
「主導権を握るサッカーをしたい」カタールW杯から3年半――森保ジャパンはどのように進歩してきたのか? “成長の軌跡”を振り返る
3年半前の2022年12月――。
「(次のW杯は)自分たちが主導権を握るサッカーをしたい」
カタール・ワールドカップのラウンド16、クロアチアとのPK戦に敗れた後、日本代表の選手たちは口々にそう語った。
「主導権を握る」とは何か。ボールを握る、とイコールではない。ゲームの主導権を握る。ボールの保持、非保持にかかわらず、試合の在り方を自分たちが率先して導く戦い方をする。そんなイメージだろうか。
ドイツ戦の逆転勝利も、スペイン戦の逆転勝利も、状況に迫られて発揮したリアクション的な火事場の馬鹿力だった。それも時には必要だが、勝ち筋がそれだけでは厳しい。強豪が相手でも主導権を握りたい。コスタリカ戦もしっかりゲーム支配して勝ちたかった。J2・北海道コンサドーレ札幌の川井健太監督の表現を借りるなら、ジェットコースター・ゲームでも、メリーゴーランド・ゲームでも、両方勝てるチームに。それはW杯で優勝するチーム、いや、ベスト8以上へ勝ち進むチームの最低条件だろう。
主導権を握る。あの時点では抽象的なイメージに過ぎなかったが、3年半を経て、森保ジャパンのそれは戦術として徐々に形を帯びてきた。このチームはどのように進歩してきたのか。W杯を前に、成長の軌跡を振り返っておきたい。
まずは23年3月、一発目の活動でトライしたのはビルドアップが主だった。「偽サイドバック」という言葉が踊ったが、その後のチームの方向性を見る限り、重要なポイントはそこではなく、「両ウイングを軸とした仕組み作り」だろう。
左に三笘薫を、右に伊東純也(堂安律)を同時に並べる配置。これはカタールW杯の時点ではファイヤーフォーメーション、つまり攻撃的なオプションに過ぎなかったが、日本を極上のジェットコースターに乗せたカタールW杯以降は、その攻撃オプションがメインシステムに昇華した。第二次森保ジャパンは、当時から見れば超サイヤ人のまま普段を過ごしているようなものだ。
この両ウイングを機能させるため、サイドバックは内からサポートしたり、駆け抜けたり、あるいはウイングが相手SBをピン留めしたスペースにトップ下の鎌田大地が下りて起点を作ったりと、連係を増やしていく。こうした両ウイングを軸とした戦術は、システムが4-2-3-1から3-4-2-1に移った後も、基本的には変わらない。現在に至るまで一貫して維持され、練度を高めてきた。
また、この両ウイング型は、敵陣に押し込んだ状況だけでなく、ハイプレスや被ポゼッションによって自陣に押し込まれた状況にも強い。たとえば、23年9月に4-1で勝利したドイツ戦では、相手のハイプレスを自陣でかわした後、逆サイドに張った三笘へのサイドチェンジから陣をひっくり返し、伊東の先制点が生まれている。
また、直近3月のイングランド戦でも、自陣でボールを奪った瞬間、好スタートを切った中村敬斗と三笘のロングカウンターからゴールを奪った。日本のスピードは対戦相手が最も警戒するところだろう。
逆に敵陣に押し込んだ状況で、割り切ってスペースを消されたとき、どうやって点を取るか。これも課題のひとつだが、すでにいくつかの解答は見せた。昨年11月のボリビア戦では、後半に中村と町野修斗を投入し、1トップ・2シャドーから2トップ・トップ下に変えた。
5レーンで人をマッチアップさせるボリビアのマーキングをずらし、均衡を破って追加点を挙げている。また、直近3月のスコットランド戦では、終盤にボランチを1枚削って3-1-4-2に変更し、果敢な攻撃から決勝点を挙げている。
カタールW杯以後の森保監督は、このパターンが多い。ファイヤーフォーメーションを通常システムにしたこと、24年の3バック変更の際に三笘や堂安など攻撃的な両ウイングハーフを配置したこと、さらに上記の3-1-4-2。全部に共通しているのは、リスクある攻撃的な枠組みをドーンと提示し、思いっきりプレーさせて、後から好守のバランスを整えていく。そして段々、それが普通になる。これを繰り返すことで、チームはより攻撃的に、攻撃的にと、成長を果たしてきた。
一方、守備も様々な試行錯誤を繰り返してきた。
前述したように、23年3月の最初の活動ではビルドアップ改革に注力したが、守備がバラバラで相手にボールを持たれてしまい、練習したビルドアップも今ひとつ発揮する場が少なかった。結局、好守はつながっているので、どちらかだけを成長させようとしても効率が悪い。以降の日本代表は、守備に立ち帰って、プレッシングに取り組むようになった。
その効果が最もわかりやすく表れたのが、繰り返しになるが、ドイツ戦だろう。カタールW杯では全く通用しなかったプレッシングだが、このときは4-2-3-1でハイブロックを構え、鎌田が相手ボランチを抑えて縦パスの出処を絞ったうえで、コンパクトなゾーンに誘うプレッシングが機能した。逆サイドへ運ばれるリスクもあったが、日本はショートカウンターの得点力が増す、リターンのほうが大きかった。ドイツ戦だけでなく、ほかの親善試合でも脅威の得点力を発揮している。
ところが、この流れを断ち切られたのが、24年1月のアジアカップだ。
親善試合の対戦チームは、パスをつないで攻撃のレベルアップを意図することが多いが、真剣勝負になると、相手は表情を変える。なりふり構わない。日本は縦パスを誘うゾーンプレッシングを行なったが、そのゾーンをロングボールで越えられてしまう。また、4バックの外、斜めに逆サイドへ蹴ってくることも多い。23年の得点力を支えたプレッシングが機能せず、一方的に押し込まれるようになり、イラクとイランに1-2で敗れた。
三笘が怪我で出遅れ、途中から伊東を欠き、自慢のファイヤーフォーメーションは飛車角落ち。さらに今では絶対的守護神の鈴木彩艶も、ほぼデビュー戦。さらに、プレッシングの機能不全。アジアカップの準々決勝敗退は、様々な要素が重なっていた。
以降、日本はシステムを4-2-3-1から3-4-2-1に変更。CBを3枚起用してロングボールに対抗しつつ、相手の出処となるビルドアップにマンツーマンで人を当てやすい形に変えた。もちろん、万能のシステムは存在しないので、3バックとウイングハーフの間は急所になりやすい。ただし、日本は3バックにスピードある選手が多く、三笘や堂安も実は守備がうまいため、この3-4-2-1はハイプレス維持を前提とした現状のベストになっている。
自分たちが主導権を握るサッカー。試合の在り方を自分たちが率先して導く。
敵陣でプレーしたいときは、ハイプレスで一気に押し込む。プレス回避やカウンターで押し返す。自陣でじっくり時計の針を進めたいときは、リトリートする。試合を動かしたいときは、動かし、止めたいときは、止める。日本が主導権を握っている、と感じる試合は多くなった。
順調に成長してきたことは間違いない。あとは本大会に向け、忘れ物をしないように準備するだけだ。
文●清水英斗(サッカーライター)
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