
誰にも見つからないよう、そっと地中に隠された金の装身具。
それが1200年以上の時を超えて、再び日の光を浴びました。
サウジアラビア遺産委員会は、同国カスィーム州にあるディルイーヤ考古遺跡で、アッバース朝時代にさかのぼる金製装身具の一群を発見したと発表しました。
発見されたのは約100点の金製品で、宝石をあしらった装飾品やビーズなどを含む、ひとそろいの装身具セットだった可能性があります。
この遺跡は、かつてイラク南部のバスラとイスラム教の聖地メッカを結ぶ巡礼路、そして交易路の沿線にありました。
そのため今回の財宝は、中世にメッカを目指して旅をしていた巡礼者、あるいは交易に関わる人物によって埋められたものかもしれません。
目次
- 土の中から現れた「金の装身具」
- 巡礼者、商人、職人が行き交った中世の交通路
土の中から現れた「金の装身具」
今回の発見で特に目を引くのは、金と色石を組み合わせた精巧な装身具です。
考古学者によると、装飾品には花を思わせる植物文様が、幾何学的な配置で施されていました。
なかには、複数の花弁をもつ花の形をした意匠があり、その中心には金の枠に取り付けられた色石が置かれています。
また、左右対称の模様で色石をはめ込んだ大きな円形装飾品や、多色のビーズ、金製の仕切り飾りも含まれていました。
【実際の画像がこちら】
これらは単に「金を使った高価な品」というだけではありません。
金板を手作業で打ち延ばして形を整え、表面に浮き彫りのような装飾を施し、さらに石をはめ込むという高度な技術で作られていました。
小さな装身具の中には、当時の職人たちの金細工技術と、美意識が凝縮されていたのです。
この財宝がなぜ地中に埋められたのかは、まだ分かっていません。
持ち主が一時的に隠して戻れなくなったのか、危険を避けるために急いで埋めたのか、あるいは別の理由があったのかは不明です。
ただし、ディルイーヤが巡礼路や交易路に関わる重要な場所だったことを考えると、旅の途中の巡礼者や商人に関係していた可能性は十分に考えられます。
巡礼者、商人、職人が行き交った中世の交通路
ディルイーヤ遺跡では、金製品だけでなく、同時代の生活を示す多くの痕跡も見つかっています。
発掘では、石造りの建物の基礎、泥壁、炉跡、漆喰で仕上げられた部屋、土器、金属製の道具などが確認されました。
これらの遺構は、この場所が単なる一時的な通過地点ではなく、人々が暮らし、働き、物資をやり取りしていた集落だったことを示しています。
【ディルイーヤ遺跡の空撮画像がこちら】
アッバース朝は750年に成立し、その後、イスラム世界の文化や科学が大きく発展した時代を支えた王朝として知られています。
当時、メッカへの巡礼であるハッジは、信仰の旅であると同時に、人や物、情報が広く移動する機会でもありました。
巡礼路沿いの町や宿駅には、遠方から来た人々が立ち寄り、食料や水、道具、装身具、工芸品などが行き交っていたと考えられます。
今回見つかった約100点の金製品は、そうした中世イスラム世界の交流の一端を物語る存在です。
それが巡礼者の持ち物だったのか、裕福な住民の財産だったのか、あるいは交易品だったのかは、今後の調査を待つ必要があります。
しかし、土器の中に隠されていた金と宝石の装身具は、1200年前の人々がこの地を旅し、暮らし、祈り、商いをしていたことを静かに伝えています。
地中に眠っていた財宝は、単なる宝物ではありません。
それは、中世の巡礼路が信仰だけでなく、文化と技術を運ぶ道でもあったことを示す、小さく輝くタイムカプセルなのです。
参考文献
1,200-year-old gold hoard discovered in Saudi Arabia may have been buried by a medieval pilgrim
https://www.livescience.com/archaeology/middle-east/1-200-year-old-gold-hoard-discovered-in-saudi-arabia-may-have-been-buried-by-a-medieval-pilgrim
Saudi Arabia uncovers Abbasid-era gold jewellery at archaeological site
https://gulfnews.com/world/gulf/saudi/saudi-arabia-uncovers-abbasid-era-gold-jewellery-at-archaeological-site-1.500546924
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

