青木真也と川尻達也と宇野薫が笑顔で並び、集合写真に収まっている。こんな光景が、まさか2026年に見られるとは。しかもここはプロレスのリングなのだ。
4月20日、青木は初のプロレス自主興行『エイオキクラッチ01』を新宿FACEで開催した。MMAファイターとしてPRIDE、ONEなどで活躍してきた世界レベルの寝技師は、ここしばらくプロレスにも。IGFを経て現在はDDTなどで存在感を示している。
青木がここまでプロレスにのめり込むとは予想できなかった。DDT参戦当初にインタビューすると「試合前もなるべく控室にいないようにしてます」と言っていた。あえて周囲となじまず“異物”であろうとしたのだ。
ただプロレスラーは一つの興行を作り上げていく“一座”であり、プロレスとは一種の団体競技だ。青木はその奥深さに感応したし、周りの選手たちも青木の技術と対応力、プロレスに取り組む姿勢をリスペクトしていった。青木は格闘技界の異端児だ。だけどプロレス界は、異端の中の純粋さを受け止めた。青木自身も年齢を重ね、プロレスを吸収することで人間的にもプロとしても幅を広げたように見える。
チケットがあっという間に完売した初の自主興行には、DDTはじめさまざまな団体から選手が参戦した。本戦前の宮脇純太vs高鹿佑也から熱のある攻防が展開。中継の解説を務めたのはスーパー・ササダンゴ・マシンだ。超多忙な中でスケジュールを調整し、大会開始前の“煽りパワーポイント”で客席を温める。
第1試合はエル・リンダマンvs阿部史典。コアなプロレスファンにはたまらない実力者同士の初シングルマッチだ。オールラウンダー同士。シビアなグラウンド戦も予想していたが、2人は“笑い”の要素も多めにした攻防で沸かせまくった。ササダンゴのパワポに続いて、これで観客たちのノリがギュッとまとまっていく。
超満員の観客、その最大公約数は“青木真也がやることに興味がある人たち”だろう。格闘技の青木しか知らない人も、プロレスはDDTしか見たことがないという人もいたはず。そんな観客たちがこれまで知らなかった選手を“発見”していくのも、オールスター的自主興行の醍醐味だ。
第2試合ではセンダイガールズの橋本千紘が愛海と組み、パワフルな“怪物”ぶりで驚愕させる。対戦したマリーゴールド所属、山岡聖怜と山﨑裕花の果敢な闘いぶりも印象に残った。
第3試合は男色ディーノvs川尻達也の超異色カード。“クラッシャー”の異名で日本MMAのトップを張り、UFCにも参戦した川尻はこれがプロレスデビュー戦にして引退試合。「青木が生きがいにしているものを味わってみたかった」という。
試合はパンチ、キック、関節技で攻め込まれつつ、ディーノが川尻の尻と股間と唇を狙う。川尻は掟破りの逆リップロックまで繰り出したが、最後は男色ドライバーを食らって3カウントを聞いた。 セミファイナルには宇野薫が登場。久々のプロレス登場となる宇野は現DDTのエースである上野勇希とタッグを組み、T-Hawk&黒潮TOKYOジャパンと対戦した。宇野は敗れたもののテーブル上でのパイルドライバー、T-Hawkのチョップなど強烈な技を受けまくり、さらに黒潮の代名詞であるジャケットを着込んで目を釘付けに。
宇野も川尻も、もともとはプロレスファン。「三沢光晴のエルボーならヒクソンに勝てると信じてた」と川尻。この日のコスチュームはパープルで、実は高田延彦オマージュだった。
彼らが格闘家としての実績にあぐらをかくことなく、プロレスという“沼”に飛び込んでいったことで『エイオキクラッチ』という興行に抜群の雰囲気が生まれた。加えて参戦したレスラーは青木が全幅の信頼を寄せる、当代一流の“できる”選手たちばかり。
青木と川尻、宇野は同時代を闘ったライバルであり、戦友と言ってもいい。PRIDE活動休止後の格闘技界を生き抜いてきた。今回、青木は主催者として宇野と川尻に「とにかく楽しんでほしかった」という。自分がプロレス界で出会った魅力的なレスラーたちを戦友に、そしてファンに紹介していく。そんな大会だった。
「みんなプロフェッショナル。誰も一切手を抜かなくて」
青木はそう感謝を語っている。オファーされた選手たちは、全員が「青木のために」と、その場で求められる最上級の仕事をした。
そしてメインは青木とケンドー・カシンのシングルマッチ。青木にとって、カシンは少年時代からの憧れだった。知り合ってからはMMAの試合でセコンドについてもらったこともある。つまり精神的支柱。自主興行としてこれしかないというカードで、青木は勝った。フィニッシュは大会名でもあるエイオキクラッチだ。
プロレス流のグラウンドから場外戦、レフェリーのブラインドをついた反則に誤爆と、2人は存分に“プロレスらしいプロレス”を展開した。青木は“格闘家のプロレス”ではなく、カシンの影響を受けながら作り上げた“青木真也のプロレス”をしていた。
青木はカシン戦を「答え合わせ」と言っていた。もうすぐ43歳。43年生きてきて、辿り着いたのが“ここ”だった。
試合後には「今年は格闘技の試合やります」と、昨年11月以来のMMA“復活”も宣言。自主興行の第2回は「また一生懸命試合して、お金稼いでやります」。
自主興行で稼ぐのではなく、稼いだ金でやるのが自主興行。ここは自分の“居場所”だから、金儲けをするつもりはないというわけだ。
それにしても、青木は素晴らしい“居場所”を作った。忖度しないしクセが強い人間から好き嫌いが分かれるタイプではある。それでもプロであることを貫いて、円熟度を増して、これだけの仲間ができた。noteやYouTubeを通して自分の考えた言葉を練り上げてもきた。そうしてできた『エイオキクラッチ』という大会そのものが、青木真也の人生の答え合わせだったのではないか。
取材・文●橋本宗洋
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