
新しい上司がやってくると、職場の空気は少し変わります。
「かなり改革派らしい」「前のやり方を変えるかも」「現場に細かく入ってくるタイプだって」
そんな噂が流れ始めると、多くの人は普段以上に“新しいリーダー”を観察し始めます。
実際、アメリカのペンシルベニア大学(Penn)などの研究チームは、新任リーダーは既存リーダーよりも組織を大きく変える力を持つことを明らかにしました。
ただし、その力は「必ず良い方向に働く」わけではなく、大切なのは「空気読み」だったのです。
研究は2026年3月5日付で『Journal of Applied Psychology』に掲載されました。
目次
- 新リーダーはなぜ「劇薬」になるのか?
- 「改革」は歓迎される時と嫌われる時がある!「空気」を読むべき
新リーダーはなぜ「劇薬」になるのか?
今回の研究テーマは、「新しいリーダーは本当に組織を変えられるのか?」というものです。
経営論や自己啓発では、「優秀なリーダーが組織を変える」という話がよく語られます。
しかし実際には、同じ“改革型リーダー”でも、歓迎される場合と嫌われる場合があります。
ある職場では救世主のように扱われる一方、別の職場では「余計なことをする人」と反発されるのです。
研究チームは、この違いがどこから生まれるのかを調べるため、アメリカの小学校113校を対象に長期追跡調査を行いました。
対象期間は2014年から2017年までです。
対象となった113校のうち、60校では校長が交代し、53校では同じ校長が続投しました。
研究者たちは、過去の学力テスト成績、低所得層の生徒割合、人種・民族構成などが近い学校同士を、同じ地区内で比較対象として組み合わせました。
そして教師たちに対して、校長は魅力的なビジョンを語っているか、現場指導や助言を積極的に行っているか、学校には変化が必要だと思うか、教師たちは仕事に熱意を持てているかなどを複数回アンケートしました。
さらに研究チームは、単なる「気分」だけではなく、学校の成績にも注目しました。
研究では、3年生から5年生を対象に行われる州標準の数学・読解テストの合格率を用いて、学校全体のパフォーマンス変化を追跡しました。
すると、非常に興味深い結果が見えてきました。
新しい校長の積極的なコーチングは、教師たちが「この学校は改善が必要だ」と感じていた場合には、学校全体の熱意を高め、その後の学力テスト成績の改善とも結びついていました。
しかし逆に、「今のままで十分うまくいっている」と感じていた学校では、同じような積極介入が反発を招き、組織全体の熱意を下げてしまったのです。
つまり、新リーダーの成功を左右していたのは、「どれだけ優秀か」だけではなく、“組織が変化を求めていたか”だったわけです。
より詳細な結果を次項で見ていきましょう。
「改革」は歓迎される時と嫌われる時がある!「空気」を読むべき
研究チームは、この現象を「不確実性」と「空気」の問題として説明しています。
今回の研究で対象となった学校では、新しい校長が来ることで、教師たちは強い不確実性を感じやすくなります。
「この人はどんな方針なのか」「仕事のやり方は変わるのか」「評価基準は厳しくなるのか」
そんな不安や期待が入り混じるため、人々は新リーダーの行動をいつも以上に細かく観察するようになります。
研究者によれば、既存リーダーはすでに「見慣れた存在」です。
周囲の人たちは、「この人はこういうタイプだ」と理解しているため、以前より注意深く観察しません。
しかし新リーダーは違います。
まだ“正体不明”だからこそ、職場全体の注目が集中するのです。
そのため、新リーダーの影響力は良くも悪くも増幅されやすいと考えられています。
特に面白いのは、将来像を語る「ビジョン提示」では予測された効果が確認されず、「現場で具体的にコーチングすること」の方で明確な影響が見られた点です。
研究では、校長によるコーチングとして、授業改善の助言、生徒データの確認、教え方へのフィードバック、教師への具体的サポートなどが測定されました。
そして、この“現場介入”が、学校の空気に強く作用していたのです。
学校に問題意識がある場合、教師たちは「この人は本気で学校を立て直そうとしている」と受け取りました。
すると教師全体の熱意が上がり、最終的に学力テストの成績改善にもつながりました。
一方、現状に満足している学校では、同じ行動が「余計な介入」「現場を信用していない」と受け止められてしまいました。
つまり、リーダーの行動は単独で評価できるものではなく、受け手である組織側の危機感や期待と噛み合ったときに、初めて力を発揮するのです。
これは学校だけでなく、上司が交代する会社やチームでも起こりうる現象です。
停滞感のある組織では、強い改革者が歓迎されます。
しかし順調な組織では、同じ行動が「不要な介入」と受け取られてしまうのです。
今回の研究は、リーダーシップとは単なる能力の問題ではなく、「組織の空気との相性」でもあることを示したのかもしれません。
参考文献
To create change, new leaders should read the room
https://phys.org/news/2026-05-leaders-room.html
元論文
For Good and for Bad: The Distinctive Effects of Successors’ Leadership Behavior on Collective Engagement and Organizational Performance
https://doi.org/10.1037/apl0001359
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

