
不慮の事故で流れを失ったバルサ。戦略遂行はほとんど完璧だったが…【コラム】
孫子曰く「その愛するところを奪わば、すなわち聴かん」という教えがある。敵が大軍で、整然とした陣立てをして、一向に隙が見えない、というとき、どのような手立てをとればいいのか。その極意は、敵が重視している地点を奪い取ることにあるという。敵は必死にそれを取り返そうと、整えた陣形を崩すはずで、まずはそこを襲うべき、という兵法だ。
言うまでもないが、敵が重視している地点を奪い取ることは簡単ではない。至難の業である。しかし、それは敵の強さの電源のようなもので、そこを封鎖することで一気に流れを逆転できる。さもなければ、戦況はどのみち厳しくなってしまうのだ。
UEFAチャンピオンズリーグ(CL)準々決勝2レグ、バルセロナは第1レグで0-2とホームで敗れ、2レグはアウェーで絶体絶命だった。アトレティコが固めた砦は難攻不落で、おまけに奇襲攻撃を得意とするだけに、攻撃的なアプローチは命取りだったが、バルサはハイラインを取っただけでなく、サイドからではなく、最も堅牢な中央からの攻撃を試みている。
そして開始早々、ハイプレスからボールを奪い取って、ラミネ・ヤマルが先制点を決めた。
バルサはアトレティコが誇る中央の守りを攻め立て、主導権を握っている。そして24分には波状攻撃から、真ん中でダニ・オルモがボールを受けると、正面を走るフェラン・トーレスの足元にスルーパス。フェランはこれを前にトラップし、一度シュートモーションを入れることでタイミングをずらし、ファーサイドに叩き込んだ。
アトレティコはどうにか事態を収束しようとして、焦りが見え始めていた。このまま一気に崩れてもおかしくはなかった。自慢の守備は役に立たず、圧倒されている心境だったに違いない。
しかし、バルサに不運が襲う。フェルミン・ロペスが決定機に頭から突っ込んで、シュートは惜しくもはじき出されたが、そのときにGKの足が鼻に当たって出血し、しばらく試合が中断。これで流れが変わった。
再開後、アトレティコは気持ちを整理したようにボールをつなげると、アントワーヌ・グリーズマンがフリックパスで、バルサのハイラインを餌食にする。そして右サイドをマルコス・ジョレンテが爆走し、逆サイドのルックマンに合わせ、1点を返した。これで潮目が変わったように、アトレティコは落ち着きを取り戻していた。
バルサはこの試合は勝利したが、2試合合計で及ばなかった。彼らの戦略遂行はほとんど完璧だったが、不慮の事故で流れを失っている。それもフットボールだ。
文●小宮良之
【著者プロフィール】こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。
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