高級ミニバンと聞いてまず思い浮かぶのは、トヨタのアルファード/ヴェルファイアだろう。主力のアルファードは月平均約6800台が登録される怪物的な売れ筋で、受注停止や納期の長期化がたびたび話題になるほどの人気を誇る。
だが街にあふれた結果、「高級なのにどこでも見かける車」になった面は否めない。そこへ日産が、約16年ぶりのフルモデルチェンジで4代目となる、新型エルグランドを送り込んでくる。予約受注は5月28日に始まり、正式発売は7月16日の予定だ。
この新型、トヨタとは明確に違う攻め方をしてきた。その象徴が、フロントの面構えである。デザインコンセプトは「The private MAGLEV」。つまり、リニアモーターカーだ。
そのマスクには日本の伝統工芸「組子」をモチーフにした、繊細なグリルが据えられている。アルヴェルが大型メッキの押し出しで「オラオラ顔」の高級感を築いてきたのに対し、エルグランドは細やかな格子の意匠で勝負する。
威圧感がないわけではない。むしろ堂々としている。ただ、その存在感は力ずくではなく、上品さを伴っている。同じ「高級」でも、見せ方の思想がまるで違うのだ。
走りの中身も独自路線をいく。全車が1.5Lの第3世代e-POWERにe-4ORCEを組み合わせ、モーター駆動ならではの滑らかさと静粛性をうたう。先進運転支援のプロパイロット2.0は、高速道路の同一車線内であれば前方に注意し、直ちに操作できる状態を保つことを条件に、ハンドルから手を離せる。
加えて排気量が1.5Lに収まることで自動車税の区分が下がり、アルヴェルの2.5L級より維持費を抑えられる。地味だが、長く乗るほど効いてくる利点だ。
個人ユーザー以外の動きも見逃せない。Uber Japanは5月18日、日産とのパートナーシップに基づいて「Uberプレミアム」を提供するタクシー事業者に対し、新型エルグランドの導入支援を開始すると発表した。
これはインバウンドなどで、高級送迎需要の急拡大によるものだ。発売前の新型がいち早くハイヤー・送迎の現場に投入されるあたりに、その上質感への期待のほどがうかがえる。
アルファードの希少感はすっかり薄れてしまった
そして本題はここからだ。
アルファードの最大の強みは、圧倒的なリセールバリューにある。3年後でも新車価格の7割で売れるケースがあるほど、値落ちしにくい。結果として、本来は高価なはずの高級ミニバンが、幅広い層に行き渡った。だが、街で見かける機会が増えすぎたことで、希少感はすっかり薄れている。人とかぶりたくない層には、そこが引っかかるのだ。
では、エルグランドはどうか。価格を見ると、その狙いははっきりする。ベースの「X」が689万7000円、上級の「G」が757万9000円。アルファードの売れ筋より一段高い設定で、もとより数百万円のミニバンに手が届く層を見据えた価格だ。
街にあふれたアルヴェルに辟易し、新たな一台を探していた人たちがターゲット。どこでも見かけるようになった高級ミニバンに距離を置きたい層にとって、組子グリルの上品な佇まいは、十分に乗り換えの理由になりうる。
エルグランドは、トヨタとは別の価値観を持つ客を、確実に奪いにいける一台だ。経営が苦しい日産にとって、これは失敗できない勝負球でもある。救世主になれるかどうかは、実車の出来と市場の反応にかかっている。
(ケン高田)

