
「最近、ふと考えるのは、愛されることと愛することのどちらが本当の幸せなのかなって」ーー。松田聖子、中森明菜、山口百恵、ピンク・レディーら1970年代から1980年代にかけて歌謡曲界を席巻した昭和アイドルたち。当時は、まだアイドルはグループではなくソロもしくはデュオが多く、まさに“スター”であった。そんな“推し”という言葉がまだない中、1980年にアイドルとしてデビューした河合奈保子。彼女の魅力はなんと言っても、その安定感ある歌唱力だろう。
デビューから2025年で45周年を迎えた河合。これを記念して特集「河合奈保子デビュー45周年記念 コンサートセレクション」が、5月17日(日)夜6時30分よりCSホームドラマチャンネルにて一挙放送される。同特集では、「河合奈保子 BRILLIANT -Lady Naoko in Concert-」「河合奈保子 愛のコンサート」「河合奈保子 SUMMER SPECIAL in EAST '84」の貴重な3公演をオンエア。
アーティストとしても評価される歌唱力と愛らしいビジュアルはもちろん、真っ白なウエディングドレスの衣装や、理想の女の子を詰め込んだようなワンピース姿、キュートなピエロのビジュアルでステップを踏む様子など、彼女の七変化する姿も見どころの一つと言える。
■「河合奈保子 BRILLIANT -Lady Naoko in Concert-」
1982年10月17日、東京・郵便貯金ホール。本作は、ポピュラーな洋邦カバーの第一部、そして山口百恵の「秋桜」以外を全曲オリジナルで固めた第二部からなる二部構成となっている。赤いドレスを纏い“レディへの脱皮”を宣言するかのような台詞と共に幕を開ける「AIN'T NO MOUNTAIN HIGH ENOUGH」。ピアノの弾き語りから躍動感あふれるダンスまで、弱冠19歳にして多才な輝きを放つ彼女の魅力が凝縮された珠玉のステージだ。
■「河合奈保子 愛のコンサート」
1983年10月10日、同じく東京・郵便貯金ホールで開催。20歳を迎え、ショートヘアへと一新した彼女の音楽的な転換点となったリサイタル。フォーク調の叙情的なカバーから始まる前半、そしてヒット曲を畳みかける後半と、これまでの彼女のイメージを鮮やかに裏切る、大人びた憂いのある表現に魅了される。前作からわずか1年、歌唱の安定感は驚異的な進化を遂げ、ラストの「エスカレーション」は、軽やかで美しく、これぞアイドルの煌めき。アンコールで見せるファンへの細やかな気遣いからも、彼女が愛される所以が垣間見える。
■「河合奈保子 SUMMER SPECIAL in EAST '84」
デビュー5周年、新たなアーティスト像を模索していた1984年。同年7月24日、よみうりランド・イーストにてバースデー公演を開催。カーリーヘアのウィッグに濃いめのメイクという攻めたビジュアルで歌う「太陽の下のストレンジャー」は、変化を恐れない当時の彼女を象徴しているかのよう。音楽的なクオリティーの高さも圧巻で、難易度の高いアルバム曲「IF YOU WANT ME」を伸びやかに歌い上げる姿は鳥肌もの。過度な演出を削ぎ落とし、ただひたすらに“歌”と向き合うひたむきさと、野外ならではの力強い歌声が胸を打つ。
■「愛される幸せ」から「愛する覚悟」へ――20歳の独白
「愛のコンサート」で、彼女は純白なドレスに身を包んで冒頭の言葉を口にする。「今、私は20歳の秋を迎えています。デビューしてから今までの私を振り返ってみると、本当にたくさんの方々に愛されて、とっても幸せだと思います」と鈴の音のような声で紡ぐ。
昭和当時の香りがする、どこか精巧な作り物のような話し方で、「でも、一人の女の子として好きな人がいてもおかしくない年頃だと思います。またその人を思いっきり愛することができたら、とても幸せだろうな…そんな風に思います。でも、(アイドルは)私が自分で選んだ道」と続ける河合。「私は私の歌で愛をお返しできたらと思います」。
二十歳という、大人と子どもの境界線に立つ少女の独白。真っ直ぐな眼差しで宣言した直後、哀愁漂うヒットナンバー「疑問符」を歌い始めるその姿は、完璧なスターでありながら、どこか等身大の切なさを孕んでいた。圧倒的な輝きの中に、ふと見え隠れする人間らしい揺らぎ。その“チグハグさ”に、私たちはどうしようもなく目を奪われてしまうのだ。
■45年を経ても色褪せない、“無敵で儚い”唯一無二の引力
今見ても「ビジュ天才」と唸らされる王道のかわいらしさと、確かな歌唱力。しかし彼女の真の魅力は、その安定感の裏に漂う“儚さ”にあるのではないだろうか。10代ラストから20代へ。くるくると変わる表情は無邪気そのものだが、ふっと消えてしまいそうな危うさが同居し、見る者の心を鷲掴みにする。
令和のアイドルが“元気や勇気”を分かち合う存在だとしたら、昭和のスター・河合奈保子は、ファンの熱狂を一身に背負い、しっとりとした妖艶さと健気さで、昭和という時代ごと抱きしめているかのようだ。「推し活」という言葉さえなかった時代、多くの人々を魅了し、その愛で“生きる”を支えた河合の魔力。45周年を迎えた今、その“不思議な中毒性”を改めて全身で浴びて、愛してみてはいかがだろうか。
構成・文=戸塚安友奈

