
ショッピングモールや駅、病院などでトラブルが起きたとき、真っ先に駆けつけるのは誰でしょうか。
ニュースで危険な出来事を耳にすることもありますが、現地で人々の安全を守ろうとしているのはだれでしょうか。
警備員たちです。
しかし実は、その“最前線の守り手”の多くが、十分な報酬や訓練を受けていない可能性がああります。
アメリカのカリフォルニア大学バークレー校(UCB)は、州内に約18万6000人いる民間警備員について、統計データをもとに賃金や労働環境、離職率などを分析し、その結果を報告しています。
この報告書は、UC Berkeley Labor Centerが2026年4月に公表したものです。
目次
- 警備員への待遇の悪さが明らかになる
- 低賃金・訓練不足・高離職が生む“安全の不安定さ”
警備員への待遇の悪さが明らかになる
警備員という仕事は、私たちの日常に深く関わっています。
商業施設や病院、学校、建設現場など、あらゆる場所で人々の安全を守り、トラブルの仲裁や危険の初期対応を行います。
こうした役割の重要性から「エッセンシャルワーカー(社会維持に不可欠な職種)」にも位置づけられています。
警備員は暴力的な状況に直面することもあり、決して負担の軽い職業ではありません。
それにもかかわらず、その待遇や訓練がどの程度整っているのかは、これまで十分に注目されてきませんでした。
そこで研究チームは、「社会の安全を担う仕事に対して、現実の労働条件は見合っているのか」という問いを出発点に調査を行いました。
研究では、アメリカ国勢調査の一部であるアメリカン・コミュニティ・サーベイ(2019〜2023年)や労働統計データを用い、カリフォルニア州の民間警備員の賃金、労働時間、保険の有無、離職率の推移などを分析しました。
これは州全体の労働統計を使って、約18万6000人規模の警備員労働市場の実態を把握する調査です。
その結果、警備員の多くが低賃金で働いており、生活に必要な収入を得られていないこと、さらに離職率が極めて高いことが明らかになりました。
つまり、人々の安全を守る責任が大きい仕事であるにもかかわらず、その仕事を支える賃金や保険、訓練の仕組みが不安定であることが示されたのです。
より詳細な結果とこの問題が及ぼす影響を次項で見てみましょう。
低賃金・訓練不足・高離職が生む“安全の不安定さ”
調査の結果は、警備員の置かれた状況の厳しさを具体的な数字で示しています。
カリフォルニア州における警備員の中央値の時給は20.09ドルで、州全体の労働者の中央値時給28.16ドルを大きく下回っていました。
さらに44.5%が「低賃金労働者」に分類され、約80%は生活に必要な水準の賃金に届いていません。
加えて、福利厚生も十分とは言えません。
フルタイムで働く人が多いにもかかわらず、本人または同じ世帯の家族の雇用主・労働組合を通じて健康保険を得ている人は54.4%にとどまり、低賃金層では44.7%まで下がります。
現場で危険に直面する可能性がある仕事でありながら、医療面の備えが弱い人が少なくないのです。
そして特に重要なのが、離職率の高さです。
警備サービス部門の年間離職率は、2024年のカリフォルニア州で91.6%に達していました。
これは、従業員数に対して非常に多くの人が毎年職場を離れていることを意味します。
現場の顔ぶれが短い期間で大きく入れ替わりやすい職場だということです。
人が定着しなければ、経験やスキルの蓄積も難しくなります。
過去の研究では、離職率が上昇すると業務の質が低下することが示されています。
実際に空港の保安検査では、離職率の上昇に伴って危険検知能力が低下するという結果も報告されています。
さらに問題を深刻にしているのが、訓練の不足です。
警備員はトラブルの仲裁やルールの徹底など、警察に近い役割を一部担うことがあります。
しかし訓練内容は地域によってばらつきがあり、最低限にとどまるケースも少なくありません。
その結果、現場で求められる判断力や対応力が十分に育たないまま、実務に就いている可能性があると指摘されています。
これらの要素は、互いに絡み合っています。
低賃金は、人材が定着しにくくなる一因だと考えられます。
人が定着しなければ経験やスキルは蓄積されず、サービスの質が安定しません。
そこに訓練不足が重なれば、複雑で危険な状況への対応力も下がりやすくなります。
つまりこの研究が示しているのは、警備員の労働環境の問題が、そのまま公共の安全の問題につながるという構造です。
安全を守る人たちの基盤が不安定であれば、その安全自体もまた不安定になるのです。
参考文献
Low wages, poor training put security guards — and the public — at risk, study finds
https://news.berkeley.edu/2026/04/23/low-wages-poor-training-put-security-guards-and-the-public-at-risk-study-finds/
Demographic and Job Characteristics of the Security Guard Workforce in California
https://laborcenter.berkeley.edu/demographic-and-job-characteristics-of-the-security-guard-workforce-in-california/
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

