
最近の曲を聴いていて、「このメロディ、どこかで聴いたことがある」と感じたことはないでしょうか。
イタリアのトゥーシャ大学(Tuscia University)などの研究チームはこの感覚をデータから検証しました。
音符の移動パターンに注目し、西洋音楽の構造変化を分析。
近年の曲が、単純化され、反復的になっていることを明らかにしたのです。
論文は2026年4月23日付の科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。
目次
- 音楽を「音符の地図」にすると、ジャンルごとの差が見えてきた
- 複雑だったジャンルも、現代では似た構造に近づいている
音楽を「音符の地図」にすると、ジャンルごとの差が見えてきた
音楽は、時代や社会とともに変化してきました。
かつて音楽は、教会や宮廷、劇場、地域の集まりなど、その場で演奏され、その場で聴かれるものでした。
作曲や演奏も、専門的な訓練を受けた人々が担う部分が大きく、作品は特定の文化や制度の中で育まれてきたのです。
しかし録音技術が広がると、音楽は場所や時間から少しずつ解き放たれます。
レコードやカセットテープ、さらにデジタル配信やストリーミングサービスによって、音楽は以前よりはるかに多くの人へ届くようになり、制作に関わる人の層も広がりました。
研究チームは、こうした環境の変化とともに、音楽の構造そのものにも長期的な変化が起きているのではないかと考え、分析することにしました。
今回の研究では、音声そのものではなく、2万曲以上のMIDIデータが使われています。
MIDIとは、音の波形を記録したものではなく、「どの音が、いつ、どれくらい鳴ったか」を記録するデジタルの楽譜のようなデータです。
そのため、歌声の質感やギターの音色、録音の厚みなどは直接扱えません。
一方で、音符の並びや移動パターンを大量に比較するには適しています。
また研究チームは、曲の中に出てくる音符を「点」として扱いました。
そして、ある音符の次に別の音符が鳴った場合、その2つの点を「線」でつなぎました。
さらに、同じ音符の移動が何度も起きるほど、その線には大きな「重み」が与えられます。
つまり一曲ごとに、「音がどの道を通って進んでいくのか」を示す地図を作ったのです。

例えば、ある曲が限られた音の往復を何度も繰り返していれば、その地図には太い道が少数だけ目立つことになります。
反対に、多くの音の組み合わせを使いながら進む曲では、地図の中に多様な道筋が広がります。
この分析によってまず見えてきたのは、ジャンルごとの違いでした。
クラシックとジャズは、他のジャンルに比べて、音符の移動が少数のパターンに偏りにくく、旋律や和声の経路に多様性がある傾向を示しました。
一方、ポップ、ロック、電子音楽、ヒップホップなど、比較的新しい大衆音楽系のジャンルでは、同じ音符の移動が繰り返されやすい傾向が見られました。
特に、ある音から別の音へ行き、また元の音へ戻るような「往復」のパターンが多いことも示されています。
では、こうした違いは単なるジャンル差で収まっているのでしょうか。
研究は、西洋音楽そのものが時代とともに変化していることを示しました。
複雑だったジャンルも、現代では似た構造に近づいている
研究チームは次に、曲の年代情報を加えて、音楽構造が時代とともにどう変わってきたのかを調べました。
その結果、クラシックでは、時代が新しくなるにつれて複雑性の指標が低下する傾向が見られました。
ジャズも、初期には複雑性が高まった後、次第に低下し、近年では安定する傾向を示しました。
一方で、ポップ、ロック、電子音楽、ヒップホップなどは、もともとクラシックやジャズほど高い複雑性を示さず、時間が経っても比較的フラットな推移を示しました。
ここで重要なのは、単に「現代ジャンルはクラシックより単純だった」という話ではありません。
より注目すべきなのは、かつて複雑な構造を持っていたクラシックやジャズまで、近年になると比較的新しい大衆音楽系のジャンルに近い値を示すようになった点です。
つまり、ジャンルごとの個性が完全に消えたわけではないものの、MIDIで見える旋律や和声の音符移動パターンでは、ジャンル間の差が少しずつ薄れ、音楽全体が似た方向へ近づいている可能性が示されたのです。
研究では、音程の使われ方をもとに時代ごとの音楽を配置したところ、1950年から1979年ごろの音楽が、古い時代の複雑な構造と、近年のより単純化した構造の中間に位置することも示されました。
いわば、二つの時代をつなぐ「橋渡し」のような時期だったのです。
この時期は、ジャズ、ロック、ポップ、電子音楽などが広がり、録音メディアや大衆音楽産業も大きく変化した時代と重なります。
この研究は「現代音楽の価値が下がった」と結論づけるものではありません。
現代音楽の複雑さは、音色、録音、リズム、声、サウンドデザインなど、今回の方法では測りにくい別の場所に現れている可能性があります。
とはいえ、私たちが何となく感じる「最近の曲はどこか似ている」という印象に対して、この研究は一つの科学的な説明を与えてくれました。
参考文献
Western music is getting simpler and more repetitive by the day and data prove it
https://phys.org/news/2026-04-western-music-simpler-repetitive-day.html
元論文
Decoding the evolution of melodic and harmonic structure of Western music through the lens of network science
https://doi.org/10.1038/s41598-026-42872-7
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

