
「第79回カンヌ国際映画祭」で最優秀女優賞を受賞したヴィルジニー・エフィラと岡本多緒が5月26日、都内にて凱旋記者会見に登壇し、受賞の喜びを語った。
■カンヌ史上初の日本人女優賞、ダブル受賞の快挙
エフィラと岡本は映画「急に具合が悪くなる」(6月19日[金]公開)でダブル主演を務め、「カンヌ国際映画祭」で最優秀女優賞をダブル受賞。同賞を日本人が受賞するのは史上初となる。
会見に登壇した岡本は、「(女優賞を)受賞してから2日が経ったんですが、全く現実味が湧いておりません。これは、一生湧くことはないんじゃないかなと感じているんですが。とにかくこの映画をたくさんの人に観ていただけるきっかけになればうれしいなと思っております」と語る。
エフィラも「この賞を多緒さんと一緒に受賞することができて、とてもうれしく思っております。本当にラッキーだなと思いました。カンヌで賞をもらったときは、監督が一緒に舞台に上がらなかったのが変だなと思っていたんです。やはりこの映画は監督の仕事の成果でもありますから」とコメントした。
会見には濱口竜介監督とプロデューサー陣も参加。この映画における女優が持つ意味について質問を受けた濱口監督は、「カンヌという大きな舞台で、すばらしい作品が集まる中、二人の演技が評価されたというのは我々全員にとっても大きな喜び。私にとっても映画の中心は俳優だし、俳優たちの感情が、映画の現場で集中できるようにと考えていましたので、全員の力が集まって、全員の相互関係などもあって。それが二人の輝きにもつながっているんじゃないか」と付け加えた。
■日本人初の喜びと、岡本とエフィラが語る濱口流の演出術
今回の賞が日本人初の女優賞であることについて、岡本は「私がこれを受賞して、監督たちのもとに戻るまで、日本人初ということは知らなかった。それの意味、プレッシャーというのは、正直あまり感じられていないんです。それは現実味がない、ということに尽きるんですが、皆さんが、うれしいとか、誇らしいと言ってくださることに、すごく感激しております」と誇らしげに語った。
濱口監督のスタイルについて質問されたエフィラは、「日本人、フランス人ということに関係なく、偉大な監督はみんな自分のやり方を持っているもの。濱口監督のやり方というのは、撮影しているシーンと同じくらい、そのシーンの外のところが大事だというのが違い。シンプルなものと、複雑なものが混合して成り立ってるというのが濱口監督のやり方です」と振り返った。
そして、「シンプルなものは、映画のテーマと、私たち俳優、監督の仕事の仕方が合致しています。耳を傾けて、周りの環境と一体になって、物事を掘り下げていくというやり方です。一方で、非常に複雑な部分もあって、監督は少しずつ俳優と人物像を深めていくための資料を与えてくれました」と説明。
「長回しのシーンが非常に多いのですが、他の監督なら編集で別のテイクと合わせるような場面でも、濱口監督は途中で間違えたら最初からしっかりと撮り直します。映画の時間が、撮影現場と同じ時間であって、時間との関係性をしっかりと感じられるんです。どうしてここまで困難を突き詰めないといけないのかと思うこともありましたが、それを乗り越えたところに自由もあったんです」と続けた。
続く岡本も「私は濱口さんの脚本の大ファンなんです。その筆力、文才というか、監督の書くセリフは、私が知っている中でもずば抜けてすばらしいものだと思っております。それを今回、体験させてもらったわけですが、何度読んでもすばらしい。そんな感覚になれることはなかったんです。ほかにもいろんなユニークな部分がありますけど、印象に残ってることといえば、現場で役者を見てくださってるんだな、と感じます」と回顧。
「他の部署への信頼、気を使う部分は前もって準備されているから、カメラが回った瞬間は役者を見ているし、声を聞いている。それを身体で感じられるというのがすごくユニークだなと思います。ただ声を聞いてるというところもあるので、いろいろバレちゃうので、こちらとしても緊張感があって、気が抜けない現場でした」と続けた。

■濱口監督が確信した、俳優の声の中に宿る人間性
かつてロカルノ国際映画祭最優秀女優を獲得した「ハッピーアワー」で組んだ岡本英之プロデューサーからは、「濱口さんにとって女優賞というのが一番最高の賞なのでは?」という指摘があった、というエピソードに触れた記者からは、「濱口監督にとっての女優賞とは?」という質問も。それに対して濱口監督は、「岡本さんは分かっている、ありがたいなと思います」と笑顔。
続けて、「今回はもともと自分がやっている方法論でやらせてもらったのですが、フランス語話者の俳優たちのある種の自由さ、即興性というものを日本で本読みするときよりも感じました。一方で日本語で、主に多緒さんにやってもらって感じたことは、声がだんだん深まっていく感じで。死というものを扱っていく上で、シーンが進むにつれて弱くなっていかないといけないものなのですが、こんなに芯が残るのかと思ったんです。こんなに弱く発声しても、それでも芯のある多緒さんの人間性というか、声の中に人間性が宿ってる。そこに新しい発見があったような気がしています」とコメント。
さらに「自分にとって演技というのは、優秀な俳優と仕事することの喜び。日本の現場では、俳優が家でセリフを覚えて、撮影現場でセッティングが終わったところで、ここでセリフを言ってもらえませんかとなることが多いと思うので、撮影現場で相互反応していくことは難しい。でも自分としては、現場で何かを感じ合うのならば、それは記録されると思っているので、現場では俳優が注意を向け合っていれば、何かが起きるんじゃないかと思い、準備をしました。そして結果としてそういうものが映っていたように思います」と語る。
また、「そもそも二人は演技もすばらしいけど、そもそもの人間性がすばらしいんです。映画のモデルになった二人の人間性も表現されているんじゃないかなと感じていて。そういうものを観ていて、私も撮影現場でも感動していたし、編集や音入れの時も、何なら泣いてしまったんです。そういうことが世界の人にも届くものなんだと今回感じられたのはうれしいこと。自分の仕事が報われたような気持ちでおります」と言葉をかみ締めるように語った。

■キャスティングの決め手と国際協力が生んだ映画の普遍性
二人のキャスティングについて質問が及ぶと、エフィラについて「基本的には、キャスティングのときは演技というよりはお話をしています。そこでその人の人間性が物語のキャラクターと適合するかどうかということです。マリー=ルーという役に必要だったのは真っすぐな姿勢であるということ。エフィラさんは覚悟があるとおっしゃってくださったということと、この方がそうおっしゃってくださるのであれば、仕事をしない理由はないということです」と説明。
岡本のキャスティングについては、「多緒さんもジェームズ・マンゴールド監督の映画に出てるのは知っていました。それほど演技の経験は多くなかったかもしれないですが、非常に凛とした姿をたたえていて。英語もすばらしい。そして実際に話してみたら、驚くというか、フッと笑われたときに、赤ん坊のようなかわいらしさがあって。凛とした姿と合わせていいバランスだなと」と語る。
さらに、「(モデルとなった)宮野真生子さんはがんを患っていらっしゃいましたが、絶対に弱った姿を見せないところがあったと伺って。表面上は軽やかだけど、内には芯があるということで、多緒さんとは、2回くらいお会いしてそれを感じたので、それでお願いしました。二人の間に、友情のようなものが生まれるかどうかはこちらではコントロールできないのですが、結果として二人がお互いに支え合う感じになったので、本当にうれしく思っています」と、二人を評する一幕もあった。
また本作がフランス、日本、ドイツ、ベルギーの合作映画ということで、「日本映画というくくりをどう思うか?」という質問も。濱口監督は「この映画は90%がフランスで撮影し、スタッフも90%フランス人なので。そもそも映画というのはどこの映画のというよりも、国際流通力が高いもの。単に日本映画、単にフランス映画というよりも、国際協力だからこそできた映画だと思っております」と語った。


