甲子園球場が騒然となった。悲鳴が上がり、怒号とざわめきがしばらく消えなかった。
4月26日、阪神×広島5回戦。阪神1点リードの8回二死、走者なし。広島・高太一の151キロ直球が近本光司の左手首を直撃し、近本はその場に崩れ落ちた。しばらく立ち上がれず、トレーナーとともにベンチへ。そのまま途中交代となった。
試合中に病院へ直行した近本は「今から病院なので、僕の口から言えることはありません」とだけ残して球場を去った。
診断結果は「左手首の骨折」。全治は未発表だが、手首骨折は固定とリハビリを合わせると、2カ月以上を要するケースが多い。前半戦中の復帰に大きな影を落とす負傷と言える。
今季の近本は開幕から全試合スタメン出場で打率2割5分、6盗塁。数字だけではない。阪神の得点パターンは近本の出塁から始まることを基本としており、1番センターの空白は、チームのリズムそのものを狂わせる。藤川球児監督は「あまり当たりどころがいいとは言えない」と表情を曇らせた。
前日の同カードでも、森下翔太が初回に左手首付近への死球を受けていた。森下は翌日もスタメン出場したが、連日の死球禍に藤川監督は、異例の言及。
「相対的に見て、ちょっと多い。野球を守らなければいけないので、グッと我慢をしています」
追い込む必要がある状況でもない場面でのインコース直球には、配球そのものへの疑問が生じてもおかしくはない。
復帰後の打撃が低迷した「手術後の感覚変化」
阪神では過去に似た場面があった。今岡誠は2005年に147打点で打点王を獲得、リーグを席巻したが、翌年6月17日のオリックス戦でウェス・オーバーミューラーから死球を受けて右手尺骨の骨挫傷を負い、持病だったばね指の手術に踏み切った。
復帰後は代打での出場にとどまり、シーズン全体で59試合、打率2割2分1厘、29打点に終わった。微妙な感覚の乱れが生じたのか、次第に打撃は低迷した。骨の問題というより、手術後の感覚の変化が打者としての精度を狂わせた可能性が指摘されている。
問題は、骨が癒えた後だ。近本はプロ入りから7年連続で規定打席に到達し、昨年まで全シーズンでタイトルを獲得してきた打者だ。今岡が経験したのは、骨が戻っても打撃感覚は戻らないという現実。その精密なバットコントロールが、左手首への衝撃を経てどう変化するか。骨の状態はレントゲンで確認できる。感覚の変化は、打席に立ってみるまで誰にもわからない。
(ケン高田)

