環境省が5月11日に発表した速報値によれば、2025年度のクマの出没件数(非公表の北海道を除く)は5万776件と、集計を始めた2009年度以降で最多となった。
この数字は過去最多とされてきた2023年度を2倍以上も上回る水準。しかも今年度に入ってからは、全国各地で例年にない異常な数の目撃情報が報告されており、人身被害についても過去最多を記録した昨年度を大きく上回ることが懸念されている。
そこに新たな脅威として急浮上しているのが「夜グマ」と呼ばれる存在だ。クマの生態に詳しい動物学者が明かす。
「本来、クマは昼行性の動物で、日中に動き回り、夜間は眠ります。ところが近年は日中のみならず、夜間も街中をうろつくアーバンベア、いわゆる『夜グマ』が急増の一途を辿っている。最近の傾向としては、昼間は街中に近い繁みなどに身を隠し、人影が少ない夜間に活動を活発化させる、夜行型の夜グマが散見され始めています。人を恐れないクマの存在を含めて、生態そのものに異変が起きているのです」
本州以南に生息するツキノワグマは、全身が「真っ黒な毛」で覆われている。街中の夜陰に潜むツキノワグマは「闇夜のカラス状態」であり、クマとの遭遇の中でも最も危険とされる「鉢合わせ」の機会が格段に高まるのだ。
夜グマの頻出地域に暮らす住民にとっては「恐怖の対象」以外の何物でもなく、その影響は地域の経済活動にもすでに深刻な影を落とし始めている。
夜間の緊急銃猟を阻む「暗闇での技術」の壁
前述した環境省の集計データで全国最多の出没件数を記録した秋田県に本拠を置く、地元メディアの報道記者が指摘する。
「県内各地の住民を取材すると『昼間はビクビクしながらも、注意を払いながら外出している』とする一方で、『とてもじゃないが、夜間は怖くて出歩けない』と恐怖心を露わにしています。例えば秋田市の中心部にある繁華街では客足が減り続け、閑古鳥が鳴いている飲食店が少なくありません。客足の著しい減少は常連客だけでなく、県内外からの訪問客にも及んでいる。そして同様の影響は出没件数が多かった岩手、宮城、新潟などの有名な繁華街でも顕現化し始めています」
このような事態を受け、関係自治体では夜グマに対する夜間の「緊急猟銃」を検討し始めているが、撃ち損じに伴う流れ弾の危険性を含めて、闇夜のカラス状態にあるアーバンベアをターゲットにした夜間駆除には技術的な壁が立ちはだかっている。
つまり夜グマに対しては外出を手控える以外、現時点で有効な手立ては存在しないのだ。
(石森巌/ジャーナリスト)

