イタリアで開催された第28回ウディネ・ファーイースト映画祭で最高賞のゴールデン・マルベリー賞とブラック・ドラゴン・特別観客賞という2冠を手にした映画『FUJIKO』。本作をプロデュースするのはMEGUMIさんであり、日頃から女性を元気にしたいという思いから本作の企画・プロデュースに乗り出しています。尚、物語は木村太一監督の母親の実話がベース。1970年代という、今ほど女性が社会進出できなかった時代に、シングルマザーの富士子が自分の人生を切り開こうと奮闘する姿を描いていきます。主演はオーディションで勝ち取った片山友希さん。ウディネ映画祭でも演技を絶賛された片山友希さんに、演技はもちろん作品について、そして俳優業への想いまで語って貰いました。
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――脚本を読んだ時の感想を教えて下さい。本作は木村太一監督の実話がベースになっていると聞いています。
私は20歳で上京をしたのですが、その時、東京に友達がいなかったり、お金がなかったりと結構大変な時期があったんです。そんな時でも“何か、生きて来れている。何か、今まで生活出来ているな”という気持ちがずっとあって。『FUJIKO』の脚本を読んだ時、子どもを取られてしまったり、旦那さんと再会したら腕がなかったりと、ショッキングな出来事が続くんですけど、【富士子】は悲観的ではなかったんですよね。それが自分の過去と重なったというか、“何か、生きて来れたよね”という気持ちが思い出されました。
面接の時に木村監督から「脚本を読んで、どう思われましたか?」と聞かれたので、私は「自分の昔のことを思い出して、でも“何か、生きて来れているな”と思ったんです」というようなことを言ったんです。そうしたら木村監督は「そういう感覚を持った人が欲しかったんです」と言われました。決まってから木村監督とお母様と3人でお食事をした時に、お母様から「私は暗い映画にして欲しくない」とハッキリ仰ったので、それを聞いて私も全然、暗い映画にする気はなかったので、“私の感覚は合っていたんだ”と思いました。
――木村監督のお母様とお会いして吸収できたものはありましたか。
吸収したというか、普通に食べて、飲んで、お喋りをしました (笑)。逆にそれが良かったと思っています。木村監督のお母様も「よろしくお願いします」というタイプの方ではなくって、誰に対してもフラットな感じが凄く父親に似ていると思っていました。父親に似ているということは、つまり自分の親族に似ているということもあり、まったく違う性格の人ではなかった気がして、お会い出来て本当に良かったと思っています。
――【富士子】という役に入りやすかったですか。
そうですね。実は面接で「【富士子】に決まりました」となった時から台本が完成するまでに、何回も改訂した台本を読ませてもらえてたんです。撮影まで8ヶ月間ぐらいあったのですが、最新の台本をずっと読ませて頂き、それに最後の本打ち合わせにも参加させてもらえたんです。だから改訂する度にシーンがなくなっていたり、変わっていたりするんですけれど、前の台本を読んでいるから、変更前の状態を自分の頭で記憶しているので、その部分に対しての引っ掛かりがなかったんです。本打ち合わせの最後に参加させてもらえた時も、自分で台本をずっと読んではいましたが、人の声で物語を聞くとまた新しくて。“木村監督はこういう想いでこのシーンを作っていたんだ”とか台本だけでは得られないことなどを吸収できました。だから「結構、【富士子】の役作り頑張りました」というよりも自分はずっと関わらせてもらえていたので、そのまま演じることが出来た感じです。
――ご自身が出されたアイデアは、採用されたのですか。
『ブリジット・ジョーンズの日記』でブリジットが、オープンカーでのドライブデートの時、「あ~」って風を感じているシーンの後に、彼女の髪がボサボサになっているというシーンがあるのですが、私はあのシーンが大好きなんです。だから岸本加世子さん演じる富士子の母親【千代】がYOUさん演じる義理の母【敏子】と喧嘩しているシーンで、「ちょっと【千代】の髪の毛がボサボサになってもいいんじゃないですか?」と提案したんです。そうしたら「それ面白いね」と採用されたんです。
――岸本さん演じる【千代】は強烈なキャラクターとしてスクリーンに焼き付いていますよね。それと片山さん自身は、赤ちゃんと接するシーンが結構ありましたね。
そうですね。本番以外はずっと人形でテストをやっていました。義理のお母さんとお姉さんに赤ちゃんを取られるというシーンの段取りも、テストもずっと人形でやっていたんです。そのこともあり、3人ともしっくりきていなかったんです。本番では本物の赤ちゃんで撮影をするので、絶対に赤ちゃんにケガをさせるわけにはいかないから「こんなふうに赤ちゃんを取りましょうか」と段取りだけは決めたんです。リハーサルでは自分の心の動きがなかったので“本番でやってみないとわからへんか‥‥”と思っていたんですが、実際に本物の赤ちゃんを抱かせて頂いた時に、赤ちゃんの重みであったり、温かさ、匂い、泣き声をすごく感じて、初めて皆の心が動いたんです。
――この映画にはちょっと極道的なシーンも登場しますが、あの編集はスピード感があって印象的です。
実はあのシーンは全部リズムで、音楽ありきで撮っているんです。私が明日香さん (樋井明日香) と2人で焼きそばを作るシーンも全部リズムで、「ハイ、ハイ、ハイ」という手拍子のテンポでやっているんです。お芝居をしたというよりは、全部リズムでやっている感じです。
喫茶店でサンドイッチをパクッと食べるシーンもそうです。あれも全部音ありきで、「この音でやって下さい」というのがありました。そこはお芝居ではなく、本当にダンスといっては言い過ぎですが、リズムで全部やりました。やっぱりUKロックの音楽の中で生活されていた木村監督ならではのアイディアだと思っています。あれは日本生まれ、日本育ちの日本人にはなかなか出ないと思いました。
――日本映画で、ここまでパワフルな女性の映画はなかったような気がします。
確かにそうですね。まずスピード感が違うと思いました。走るところは走って、見せるところは見せるという強弱の付け方とかも日本映画っぽくない感じがしています。
――【富士子】は自分から人へ話しかけてお願いも出来るし、しっかり自分の足で立ちながら、困っていることもハッキリ言える。コミュニケーション能力が高いと思いましたが、片山さん自身は、人付き合いで大事にしていることは何かありますか。
え~、なんやろ~。自分がそのままでいることですかね。ちょっとよく見せようとか、ちょっと大人らしく見せようとか、ちょっと賢く思われたいという欲は邪魔なような気がしていて、そう思っている時って、人とあんまり繋がらないですよね。自分がずっと関西弁なのも、自分が楽な喋り方の方が絶対に相手も楽になると思うし、自分が楽にすれば隣の人も楽になると思うんです。
私の父親も母親もそうなんですが、娘がチョコレートを作って「お父ちゃん、これ食べる?」と聞いても、その時要らなかったら「いらん」と言える人なんです。“娘の手作りチョコを父親なのに食べへんの?衝撃”って感じで…。すごくハッキリしている夫婦の間で生まれ育ったんです。3人姉妹なのですが、3人ともお世辞が言えないです (笑)。
――俳優業は沢山の人と関わりながら作品を作っていくわけですが、やってみてどうですか。
やっぱり仕事としてやっているので手放しで「楽しい!」と感じることはあまりないです。だけど『FUJIKO』の時にすごく感じたのは、人が居るから自分の感情が動くと思ったんです。イッセー尾形さんもそうですし、皆さんに対して思ったことです。元旦那さんとのシーンの時もずっとシュリ君 (諏訪珠理) のタバコを持つ手が震えていて、その姿を見て“この人、こんなに手が震えているから私の方がしっかりしないと”という感覚になりました。こんなふうに台本には書かれていないことを相手の俳優さんからもらえることが『FUJIKO』ではすごく多かったんです。子どもが保育園から抜け出してしまい、交番で見てもらっているシーンでは、「何をやっているのよ」と私が怒ってうなぎパイを渡されて自分がとてつもなく申し訳ない気持ちになり、子どもに寂しい思いをさせてしまったことに対しても情けなくなってしまう気持ちって台本には書いてあったんです。でも自分には子どもがいないので想像できなかったんですが、友那ちゃんから感情を貰えたので、お芝居の楽しみとはこういうことなのではないかと思っています。
――お芝居の壁はあったりしますか。
壁‥‥、壁はなんやろな~? どれだけ自分が、集中出来るかだと思います。やっぱり自分の意見と監督の意見が違った時にどうやってそれを自分の中に落とし込めるかというのは、すごく難しいところです。前に自分の中では納得出来ない演出があったんです。自分がこの気持ちを持って、こういうのをやりたいと大事に思っていたからなんですけど、それを持って現場に入ったら全部変えられて、私はムカついた状態でお芝居をしてしまったんです。
でも撮影は進んでしまったのでそれに対して言うこともできなかったので、その気持ちのままホテルに帰ったんです。イライラが止まらなくて、母親に電話をして話を聞いてもらったんです。その時、母親に「自分の為にその人に優しくしなさい」と言われたんです。「その人の為に優しくは、ムカつくから出来へんけど、自分の為になら優しく出来るやろ」と。“確かに”と思って次の日現場に行って、監督と意見は違ったんですけど自分の意見を言う前に、監督の意見を聞いてみようと思って聞いたんです。
聞いた上で「でも私はそうじゃないと思います」と伝えたら、「片山さんのやりたいようにしてください」と監督が言わはったんです。“自分の意見を聞いて欲しいのなら、相手の意見も聞かないといかんのや”とその時に学びました。やっぱり対人間との仕事なので、その人とどれだけ意見が食い違った時に自分の中にどれだけ落とし込めるか、それが壁なんだと思います。
――いい話ですね。それが俳優として今、掲げている言葉なんですね。
そうですね。今までは駄目と思ったら結構シャットダウンするタイプだったんです。でもそうしては駄目だと学びましたね。
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取材・文 / 伊藤さとり
撮影 / 奥野和彦
ヘアメイク:足立 真利子 / スタイリスト:丸山 晃
作品情報
映画『FUJIKO』
舞台は、1977年の静岡。嵐がひどく停電した病院で娘・麻理を出産した富士子。母親になった喜びも束の間、夫の実家から理不尽な仕打ちを受け続けたあげく、姑と義姉に麻理を奪われてしまう。愛する幼な子と引き離された絶望の中、実母・千代の力を借りなんとか麻理を取り返した富士子は、周囲の反対を押し切りシングルマザーとして麻理を育てることを決める。しかし、その先に待ち構えていたのは、図らずも自身が憧れていたロックンロールのような波乱万丈の人生だった。
企画・プロデュース:MEGUMI
原案・監督:木村太一
出演:片山友希、渡辺友那、寺田楓、諏訪珠理、橋本淳、MEGUMI、馬場園梓、瀬戸さおり、ミズモトカナコ、成松修、関口アナン、YOU、リリー・フランキー、うじきつよし、竹下景子、イッセー尾形、岸本加世子
配給:Atemo
© 2026 FUJIKO Film Partners
2026年6月5日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
公式サイト fujiko-movie
