
田中体制で3連勝の浦和。これまで構築したものを変えすぎず、立ち位置の構造と選手の特徴に合わせた役割を整理。暫定監督が示した進むべき道
マチェイ・スコルジャ前監督の退任を受け、暫定監督として浦和レッズを率いることになった田中達也U-21監督兼トップチームアシスタントコーチ。就任から川崎フロンターレ戦、ジェフユナイテッド千葉戦、柏レイソル戦で勝利に導き、チームは3連勝を達成。勢いと熱量をもたらしている。
もちろん、まだわずか3試合。いずれも先制点を奪って主導権を握る展開だったため、ビハインド時の采配や修正力は未知数だ。それでも、短期間でここまでチームの空気感とピッチ上の構造を変えた事実は大きい。
では、田中体制で浦和は何が変わったのか。第一に大きいのは“立ち位置”の構造整理だろう。
基本システムは4-2-3-1。守備時は4-4-2、攻撃時は3-2-5へと可変する形が明確になった。単なるフォーメーションの変更ではなく、誰がどこに立ち、どのスペースを使うのかが整理されたことで、選手同士の距離感が大きく改善された。
攻撃面の変化が目を引くが、指揮官は守備面について「よりパワーを出せるようになった」と語る。その理由として挙げたのが、“選手が行きたいと思える距離感”でプレーできていることだった。
田中暫定監督は、フォーメーションを「非常に大切」と位置付ける。中盤までは規律を持って立ち位置を整理しながら、ゴール前では“カオス”を許容する考え方だ。土台を整えたうえで、最後の局面では選手の自由や個性を解放する。
そのバランス感覚が今の浦和には、はっきりと表われている。その恩恵を最も受けている選手の一人が、長沼洋一だ。
従来と同じ左サイドバックながら、攻撃時には左ウイングのような高い立ち位置を取ることで、ビルドアップ時のピン留め役を担当。同時に、ゴール前へ飛び込む回数も大幅に増えた。
田中暫定監督は、長沼が過去に高い得点力を見せていたのも把握しており、「攻守ともにレベルの高い選手」と評価。左の高い位置を託したのも自然な流れだった。
その長沼が的確に幅を取ることで、マテウス・サヴィオも攻撃でインサイドに流れながら、危険なエリアで個人技を発揮する場面が増加。もちろん、逆の立ち位置になることもあるが、長沼が左のハンドルとなることで、M・サヴィオが解放されている部分が大きい。
トップ下の中島翔哉も守備のタスクをこなしながら、攻撃ではかなりの領域で自由を与えられ、持ち味を発揮している。その分、キャプテンの渡邊凌磨やボランチの軸である安居海渡がバランスを取る。
単に立ち位置を整理して構造を調整するだけではなく、選手の特徴に合わせた役割が整理され、チームのメカニズムと選手の個性が噛み合っているのだ。
その変化は、メンバー選考にも表われている。田中暫定監督は「調子の良い選手を見逃さないこと」を重視しており、アンタッチャブルな存在を作らない考えを明言している。実際、川崎戦から千葉戦では3人を入れ替えながら、大きくチーム力を落とさなかった。
中島に代わってトップ下に入った安部裕葵はスムーズに役割を遂行し、大卒ルーキーの植木颯や肥田野蓮治も存在感を示した。柏戦では長沼を外し、関根貴大を左サイドバックで起用。守備のバランスを保ちながら、関根の推進力や攻撃性能をうまく引き出していた。
また、前体制では基本的にフル出場していた渡邊を川崎戦の終盤に下げ、千葉戦ではベンチからも外したものの、柏戦でスタメン復帰させ、背番号13はフル出場。一方で安居は柏戦でベンチ外となった。
若手起用でも、育成のような特別扱いは感じられない。田中暫定監督は「若手という意味は感じていない。プレーの質で選んでいる」と語っており、年齢ではなくパフォーマンス基準で競争を作っている。
さらに興味深いのは、サブメンバーの役割整理だ。戦術理解力の高い早川隼平をはじめ、怪我から復帰した松尾佑介、小森飛絢らにクローザーの役割を与え、終盤の強度維持に成功している。
田中暫定監督は、リード時に重要なのは第一ディフェンダーの強度と、それに連動した押し上げと説明している。単なる交代ではなく、「どんな状況で、何をするために入るのか」が整理されているからこそ、途中出場の選手も迷いなくプレーできている。
その成果は、終盤にチームが必要以上に下がらず、戦い切れるようになった点にも表われている。
特に柏戦は象徴的だった。後半にギアを上げた相手に、ポゼッションで押し込まれる時間帯が続いた。千葉戦から中3日の限られた準備期間で5バックを仕込んでいた田中暫定監督は、試合終盤にプランBとして投入。分析班とも議論したうえで、「最後は1-0で逃げ切ることを決断した」と明かしている。
前体制で構築してきたものを短期間で大きく変えすぎない。そのうえで、必要な修正は的確に加え、スタッフや選手と共有する。田中暫定監督は、浸透に時間がかかるものや、現在の形から大きく外れるものは「あえて伝えない」と説明している。限られたトレーニング時間を踏まえ、即効性のある改善に絞り込んでいるのも、今の好循環に繋がっている。
また、チーム作りの進め方も特徴的だ。スコルジャ前監督と2人のコーチが退団したが、新体制では攻撃担当、守備担当のように役割を固定せず、分析班も含めて全員でディスカッションをしながら方向性を決めているという。
最後に決断するのは田中暫定監督だが、「僕だけの意見ではない」と語るように、現場全体で解決策を探るスタイルが取られている。
もちろん、不透明な部分もある。ここまで3試合はいずれも先制点を奪い、比較的ゲームプラン通りに進められた。柏戦も、相手に決定機を決められていれば流れが変わっていた可能性はあり、紙一重の勝利だったのは間違いない。
また、ここまで対戦した3チームはいずれも、ロングボール主体で押し込んでくるタイプではなかった。守備時の4バック、攻撃時の3バックへの可変構造を大きく崩される展開が少なかったのも、現在の好循環を後押しした側面はある。
それでも、明確なプランと役割共有によって、選手たちが迷いなくプレーできているのは確かだ。これだけチームがうまく行くと、一部では正式に監督就任を期待する声が上がるのも無理はない。
しかし、もともとは2026-27シーズンから始まるU-21の監督の大役が予定されている田中暫定監督は、「この8試合、勝つだけ」と強調。本人は与えられたハーフシーズンへの全集中の姿勢を崩していない。
ただ1つ言えるのは、田中暫定監督が与えられた試合に集中しながら、浦和が進むべき方向性を示していることだ。新シーズンに向けて強化部が求める監督像も、より描きやすくなっているのではないか。
勝ちながら成長する。タイトルやアジア・チャンピオンズリーグエリートへの出場の可能性が消滅したシーズン終盤に、再びサポーターへワクワク感を取り戻させていることだろう。浦和は確かにそのルートに乗っている。
取材・文●河治良幸
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