2シームを2シームとして投げちゃったら、悪影響あると思いますけど、今は4シームと同じような感覚で離せて、勝手に曲がってくれるので、その勝手に曲がるってのが一番大事だと思う。自分では曲がってないように見えても、数字上、曲がっているってのが一番いいんで。自分の目で見て、『ああ、曲がってる』って思うのはあまり良くない。その発見ができたってのも良かったことですね」

 打者から見ても、それは同じだろう。「ああ、曲がってきた」と思えば、対処もできるが、曲がってないように見える球が実は手元で微妙に曲がってきたら、簡単には対処できない。事実、15日のフィリーズ戦では、打者がドンピシャのタイミングでバットを振ったのに空振りしたり、強い打球を打っても引っ張りきれなかったりした場面がいくつかあった。

 昨季より平均球速の上がった4シームに、昨季より角度が上がった腕。昨季より横幅は少なくなったものの、彼自身が許容範囲で動かしているスライダーと、握りだけで勝手に曲がる2シーム。「何か一つ」ではなく、今までずっと考えてきてコツコツと積み上げてきたアイディアの具現化が、今季のピッチングに反映されているのかも知れない。 件のフィリーズ戦後、彼はこう言っている。

「こうやって抑えたら相手も対策してくるし、それを僕は越えようとしますし、やったやられたの世界なので、僕がやるべきことは、また次回対戦した時も変わらないマインドで、変わらないメカニズムで投げられるか。次に対戦した時も抑えられたらいい」

 弛まぬ向上心、などと書けば陳腐だが、一流のアスリートとはつまり、そういう人たちだ。

 今永昇太もその一人であり、現地4月21日に予定されている対フィリーズ第2ラウンドがどんな結果になろうとも、彼はきっと考え続けるのである。

文●ナガオ勝司

【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、アイオワ州のマイナーリーグ球団で取材活動を始め、ロードアイランド州に転居した'01年からはメジャーリーグが主な取材現場になるも、リトルリーグや女子サッカー、F1GPやフェンシングなど多岐に渡る。'08年より全米野球記者協会会員となり、現在は米野球殿堂の投票資格を有する。日米で職歴多数。私見ツイッター@KATNGO
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配信元: THE DIGEST

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