
なぜヴィニシウスはセレソンで輝けないのか――アンチェロッティが明かした評価と課題【現地発】
近年、ブラジルで頻繁に投げかけられ、それにもかかわらず誰もが納得できる説明が見出せていない疑問がある。
「なぜヴィニシウスは、レアル・マドリーで見せるレベルのプレーがセレソン(ブラジル代表)でも発揮できないのか」
2018年7月に加入して以降、R・マドリーでは今年4月30日までに公式戦通算372試合に出場して125得点、1試合平均0.34得点を記録している。これに対し、セレソンでは47試合でわずか8得点、1試合平均は0.17得点。クラブでの数字のちょうど半分にとどまる。
これまでブラジル国内のメディアは、主に以下のような理由を挙げてきた。
1)R・マドリーでは周囲の選手が彼をサポートする役割を担い、攻撃に専念できる。一方でセレソンでは他のアタッカーも自己主張が強く、得意な形が作りにくい。
2)セレソンでは監督交代が相次ぎ、そのたびに戦術が変化してきた。対してR・マドリーはチーム戦術が一貫していて、役割が明確。
3)ネイマールが絶対的がエースだった時期には、その存在に配慮しながらプレーしていた。
いずれも一定の説得力はある。しかし、1)と2)については、バルセロナ時代のネイマールも似た環境にありながら、クラブとセレソンの双方で高い得点効率を維持していた点は見逃せない。
ヴィニシウスがセレソンで初ゴールを記録したのは、12試合目。幼馴染によれば、「明るい性格だが神経質な一面もあり、新しい環境に適応するまで時間がかかるタイプ」だという。実際、R・マドリーでも最初の3シーズンは戦術理解や周囲との連携構築に苦しんだ。
3)については、2023年10月を最後にネイマールがセレソンに招集されなくなり、“重し”は取り除かれたとも言われる。さらに昨年5月末、R・マドリーで師事したカルロ・アンチェロッティが代表監督に就任。いよいよ“離陸”する条件が整ったかと思われた。
それでも数字は劇的には伸びていない。ネイマール不在以降は20試合で5得点(1試合平均0.25得点)。アンチェロッティ体制下でも8試合で2得点(1試合平均0.25得点)。プレー内容は徐々に向上しているが、フランス代表のキリアン・エムバペ、イングランド代表のハリー・ケインのような絶対的な決定力を示すレベルには至っていない。
ヴィニシウス本人は、「マドリーとセレソンでは戦術もチームメイトも異なる」、「南米は芝が深く、パススピードが変わって僕に届くパスが遅いことがある」などと説明する。
一方でアンチェロッティは、「これまで同じレベルのプレーができていなかったのは事実だが、セレソンで受けるプレッシャーは特別なものだ」と認めつつ、「クラブでも代表でも危険な存在であることに変わりはない。必ず良くなる」と信頼を寄せる。
名将の言葉からは、「すべては本人次第。自信を持って堂々とプレーすれば、自ずと結果はついてくる」というメッセージを感じる。
背番号10を託されたこの男が攻撃を牽引しない限り、ワールドカップでセレソンが6度目の優勝を果たすのは不可能だろう。ブラジルのメディアと国民は、恩師の言葉通りに躍動し、セレソンを高みへ導くことを切望している。
文●沢田啓明
【著者プロフィール】
1986年にブラジル・サンパウロへ移り住み、以後、ブラジルと南米のフットボールを追い続けている。日本のフットボール専門誌、スポーツ紙、一般紙、ウェブサイトなどに寄稿しており、著書に『マラカナンの悲劇』、『情熱のブラジルサッカー』などがある。1955年、山口県出身。
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