守るよりも攻めること、負けないよりも勝つことにこだわって勝ち取ったスクデットだった。
ここまで35試合で82得点は、2番目に多いコモの59得点に大差をつけてリーグ1位。4シーズンにわたるシモーネ・インザーギ体制に終止符を打ち、クリスティアン・キブを新監督に迎えたインテルが、ナポリ、ミラン、ユベントスといったライバルに明確な差をつけ、シーズン終了まで3試合を残した時点で、独走でスクデットを勝ち取ったのは、何よりもこの傑出した攻撃力が違いを作り出したからだ。
今シーズンのセリエAは、近年にも増して「守備的」なリーグだった。それを象徴するのが、全体の10%にも上る35試合が0-0のスコアレスドロー(もちろん5大リーグ最多)に終わっており、1試合平均得点(2.56)も5大リーグ中最低というデータ。
大半のチームがハイプレスを放棄し、ミドルブロックの受動的なマンツーマン守備で相手を迎え撃つ守備戦術を採用した結果、ボールを保持したチームが相手を押し込むがラスト30mではね返される展開が長く続き、決定機も得点も少ない、スローペースで攻守の入れ替わりが少ない試合が多かった。
4バックの4-2-3-1や4-3-3が主流になっている欧州全体のトレンドとは対照的に、最も多く使われたシステムは3-5-2。ボール非保持時には5-3-2や5-4-1になり、中央を固めて相手にスペースを与えないが、必然的にチームの重心が低くなるため、ボールを保持した時には攻め手が足りず、ロングボールかサイドからのクロスが主体になるという特徴を持っている。上で見たように動きの少ない膠着した試合が多かった理由の一端もそこにある。
そんな中にあってインテルは、同じ3-5-2でもこのシステムに異なる解釈を与え、常に「攻撃的に」振る舞おうとする数少ないチームのひとつだった。ボール保持で主導権を握って相手を押し込むだけでなく、速い縦への展開から一気に攻め切るダイレクトな選択肢も備え、その2つを相手と状況に応じて効果的に使い分けることで、数多くの決定機を作り出し、それを効率的にゴールに結びつけた。
冒頭で見た82得点はもちろん、シュート数(1試合平均17.4)、枠内シュート数(同6.1)、ゴール期待値(同1.9)、ファイナルサード支配率(68.1%)といった攻撃関連のデータも、ほぼすべてリーグ1位。唯一、ボール支配率(59.3%)だけがコモ(60.6%)に次ぐ2位だが、これも僅差に過ぎない。
0-0のスコアレスドローは一度もなく、無得点に終わったのも35試合中2試合のみ。常に能動的に振る舞ってボールと地域を支配し、ゴールを奪って勝つという姿勢は一貫していた。
この点は、インザーギ監督の下で戦っていた昨シーズンまでと、最も大きく異なるところだ。35節終了時点での成績を比べると、負け数は同じ5だが勝ち数は昨シーズンの22に対して26、その分引き分けが4つ減っている。失点は昨シーズンの33に対して31とほぼ変わらないが、得点は73から82に増えている。
これは単なるシーズンごとの偏差ではなく、チームとしての戦術的な振る舞いの変化によるものだと解釈できる。象徴的なのは、ファイナルサードに限定したボール支配率を表すフィールド・ティルト(field tilt)という統計指標。昨シーズンのインテルはこれが60.9%だったが、今シーズンは68.9%に上がっている。それだけ相手を押し込んで戦っている時間が長くなったということだ。
これは、攻撃以上に守備の局面におけるチームの振る舞いの変化に関わっている。キブ監督は就任当初から、守備の局面においてもチームの重心を高く保ち、高い位置から相手にプレッシャーをかけて行くことで、できる限り自軍ゴールから遠いところ(=敵ゴールに近いところ)でプレーするという姿勢を打ち出してきた。
その変化は、守備のデータにもはっきりと表れている。最終ラインの高さ50.5mはリーグで最も高く、プレッシングの開始位置(44.2m)もリーグ1位。PPDA(守備のアクション1回あたり相手に許したパス本数の平均値)も、昨シーズンの10.6から9.5へと減少しており、プレス強度が高まっていることがわかる。
守備戦術がよりアグレッシブかつ能動的になったことで、敵陣でのボール奪取数も増えた。アタッキングサードでのボール奪取からの攻撃回数は、1試合平均7.29でリーグ2位(1位はユベントスの7.74)。そのうちおよそ5回に1回をシュートに結びつけ、奪ったゴールの数も6と、コモ(8)に次いで2番目に多い。
セリエAでは長年、「優勝するのは失点が一番少ないチーム」と言われており、 実際に過去5シーズンの結果もその通りになってきた。しかしこのインテルは、82得点が断トツの一方、31失点は僅差ながらコモ(28)、ローマ(29)、ミラン(29)、ユベントス(30)に次ぐリーグ5位。守備力ではなく攻撃力で違いを作り出して勝ち取ったという意味で、このスクデットの意義は大きい。
そもそも今シーズンのインテルは、決して優勝候補の筆頭と見られていたわけではなかった。昨シーズンは終盤戦までナポリと優勝を争いながら残り5試合の時点で逆転を許して2位止まり。しかも決勝まで勝ち上がったチャンピオンズリーグで屈辱的な0-5の大敗を喫してシーズンを終え、それを契機にインザーギ監督が去るという最悪の幕切れを経験した。これでひとつのサイクルが終わったとみなされたのは、ある意味で当然のことだった。
そんな中で後任の座に就いたキブは、前任者が残した3-5-2という強固な基盤を維持しながら、そこにより能動的で攻撃的な要素を加えることで新たな刺激をもたらし、終わったはずのチームの「再生」に成功した。その意味で、このスクデットをもたらした最大の功労者は彼だと言えるだろう。
ピッチ上に目を移せば、キブ監督の手腕がもたらした「再生」を象徴するのは、ここまで35試合で6得点・18アシストと、チーム最大の得点源となったフェデリコ・ディマルコ。その左足から繰り出される超高精度のクロスは、これまでもインテルの攻撃における最も重要な武器のひとつではあった。
しかし昨シーズンは、試合終盤のペースダウンとシーズンを通したコンディション維持の両面を危惧するインザーギ監督によって、ほぼ毎試合60分過ぎに交代を強いられるなどで、パフォーマンスとモチベーションの両面に問題を抱えることになった。
迎えた今シーズン、キブ監督はそんなディマルコに全幅の信頼を置いて、明確なターンオーバー以外では常にスタメンでピッチに送り出し、大半の試合でフル出場させている。そしてディマルコはその信頼に応えて、キャリアハイと言い切れるパフォーマンスで優勝に大きな貢献を果たした。
特にシーズンが佳境に入った1~2月の活躍は際立っていた。ミラン、ナポリが勝点を取りこぼすのを尻目にインテルが連勝を重ねて独走体制を築いた22節から27節までの6試合で見せた、4得点・9アシストというパフォーマンスは圧巻だった。
文●片野道郎
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