
俳優の綾瀬はるか、お笑いタレントの大悟(千鳥)が5月16日、フランスで開催中の「第79回カンヌ国際映画祭」に出席。二人がダブル主演を務める是枝裕和監督の最新作「箱の中の羊」の公式上映後、是枝監督、子役の桑木里夢と共に囲み取材に応じ、現地での熱狂と撮影の舞台裏を語った。
■綾瀬はるか&大悟、9分間のスタンディングオベーションに感無量
同映画祭のコンペティション部門にノミネートされた本作。公式上映では、約9分間にも及ぶスタンディングオベーションが巻き起こった。
初めてカンヌの地に立った大悟は、「10分近くなんて拍手をしたこともないし、されたこともない。スタンディングオベーションを『もうそろそろ…』と止めている人も初めて見ました(笑)。もらえるなら、もろうとけばいいのに」と、是枝監督の人気ぶりに驚きつつ、独特の言い回しで喜びを表現。
綾瀬も「上映中、『ここで笑いが起こるんだ』と反応が日本の方とは違って新鮮でした。体感できたのがとても面白かったです」と、世界各国の観客と共に作品を鑑賞した喜びを語った。
また、是枝監督は「スタンディングオベーションはもちろんありがたいですが、途中から僕はもう樹木希林さんの顔が浮かんじゃって…。ああいうときに、『とにかく物欲しげに手を振っているのがみっともないから、早く帰りましょう、早く帰りましょう』とずっと言われていたものですから(笑)」と、名タッグとなった樹木さんとの出来事を懐かしそうに振り返った。

■綾瀬はるか、地元・広島弁での演技に「胸の内を開けられた感じ」
綾瀬が演じるのは、息子を亡くした建築家の音々。劇中、ヒューマノイドの子供を迎え入れる。「最初は温度感や知能がどこまで理解しているのかを探りながらだったので、不思議な感じはありました」と、難役を回顧。
また、劇中では自身の出身、広島の方言を使用している。「標準語のときは“殻をかぶっている”というか、どこか過去で止まっているような人が、感情が出たときに話すのが自分もなじみのある方言だったので、何か分かって胸の内を開けられたような感じがありました」と、方言がキャラクターの感情を解き放つ鍵になったことを明かした。


■初カンヌの大悟「本物の俳優でした」と振り返る撮影現場
音々の夫で、工務店の二代目社長・健介を演じた大悟は、「本物の俳優でした。今回だけです(笑)」と、俳優としての手応えを聞かれて照れ笑い。
“世界の是枝”と呼ばれる是枝監督のすごさについて、「外国の方がみんな『コレ・エダ、コレ・エダ』って」と、レッドカーペットでの熱狂ぶりを振り返る。さらに、「僕は昨日、街でロケをして、日本人というだけで『コレ・エダか?』と聞かれて。『俺はコレ・エダではない』と。『是枝の映画には出たぞ』」と言っても、何を言っているんだと(笑)」と、街でのエピソードも披露。
綾瀬も「呼び掛けや声援もそうですし、上映で見ているお客さんが本当に監督の作品が好きで、すごく期待を込めて、みんなすごい真剣に見ていらっしゃるなというのが伝わってきて。やっぱり“世界の是枝さん”だったんだなと思います」と、改めて是枝監督の存在の大きさを実感した様子だった。

■映画「箱の中の羊」ストーリー
息子を亡くして2年、建築家の音々(綾瀬はるか)と工務店の二代目社長を務める健介(大悟)の甲本夫婦は、息子・翔(桑木里夢)の姿をしたヒューマノイドを迎え入れることになる。
彼が到着した日、「おかえり」と駆け寄り喜びを隠さない音々と、戸惑いを隠せない硬い表情の健介。「パパだよね」と問いかけられた健介は、「おじさんでええよ」と答えるのだった。
少しずつ動き始める家族の時間。静かに広がっていく波紋。ほどなく予期せぬ事態が起こり、夫婦がそれぞれに抱く息子の死への思いがあらわになっていく。
夫婦とは? 家族とは? 彼らは大きな決断に迫られる。そんな中、ヒューマノイド翔は、密かにヒューマノイドの仲間たちとつながり始める──。

■綾瀬「反応が日本の方とは違って、それがすごく新鮮でした」
――公式上映を終えていかがでしたか?
大悟:当然初めてだったので、すごくびっくりしたのと、うれしいというか、こんな経験させていただいて。(上映した)映画館もすごいし、ポップコーン入れるところもない映画館。いい経験させていただきました。(桑木に向いて)な?
桑木:映画は初めてなのですごくいい体験になりましたし、やっぱり今日、僕の誕生日なので。
――何歳になりましたか?
桑木:10歳です。すごく“持ってる”と思います。
――綾瀬さんと是枝監督はいかがでしょうか?
綾瀬:上映中、「ここで笑いが起こるんだ」とか、反応が日本の方とは違ってそれがすごく新鮮でした。それも含めて一緒に体感できたのがとても面白かったです。
是枝:周りの人がどういう感じで見ているのかなと思って見ていましたが、かなり最後まで集中して見てくれているのが伝わってきたので、ほっとしたなという。ここにまた本当にみんなで来られたことを喜びたいなと思っています。
――大悟さんの演技が自然で、本物の俳優さんのようでした。
大悟:本物の俳優でした。今回だけです(笑)。
――綾瀬さんは作中の子供との関係はどのように?
綾瀬:今回は人間ではなくヒューマノイドの子供ということだったんですけど、最初は温度感や知能がどこまで理解しているのかというところを探りながらなので、不思議な感じはありましたが、撮影しながらヒューマノイドなのだけれど、一人の人というか、個性を持った存在としてお芝居していく感じがあって。そこは役の音々さんに通じるところがあるのかなと。私自身も一緒に変化していく部分があったりしました。
■樹木希林さんの顔が浮かんだという9分に及ぶスタンディングオベーション
――是枝監督は慣れているカンヌですが、今回はどうでしたか?
是枝:正直に言うと、ここは慣れるような場所ではないので、いつも1回目みたいな感じです。
――25年前(第54回)に日本映画が三作コンペに入っていたときも、監督は「DISTANCE」でカンヌにいらっしゃっていました。
是枝:そのとき、今村昌平監督のポジションだと言われたんです。さすがにそれはちょっと重たいなと思っていて(笑)。でも、今回こうして若い世代がたくさん入ってきて、ある視点部門に岨手(由貴子)監督や、監督週間に安藤サクラさん出演の作品が入っていたり、という広がりの方が心躍る感じがしますね。刺激や勉強になります。
一時、こういう循環が止まっていた時期が長かったから、この10年ぐらいで若い世代が出てきて、とてもバランスがよくなったんです。以前、韓国で各世代の監督たちが参加している時期がありましたが、今、日本も同じような状況にあります。これが10年先につながって、また次の世代が来られるような環境が作れるとよいと思いますので、応援してください。
――9分に及ぶスタンディングオベーションがありました。
是枝:スタンディングオベーションはもちろんありがたいですが、途中から僕はもう樹木希林さんの顔が浮かんじゃって…。ああいうときに、「とにかく物欲しげに手を振っているのがみっともないから、早く帰りましょう、早く帰りましょう」とずっと言われていたものですから(笑)。
――上映を終えて手応えはありましたか?
是枝:お客さんの背中をずっと見ていましたが、2時間集中を切らさずに見てくれたなと。笑ってくれましたし、その辺はよかったな、届いたなという感じはありました。
綾瀬:是枝監督とは「海街diary」(2015年)のとき以来、二度目ですけど、こんな感じだったかなと思い返していました。皆さんがどういうふうに見て感想を持たれているんだろうというのも、表情を読み取りながらいろんな人を見ていました。
大悟:10分近くなんて拍手をしたこともないし、されたこともないし、スタンディングオベーションを「もうそろそろ…」と止めている人も初めて見ましたし、そんな監督にびっくりしました(笑)。もらえるなら、もろうとけばいいのにと(笑)。
――大悟さんは、手応えはいかがでしたか?
大悟:わしのことを何者だと思っているのか分からないですけれども、うれしそうな顔でこっちを見てくれていたので、よかったなという感じですね。
■桑木は10歳の誕生日にレッドカーペット「歩いてみて笑顔しかなかったです」
――レッドカーペットを歩いた感想は? 大悟さんの歩き方、階段はちょっとぎこちない感じもしました。
大悟:こうやって手を出して歩くのも初めてやし。慣れた感じもどうかなと思いながら、やったつもりでした。ぎこちなかったんなら、そうかもしれません。
桑木:歩いてみて笑顔しかなかったです。来られてよかったです。
大悟:うれしいわな。誕生日やし。
――フランスのアナウンサーが「誕生日です。お誕生日おめでとう」と言っていました。
桑木:すごくうれしかった。
大悟:フランス語で分かった? うれしいよね。あんなところ歩けるもんな。
綾瀬:天気も良くて気持ち良かったです。緊張というよりも、私は気持ちがいいなと思っていました。
――大悟さんから手を取られてどうでしたか?
綾瀬:大悟さんがちゃんと律儀にやってくださって、ちょっと面白いなと思いつつ、ありがたかったです。
■是枝監督、作品の内容は「受け取った方の解釈で大丈夫です」
――是枝監督は家族をテーマにした作品が多いと思います。その中でも、家族というのは血のつながりではない。それよりも愛してくれる、大事にしてくれる、思いやってくれる、そういう関係が家族だというふうに描いていると感じます。今回も、相手は機械かもしれないけれど、同じように。それで間違っていませんでしょうか?
是枝:それでよろしいでしょうかと言われると、もうそれは受け取った方の解釈で大丈夫です。
――やはり大事にし合うのが家族だと。
是枝:あまり自分で今回はファミリードラマだと思って作っていたわけではないので、実は。家族という箱としては使いましたけれども。自分としては人間とヒューマノイドが出てくる話ですが、むしろ人間性ってなんだろうか、最後に残る人間らしさというのは何なんだろう、ということに向かって物語が進んでいくというようなことは考えていました。
――監督はよく映画とAIの問題についてお話をする機会が多いと思います。今回ヒューマノイドということもこの物語の中に取り込んで、人間性と機械と、自然との共生のことに触れられていると思いました。
是枝:ヒューマノイドというのが人間が生んだ子供だとして、それが人間を超えて親離れをして、どういう存在になるのかなと思ったときに、多分こちらだとだいたい人間を支配するディストピアみたいな前提の映画とか物語が多いと思います。
むしろ、もっと人間から遠くに存在して、そうなったときに、もしかするとその在り方としては生に近いのではないかという、森に近いのではないか、そことの親和性みたいなものへ向かっていったときに、そこには人間は入れないので、残された側の、要するに子供が巣立った後の親が残りの人生をどういうふうに生きていくんだろうなというような、そんなことを重ね合わせながら描いてみました。
――それはお子さんがどんどん大きくなっていくという、ご自身の体験とも重なっているのでしょうか?
是枝:自分の体験というか、この家族を見ながらそういう想像をしました。
■是枝監督の人気ぶりに驚き「日本人というだけで『コレ・エダか?』と(笑)」
――是枝監督は“世界の是枝”と呼ばれ、このカンヌ映画祭でも「コレ・エダ」という声援が飛び交う大監督です。綾瀬さんたちはお仕事なさってどのようなやり取りがあったのか、印象的な言葉があれば教えてください。
大悟:すごい監督なのは分かっているんですよ。当然分かっているんですけれども、何て言うのかね、その感じを全然出さないというか。現場でも本当にその感じを出さなくて、多分いろいろ、ここがちょっと違う、撮り直したいみたいなこともたくさんあったかと思ったんです。
でも、全然何も言われなかったのは、巻いて帰ろうとしているのか、そんなことはないですけれど。多分、監督が僕に何かちょっと言っちゃうと、僕が勝手に作っちゃうみたいなところまで多分想像して、だったら何も言わないほうがまだいいと思ってくれたからじゃないかと。そういうすごい計算のされる、本当にすごい人だったんです。
――カンヌではどうでしたか?
大悟:レッドカーペットで、外国の方がみんな「コレ・エダ、コレ・エダ」って。僕は昨日、街でロケをして、日本人というだけで「コレ・エダか?」と聞かれ、「俺はコレ・エダではない」と。「是枝の映画には出たぞ」と言っても、「何を言っているんだ」と言われましたけど(笑)。それぐらいすごい。でも、映画の撮影中にはその雰囲気を僕らには見せない方だなという感じでしたね。
桑木:監督が「せりふ通りじゃなくていいよ」と言ってくれました。
綾瀬:現場での監督、本当に空気感が穏やかで、その空気感をすごく大事に撮っているのかなと思いました。監督自身もとてもシンプルに研ぎ澄まされていて。
――先ほど大悟さんも話された是枝さんの人気ぶりを感じる場面はありましたか?
綾瀬:もちろん呼びかけとかも声援もそうですし、やっぱり上映で見ているお客さんが本当に監督の作品が好きで、すごく期待を込めて、みんなすごい真剣に見てらっしゃるなっていうのが伝わってきて。やっぱり世界の是枝さんだったんだなって思います。
■方言に込めた演出意図「感情を解き放つ鍵に」
――今回、せりふに広島弁や岡山弁が多かったのですが、方言にした狙いや趣旨があれば教えてください。
是枝:狙いとしては、前半ずっと1枚フィルターがかかったような、感情をあまり表に出さないようなお芝居なので、それがその膜を破って出てきたときに、少し言葉のニュアンスを変えたいなと思って。それで母親とのシーンと、大悟さんが演じる健介とぶつかるところは方言でいきましょう、というのは最初の脚本から決めていました。その二回を経て、だんだん感情が戻ってくるみたいな、そういう狙いでした。
――綾瀬さんは出身が広島です。広島弁での演技に何を感じましたか?
綾瀬:監督が今おっしゃっていたように、標準語のときは“殻をかぶっている”じゃないけど、どこか過去で止まっているような人が、感情がないようなところから、感情が出たときに話せているのが、自分もなじみのある方言なので、何か分かってここ(胸の内)を開けられた感じみたいな。そういう感じがありましたね。
※桑木里夢の「桑」は異体字(木の上に十と草かんむり)が正式表記

