
西暦79年、イタリア・ナポリ近郊にあった古代都市ポンペイを襲ったヴェスヴィオ火山の大噴火。
その瞬間、人々はどのようにして生き延びようとしたのでしょうか。
最新の発掘と人工知能(AI)による解析から、ある男性が「すり鉢を盾にして」逃げようとしていたことが明らかになりました。
伊パドヴァ大学(UNIPD)とポンペイ考古学公園の共同研究によって、この劇的な最期の瞬間が浮かび上がってきたのです。
目次
- 降り注ぐ「火の石」から身を守ろうとした人々
- AIが再現した「最後の逃走」
降り注ぐ「火の石」から身を守ろうとした人々
今回注目されたのは、ポンペイの城壁外にあるポルタ・スタビア墓地付近で発見された男性の遺体です。
彼は噴火のさなか、海岸へ逃げようとしていたと考えられています。
発掘調査の結果、この男性は火山礫と呼ばれる小さな岩や溶岩の破片が降り注ぐ中で命を落とした可能性が高いことが分かりました。
火山噴火というと溶岩の流れを思い浮かべがちですが、実際には空から降り続ける高温の石の雨も、極めて危険な脅威となります。
そして決定的だったのが、遺体の状態です。
男性はテラコッタ製(粘土を素焼きしたもの)の「すり鉢」を手に持ったまま発見されました。
考古学者たちはこれを単なる偶然ではなく、頭部を守るための即席の盾として使っていたと解釈しています。
【実際に発見された男性の遺骨の画像がこちら】
さらに古代ローマの記録でも、同様の行動が確認されています。
ローマの著述家である小プリニウスは、噴火の際、人々が枕などを頭にかざしながら逃げていたと記しています。
つまり、この男性の行動は特別なものではなく、極限状況の中で人々が選んだ「現実的な防御策」だった可能性があるのです。
AIが再現した「最後の逃走」
この男性の最期は、さらに新しい技術によって鮮明になりました。
研究チームはAIと画像処理技術を組み合わせ、骨格や発掘データをもとに彼の姿と行動を再現したのです。
再現された姿では、男性は暗い早朝の中、荒れた道を走りながら頭上にすり鉢を掲げています。
周囲は火山灰と瓦礫に覆われ、背後ではヴェスヴィオ火山が噴煙を上げている様子が描かれています。
【チームが再現した復元画像がこちら】
この男性が亡くなったのは、噴火が本格化した初期段階と考えられています。
発掘された位置や堆積物の分析から、彼は大量の火山礫が降る中で逃走を試みたものの、防ぎきれずに命を落としたと推定されています。
また彼は、油ランプや鉄製の指輪、そして10枚の青銅貨を持っていました。
これらの持ち物は、彼がただ逃げるだけでなく、暗闇の中での移動やその後の生活も見据えていた可能性を示唆しています。
極限状況にあっても、人は「その先」を考えて行動していたことがうかがえます。
ポンペイ考古学公園の責任者であるガブリエル・ズフトリーゲル氏は、AIの活用について「膨大な考古学データを理解し、より没入感のある形で古代世界を伝える手段になる」と述べています。
今回の復元は、単なる再現を超え、人間の行動や心理に迫る試みでもあるのです。
参考文献
AI Recreates Horrific Final Moments Of Pompeii Victim Who Tried To Escape Disaster Using A Terracotta “Shield”
https://www.iflscience.com/ai-recreates-horrific-final-moments-of-pompeii-victim-who-tried-to-escape-disaster-using-a-terracotta-shield-83334
Archaeologists at Pompeii use AI to reconstruct the face of a man killed in the volcano’s eruption
https://phys.org/news/2026-04-ran-vesuvius-coins-lamp-mortar.html
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

