
高層ビルの窓ガラスが発電を始め、スマートグラスが自然と充電される。
そんな技術が、少しずつ現実へ近づいています。
シンガポールの南洋理工大学(NTU Singapore)の研究チームは今回、光を通しながら発電できる半透明の超薄型ペロブスカイト太陽電池を開発しました。
しかもその厚さは、人間の髪の毛の約1万分の1であり、見た目を大きく変えずに、窓やガラス外壁を発電面に変える可能性を持っています。
研究の詳細は2026年3月24日付で学術誌『ACS Energy Letters』に掲載されました。
目次
- 「発電する窓」に繋がる超薄型太陽電池を開発
- なぜここまで薄くできたのか?
「発電する窓」に繋がる超薄型太陽電池を開発
太陽光発電というと、多くの人は屋根の上に並ぶ黒いパネルを思い浮かべるでしょう。
しかし都市部では、屋根よりもはるかに目立つ面があります。
それがビルの窓やガラス外壁です。
もしこの広大なガラス面を発電に使えれば、建物は電気を消費するだけの存在ではなく、電気を生み出す存在にもなります。
そこで注目されたのが、ペロブスカイト太陽電池です。
ペロブスカイト太陽電池は、従来のシリコン太陽電池に比べて薄く、軽く作りやすい次世代型の太陽電池です。
曲げられる形や半透明タイプにも応用しやすく、弱い光や間接光でも発電しやすい特徴があります。
そのため、屋根だけでなく、壁面、窓、車のサンルーフ、スマートグラスなど、これまで太陽電池を置きにくかった場所への応用が期待されています。
ただし、窓として使うには大きな難題があります。
太陽電池は光を吸収して電気を作りますが、窓は光を通す必要があります。
つまり、窓として光をたくさん通すほど、太陽電池が発電に使える光は少なくなります。
透明な太陽電池では、「明るい窓にすること」と「たくさん発電すること」をどう両立するかが大きな課題なのです。
今回の研究チームは、この難しいバランスに挑みました。
開発された太陽電池は、ペロブスカイトの光吸収層を極端に薄くしたものです。
通常のペロブスカイト太陽電池では、吸収層の厚さは数百ナノメートルほどあります。
しかし今回の研究では、10ナノメートル、30ナノメートル、60ナノメートルという超薄型の吸収層を作製しました。
10ナノメートルは、人間の髪の毛より約1万倍薄いレベルです。(実際の画像はこちら。※プレスリリース)
それほど薄いにもかかわらず、不透明なタイプでは、10ナノメートルで約7%、30ナノメートルで約11%、60ナノメートルで約12%の発電効率を達成しました。
さらに半透明タイプでは、60ナノメートルの吸収層で可視光の約41%を通しながら、7.6%の発電効率を示しました。
これは、見た目だけを優先した実験品ではなく、透明性と発電性能の両立を目指した成果だといえます。
では、どうやってここまで薄くできたのでしょうか。
なぜここまで薄くできたのか?
今回の技術の鍵は、「材料を少しずつ均一に積み重ねる方法」にありました。
研究チームは、「熱蒸着法」と呼ばれる方法を使っています。
これは、材料を真空中で熱して蒸発させ、その蒸気を素材の表面に薄く付着させる技術です。
イメージとしては、見えないほど細かな霧を表面に均一に吹き付けていくようなものです。
この方法を使うと、ペロブスカイトの層を非常に薄く、しかもムラなく作りやすくなります。
今回の研究では、この精密な調整によって、わずか10ナノメートルという超薄型の発電層を実現しました。
しかも上記の方法を採用することで、欠陥の少ない高品質な膜を作ることができたので、極薄でも比較的高い性能を維持できました。
また、この製造方法は工場での大量生産とも相性がよいと考えられています。
ただし、実用化にはまだ課題も残っています。
ペロブスカイト太陽電池は、水分や熱によって劣化しやすいことが知られています。
そのため研究チームは今後、長期間使った場合の耐久性や、大面積化したときの性能をさらに検証していく予定です。
それでも今回の研究は、「太陽光パネルを追加する」のではなく、「今ある窓そのものを発電装置に変える」という未来へ向けた大きな一歩といえそうです。
活用先としては、建物のガラス面のほか、車のサンルーフやスマートグラスなどが考えられています。
特に高層ビルの多い都市では、これまで「光を通すだけ」だった巨大なガラス面を発電に使える可能性があるでしょう。
参考文献
Near-invisible ultrathin solar cells that could turn windows into power generators
https://www.ntu.edu.sg/news/detail/near-invisible-ultrathin-solar-cells-that-could-turn-windows-into-power-generators
元論文
Ultrathin Fully Vacuum-Processed Perovskite Solar Cells with Absorbers Down to 10 nm
https://doi.org/10.1021/acsenergylett.5c04261
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

