☆再び9回のマウンドへ戻った19番
ルーキーイヤーから9回のマウンドを託され、“小さな大魔神”として球界を代表するクローザーに君臨していた山﨑康晃。2023年シーズン終了時には227までセーブを積み上げ、名球会入りという金字塔は、すぐ目の前にあるはずだった。
しかしここ2年間で挙げたセーブはわずか5。昨年はファーム調整が続くなど、かつての面影を失いかけた。
しかし今年は違う。肉体改造にフォームの是正、第3の球種の取得。「覚悟」をもって野球と向き合った。結果開幕から守護神の座を掴み、ここまで6セーブ、防御率1.13とチームの期待に応える活躍を見せている。
忸怩たる思いを抱えた2年間も今はポジティブに受け入れる。
「僕には必要な時間だったと思っています。そこにはいろいろな思いがありましたけれども、それを含めて今しっかり立ち直せているので、決して無駄ではなかったです」
開幕して約1か月。表情も必然的に明るくなっている。
「自分の本来のストレートが投げられていると思いますし、冷静に自分のやらなくてはならないことも整理できていますね」
ファンも待ちわびていた“9回のヤスアキジャンプ”にも「やっぱりすごいですよね。本当にパワーをもらえる僕の一つの武器だと思っているので。お客様も高揚していることも含めて、一緒に球場で戦っていると改めて思います」と後押しに感謝する。
「やっぱり僕は気持ちで投げるピッチャーなんで、ピンチの時にはギアも上がりますしね。9回をずっと投げていたときの感覚に少しずつ戻ってきている感じはありますね。心と身体がちゃんと向き合って来ています」
☆小杉コーチが語る球種と9回起用
山﨑本人も手応えを感じているストレートは最速152キロ、被打率は.118。生命線のボールの復活を、小杉陽太チーフ投手コーチも高く評価する。
「ストレートのホップ成分が効いているので、ゾーンの中にどんどん投げていっています。今までは見逃しでストライクを取る、どちらかでいうとコマンドで行っていたのですが、今は空振りやファウルでカウントアップをしていけています」
浮き上がるストレート。それがあるからこそ「ツーシームも、ホップするストレートとの差なので。だから効いてくるんです」と伝家の宝刀の落ち球も有効になってくると説いた。
第3の球種スライダーも「相手もノーマークのボールではなくなりましたね。イタチごっこの中で今後スライダーの割合が増えるかも知れないですしね」と投球の幅が広がったことを強調した。
クローザー起用について、本人は「気持ちで投げるピッチャー」と言い切り、9回を投げることでのアドレナリン効果も認めている。しかしコーチの視点は極めて冷静だ。
「彼を9回に起用する側としてはアドレナリンうんぬんは考えていないですよ。投げているボールの質が高いので、投げるべくして投げているだけです。いいパフォーマンスをオープン戦からずっと見せてくれているので、彼をチョイスしているだけです」
☆復活ロードの要因
2年の時を経て再び掴んだ守護神の座。そこに至る過程にはチームとしての戦略があった。
「昨年の秋から、信じてくれってずっと言い続けていたんです」と小杉コーチは明かす。
さながらそれは”山﨑康晃復活プロジェクト”。「僕も入来さんも(祐作投手コーチ)、バイオメカニクスもR&Dも。データの観点から見ても復活できるし、もっとやれるんだよって言いました。ただそこの乖離を埋めるには自分しかないんだよってところを受け入れてくれたからです」
自分を変えるための新たな取り組み。「いまは体組成も自分から気にしてくれています。トレーニングに対する意識も変わったし、これは彼の努力の結果です。ただしこれはいいときも悪いときも通年やるよって本人と話しています。彼もやることでパフォーマンスが上がることを体感しているのでね」。
インステップの微妙な修正など、繊細な技術改善も継続中だ。
「自動化されつつはあるのですが、クセで今まで通りに戻ってしまう可能性もあるんです。無意識に自動化することはそんなに簡単なことではないので、トレーニング同様、ずっとやっていきます」☆己のために、“家族”のために
ゲームを締め、セーブを積み重ねる。その一方でリーダーとしての役割も忘れない。ゲーム序盤にはベンチに入り、仲間を鼓舞し、ケアもする。
「ピッチャーミーティングで誰もが全員、リスペクトを持とうって言い出したは僕。ならば僕が率先してやらないといけないですよね。ピッチャー陣は家族。みんなのマウンドなので、一人になるような空間は作らないようにして、全員でバックアップできるように、支え合っていけるようにしてくことが必要なんです」
もちろん通算250セーブも視野に入る。
「あと12ですね。でも気負わず、自分のできることをしっかりとやることだけを考えて、コンディションを保ちながら頑張ります」
聖地・横浜の9回。青く染まったスタンドが揺れる中、山﨑康晃は再び、絶対的な守護神としての道を歩み始めた。
取材・文●萩原孝弘
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