リグリー・フィールド名物の外野フェンスの蔦が、半分ぐらいは新緑になり始めた4月22日水曜日、カブスは7対2でフィリーズに勝利し、今季最長の8連勝を決めた。
この日の話題は、負傷者リスト(IL)入りしていた左腕エースのマシュー・ボイドが、5回途中2失点で復帰したこと。だが、フィリーズの救援陣が踏ん張って序盤の4対2のまま、試合が膠着状態に陥った5回、2試合連続の今季2号本塁打を放った鈴木誠也もヒーローの一人である。
「チームのその流れに乗ってじゃないですけど、どんどん攻撃的にいけたらいいなと思って打席に入ってますけど、いい形になってる。いいと言ってもまだ2試合。しっかりチームが勝てるように貢献していくだけだと思うんで、最低限、自分なりのことはしっかりやっていこうかなと思ってます」
ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)準々決勝のベネズエラ戦で二塁にヘッドスライディングした際に左膝を故障。その試合で敗退し、侍ジャパンからチームに復帰後、すぐさまリハビリを始めた。
最初は物々しいギブスをはめてのウォーキング。次にジョギング、そしてランニングといった具合に、徐々に負荷を増やしていった。当時、彼はこう言っている。
「こういう展開っていうのは予想してなかったので、残念な気持ちではありますけど、なってしまったことは仕方ない。痛みが引いてからでないと、やることも増えていかないので、まずは痛みをしっかり取って、やれることを増やしていきたいなと思う」
プロのアスリートのリハビリというのは、そういうものなのだろうけれど、キャンプ中はギブスをはめたまま、ペースは上がった。軽い屈伸運動やダッシュは当然、室内ケージで打ち込んだり、比較的、長い距離でキャッチボールをしたり。「完治してるんですか?」と尋ねると、「んな簡単なわけないでしょ」と即答する中、復帰に向けて粛々と、リハビリが進んでいった。 正式にIL入りしたのは、開幕ロースターが発表された開幕前日の3月25日(22日にさかのぼって適用)。開幕してからもチームには帯同しており、ギブスが取れたかと思えば、外野ノックを受けたり、ベースランニングをしたり。最終的には二塁スライディングをして、実戦復帰「OK」のサインが出た。
チームがクリーブランドに遠征した4月3日、鈴木はテネシー州ノックスビルという小さな町で、傘下の2Aスモーキーズというチームで調整試合に出場。8日までの5試合で14打数6安打(打率.429)、OPS1.042を記録して、10日のパイレーツ戦からメジャーに復帰した。
「しっかり戻ってこれたので良かったですし、早く戻ってきたかったので、まず、無事一戦を終えたのは良かったなと思います。正直、怪我しないように、とは思いながらやってた。ちょっと寒さもありましたし、気持ちが高ぶるところもあったので、あまり思いきって100(パーセント)で行くのも怖かったので、徐々にっていう感じでやっていきたいなと思います」
復帰後もしばらくは、右膝に特製サポーターを装着してのプレーである。打つ・守るについては問題ないが、走ることに関しては慎重にならざるを得ない。それでも早期復帰を促されたのは当時のカブスが6勝7敗と負け越し、ナショナル・リーグ中地区最下位に低迷していたからだ。
開幕からたった2週間で何を慌てることがあるのか? とは思ったが、昨季、規定打席に達したカブス打線で最もOPSが高かったマイケル・ブッシュ一塁手(.866)がスロースタートで同4割台。ブッシュの次にOPSが高かったカイル・タッカー外野手(.841 現ドジャース)の打線における後釜、アレックス・ブレグマン内野手は6割台、昨季OPS7割台のピート・クロウ=アームストロング中堅手は5割台と、2026年型のカブス打線の迫力不足は尋常じゃなかった。
もちろん、最初からすべて上手くいくわけがない。
10日の復帰戦でいきなり初安打を記録したものの、最初の7試合で期待された長打はゼロ。その後の3試合では安打も出ず、19日には昨年9月から続いていた連続出塁が15試合で止まった。
鈴木を「勝負師だな」と思うのは、実はこういう時である。
17日のメッツ戦で千賀滉大投手から右前に適時打を放ってチームの3連勝に貢献すると、彼はこう言った。
「シーズン長いんで、まだ始まったばかりですし、こうやって打てる時もあれば、打てない時もある。追い込まれていたんで、フォークだったり、カッターだったり、(球種が)いろいろあるし、真っすぐもスピードがあるんで、なかなか難しいけど、打球は良くなかったですけど、しぶとくヒットになったので良かったかなと思いますよ」
今はあっちにしか打球が飛ばない、と彼は続けた。
「手を出しちゃダメな球に手を出してしまうとか、今は正直、あんまり球を見極められていない。まだ試合数が少ないんで、これからだとは思いますけど、試合に出ている以上は悪いなりにも最低限っていう気持ちでやっていかないと」
一流の打者は考えるのを止めない。どんなに結果が出ない時でも、考えに考え抜いて、不調の出口を探し求めるものだ。彼らにとって酷なのは、答えが見つからなくても毎日試合に出場しなければならないことだろう。
「もちろん、フラストレーションも溜まりますし、いろいろ考えることも増えたりしますけど。考えてたら試合にならなくなるので、相手との対戦ということでしっかりやっていかなきゃいけない。良い時、悪い時は絶対にあるんで難しいですけど。しっかり切り替えてその日その日のプランをしっかり立てて、やっていければいい」
鈴木は21日のフィリーズ戦で推定飛距離約134メートルの場外本塁打を放つと、「あれぐらいからですね。しっかり引っ張るというか、打つポイントが良くなってきたなってのはある」(鈴木)と、冒頭の2号本塁打、そして、23日にも6対6の同点に追いつかれた8回、一事は勝ち越しとなるソロ本塁打を放った。3試合連続は昨年9月25日から4試合連続を記録して以来、メジャーリーグ移籍後2度目である。
チームは9回に救援投手が打たれて、再び同点に追いつかれたが、延長10回、ダンズビー・スワンソンのサヨナラ打で9連勝を飾り、16勝9敗(勝率.640)でレッズと並んで中地区首位に立った。
「まだ始まったばかりだけど、こういう勝てる試合を落とさず、しっかり勝てているのはいいと思います。チームの状態がいい時に勝ち貯めじゃないけど、確実に勝っていくのが大切なこと。そういった意味で、最後まで粘り強くやれたのは良い」
今はまだ長いシーズンの序盤に過ぎず、これからも調子の波は何度となく、訪れるだろうが、鈴木誠也とカブスはようやく、本来あるべき道のりを歩み始めたのである――。
文●ナガオ勝司
【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、アイオワ州のマイナーリーグ球団で取材活動を始め、ロードアイランド州に転居した'01年からはメジャーリーグが主な取材現場になるも、リトルリーグや女子サッカー、F1GPやフェンシングなど多岐に渡る。'08年より全米野球記者協会会員となり、現在は米野球殿堂の投票資格を有する。日米で職歴多数。私見ツイッター@KATNGO【画像】大谷真美子さんら世界の美女がずらり! 常勝軍団ドジャースの名手たちを支える“ゴージャスでセレブな妻&パートナー”を一挙紹介!

