
メリル・ストリープとアン・ハサウェイが共演し、2006年に劇場公開された「プラダを着た悪魔」。一流ファッション誌の“悪魔”なカリスマ編集長の下で新米アシスタントが奮闘する物語は、ファッション業界に携わる主人公たちの華やかな装いの楽しみとともに女性たちの興味や関心を呼び起こし、大ヒットした。それから20年がたち、2026年5月1日(金)に続編「プラダを着た悪魔2」が日米同時公開される。再び世界中の女性が期待で胸を高鳴らせているということで、この機会にあらためて「プラダを着た悪魔」の魅力を振り返ってみたい。(以下、ネタバレを含みます)
■華やかだけど過酷なファッション誌の世界を描き、“働く女性のバイブル”に
「プラダを着た悪魔」は、ローレン・ワイズバーガー氏が自身の経験を基に執筆し、2003年にベストセラーとなった同名小説が原作。
主人公のアンディことアンドレア・サックス(ハサウェイ)は、大学卒業後、ジャーナリストを目指してニューヨークへと出てきた。就職活動が難航する中、ある出版社の人事部から返事をもらえて、面接に出向く。その仕事は、一流ファッション誌「ランウェイ」の編集長ミランダ・プリーストリー(ストリープ)のアシスタント。
おしゃれに興味がないアンディ。同誌を読んだこともなければ、ミランダという名前も知らなかったが、ミランダは彼女を採用した。
アンディが手に入れた世界中の女性たちが憧れる仕事。しかし、それは今まで何人もの“犠牲者”を出してきた。ケータイは朝から晩まで鳴り続け、横暴な命令が飛ぶ。キャリアのためとはいえ、私生活がどんどん犠牲になってしまうほどの過酷さだったのだ。
そんな仕事に悩みながらも挑んでいくアンディの姿に、世の女性たちは共感し、力をもらい、“働く女性のバイブル”と言われるようになった。
■名優メリル・ストリープが圧倒的存在感で悪魔な編集長を演じきる
カリスマ編集長がカリスマたる人物として見えるのは、アカデミー賞で俳優として史上最多となる21回のノミネート歴を持つ名優・ストリープだからこそ。その圧倒的存在感で“悪魔”と称される人物を成り立たせる。
ミランダがアシスタントに命じるのは、仕事に関することだけでなく、双子の娘やペットの世話、クリーニングの引き取りなどプライベートなことにまで及ぶ。説明は最小限で、投げかける視線、ピクッと動く眉で感情が伝わる。「以上よ」という口ぐせは、有無を言わせない圧力で、従うしかない。
20年前でも相当だが、現代であればなおのことパワハラで即問題になることだろう。ただ、ミランダの仕事への自負も超一流であることがしっかりと描かれる。
例えば有名になったのは、ランスルーといわれる、編集者たちが選んだ掲載するための洋服を確認する場面。編集者が同じ色でもデザイン違いのベルトで悩んでいるとミランダに相談すると、ファッションに疎いアンディはクスっと吹き出してしまう。2本のベルトが同じに見えるアンディは「こんなの初めてで」と言い訳するが、ミランダは「こんなの」と言われて憤る。
ミランダは、そのときアンディが着ていた青いセーターを持ち出して皮肉る。青の中でも“セルリアン”と呼ばれる色。ターコイズでもラピスでもない、セルリアンが市場に出回るにいたったのは、元をたどればミランダたちファッション業界が発信したから。アンディが着ている“青”は単なる“青”ではなく、「巨大市場と無数の労働の象徴」であり、それを先導する立場からすれば「こんなの」と切り捨てられるものではないのだ。ファッションに興味がなくても、選んで購入したものの裏にはミランダたちの仕事がある。自分とは全く関係ないといえるものではないということを示した。

■可憐さとスマートさを体現するハサウェイ
ジャーナリスト志望のアンディにとって、ミランダの下での仕事は「家賃稼ぎの仕事」であり、「1年我慢すれば望みの仕事に就ける」というもの。セーターの一件で「ミランダには負けない」とスイッチが入ったようにもなって、まい進する。初日には分からなかったデザイナーの名前も連絡先も頭の中に入れた姿が頼もしい。
とはいえ、ミランダはやはり横暴で、悪天候で出張先からニューヨークに戻るフライトがキャンセルになる中、プライベートの用事のためにどうにかして見つけろと命令。それができなかったアンディに、「失望させられた」と毒を吐く。
アンディは、ミランダの右腕的な存在であるアソシエイト・エディターのナイジェル(スタンリー・トゥッチ)に泣きつく。ちゃんとやり遂げたとしても認めてくれず、礼も言われないのに、失敗すると「悪魔」のようだと。だがナイジェルは「甘ったれるな」とピシャリ。アンドレアのいる職場は、「命を投げ出してもみんなが働きたがる」ところだからだ。
幼いときからファッションに憧れたナイジェルだけに少々盲目的でツッコミどころもあるのだが、ここでアンディはさらなる変化を遂げる。ナイジェルの助けで最先端のファッションに身を包みながら、面接でアピールした頭のキレと物覚えのよさも発揮して、甘えなしに仕事をこなす成長を見せる。
アンディがニューヨークの街を闊歩しながら次々とハイセンスな洋服に身を包んだ姿を映し出すのは、さながらファッションショーのようでもあって楽しい。同時にどんどん洗練されるアンディが自信に満ち溢れた表情になっていく。そうしてアンディは、ミランダの要望を一歩先回りして実現するスマートな“シゴデキ”女性へとなる。
■何度見返しても楽しく共感できる名作
タイトルにあるプラダなどさまざまなブランドのアイテムが登場する本作。そんな中でアンディにファッションのアドバイスをするナイジェルが絶対に欠かせないとしたブランドは「シャネル」。シャネルは、自らの手で運命を切り開く、自由で自立した女性を象徴するブランドで、それがアンディに投影されるようでもある。
クライマックスで、ミランダの第一アシスタントだったエミリー(エミリー・ブラント)を出し抜いてパリコレに同行するまでに仕事ぶりが認められたアンディ。しかし、そこでミランダのキャリアに驚くべきことが起きようとしていることが分かる。アンディはミランダに知らせようと慌てる姿は、ミランダのことを“ボス”と思っていることが分かる場面だ。ただ、そこでさらにひと波乱。ミランダはやはり強者であるのだ。
それによりアンディにも変化の潮目が訪れる。パリコレに同行したのは命じられたからではなく「あなたの決断」と言われたアンディは、今度は流れの中ではなく、自ら決断をする。
本作はきっと見返すごとに、そのときの年齢や状況で刺さるものが変わる。若ければ、アンディが働くキラキラした職場やファッショナブルさに目を奪われて憧れる。ミランダにはただただパワハラ上司という目を向けるかもしれない。ミランダへのその印象は、社会人になって数年でも変わらないが、アンディの優秀な仕事ぶりに触発される。アンディに意地悪しても、自分が望む仕事をしているエミリーにも。
また、アンディが変わってしまったと嘆くアンディの恋人や友人たちには、同情よりも、生き生きと仕事をしていることへの嫉妬や焦りが混じっているのではと感じられるようになる。そしてさらに自らがキャリアを重ねていったところで見返すと、仕事に命をかけるミランダやナイジェルから得るものがある。
長く愛される作品というのは、何度見返しても発見があることが多いように思う。称賛だけでなく、考えさせられるものがあり、さまざまな意見が交わされる。
考える余地でいえば、もしジャーナリスト志望のアンディがミランダのスケジュール管理やアポイントを代行するアシスタントではなく、「ランウェイ」で記事を書いたり、編集者だったりしたらどうだったろうと思ったことがある。雑誌を一緒に作るスタッフとして向き合ったらまた何か違っただろうか。それが続編の「プラダを着た悪魔2」では実現するようだ。アンディが特集エディターとして、ミランダがカリスマ編集長として君臨するランウェイに戻ってくるという。
続編で新たなステージに立っているアンディやミランダたちと再会する前に、第1作で彼女たちの世界に浸ってみてほしい。今の自分はどんなことを感じるだろうかと。
「プラダを着た悪魔」は、ディズニープラスにて見放題配信中。
◆文=ザテレビジョンシネマ部

