
暑い日が続くと、何となくイライラしやすくなったり、集中力が落ちたりすることがあります。
こうした「気温の高さ」は、強い緊張をともなう現場で働く警察官の行動に影響を与えるようです。
中国・南京信息工程大学(NUIST)の研究チームは、アメリカ全土の警察関連死データと気象データを照合し、月平均気温と警察による致死的暴力の発生率との関係を分析。
その結果、気温が一定の水準を超えると、警察による暴力死のリスクが高まる傾向が示されました。
研究の詳細は2026年3月20日付で科学誌『PLOS ONE』に掲載されています。
目次
- 暑さは人の判断力や感情を揺さぶる
- 月平均20.3℃を超えるとリスクが上がる傾向
暑さは人の判断力や感情を揺さぶる
真夏の炎天下で、いつもより短気になった経験がある人は少なくないでしょう。
暑さは単なる不快感にとどまらず、疲労、集中力の低下、睡眠の質の悪化、感情制御の乱れなどにつながることがあります。
過去の研究でも、高温環境は攻撃性、対立、暴力、犯罪の増加と関連する可能性が指摘されてきました。
今回の研究が注目したのは、その影響が一般的な暴力だけでなく、警察と市民のあいだで起きる致死的な暴力にも見られるのかという点です。
チームは、アメリカの警察関連死データベース「Mapping Police Violence」を使用しました。
これは、警察官が銃、警棒、絞め技、スタンガン、その他の手段によって民間人を死亡させた事例を集めたデータベースです。
研究では2013年1月から2024年末までに発生した1万3381件の記録を対象としました。
さらに、アメリカ海洋大気庁(NOAA)の国立環境情報センターから気象データを取得し、アメリカ各郡の月平均気温と降水量を算出しました。
そして、郡ごとの人口差や季節性などを考慮しながら、気温と警察による暴力死の発生率との関係を分析したのです。
月平均20.3℃を超えるとリスクが上がる傾向
分析の結果、警察による致死的暴力の発生率は、月平均気温が20.3℃を超えたときに上昇する傾向を示しました。
また、月平均気温がマイナス3.2℃を下回る場合にもリスク上昇が見られましたが、低温時よりも高温時のほうが上昇傾向はより目立っていました。
特に影響が大きく見られたのは、人口の多い地域と、雨の少ない地域です。
人口が500万人を超える地域では、月平均気温が20.3℃を超えた範囲で1℃上昇するごとに、警察による暴力死の死亡率が2.01%増加していました。
また、月降水量が50ミリメートル未満の地域では、気温が1℃上がるごとに死亡率が2.06%増加していました。
チームは、2024年にこの関連が特に目立ったことにも触れています。
2024年は世界的に記録的な暑さが問題になった年であり、アメリカでは大統領選挙の年でもありました。
著者らは、高温が社会的緊張や不信感などと重なった可能性に言及していますが、これはあくまで解釈であり、暑さだけが警察暴力を引き起こしたと証明されたわけではありません。
この点は非常に重要です。
今回の研究が示したのは、「暑いほど警察官の性格が暴力的になる」という単純な話ではありません。
警察による暴力は、現場の状況、市民側の行動、警察組織の方針、人種や貧困などの社会的要因、訓練や装備、緊張の高まり方など、多くの要因によって左右されます。
この研究は郡単位・月単位の統計分析であり、個々の事件の細かなやり取りまでは十分に捉えられていません。
そのため、正確には「高温環境では、警察による致死的暴力の発生率が高まる傾向が見られた」と表現するべきでしょう。
チームは、気候変動によって高温の日が増えるなか、警察の法執行現場でも暑熱環境を考慮した対策が必要になる可能性を指摘しています。
たとえば、高温時の勤務体制、休憩、冷却環境、ストレス管理、衝突を激化させない訓練などは、今後より重要になるかもしれません。
暑さは、ただ汗をかかせるだけではありません。
社会の緊張が高い場面では、人間の判断や感情の揺らぎを通じて、命に関わるリスクを少しずつ押し上げる可能性があるのです。
参考文献
High temperatures are linked to slightly increased rates of police violence
https://www.psypost.org/high-temperatures-are-linked-to-slightly-increased-rates-of-police-violence/
元論文
Higher temperatures are associated with increased risk of police violence: A nationwide county-level study in the United States, 2013–2024
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0345523
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

