
「もっと頑張らなければ」「失敗したら評価が下がる」「完璧にできない自分はダメだ」
こうした感覚に、どこか心当たりがある人は少なくないかもしれません。
若者のメンタルヘルスをめぐる議論では、スマートフォンやソーシャルメディアの影響がよく注目されます。
しかし、問題はそれだけではない可能性があります。
英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の研究チームは、1989年から2024年までの大学生データを分析し、若者の完璧主義傾向がこの35年間で高まっていることを報告しました。
その原因は何なのでしょうか?
研究成果は2026年5月の心理学誌『Psychological Bulletin』に掲載されています。
目次
- 若者は「高い目標」だけでなく「失敗への恐れ」も強めている
- 背景には「経済の停滞」と「格差拡大」がある可能性
若者は「高い目標」だけでなく「失敗への恐れ」も強めている
今回の研究では、1989年から2024年までに行われた307件の研究が分析対象になりました。
対象者は、アメリカ、カナダ、イギリスの大学生、合計8万2000人以上です。
いずれの研究でも、学生たちは標準的な完璧主義尺度を用いて、自分自身の傾向を評価していました。
研究チームが注目したのは、完璧主義をひとまとめにしないことです。
完璧主義には、大きく分けて2つの側面があります。
1つは「完璧主義的努力」です。
これは、非常に高い目標を掲げ、それを達成しようと努力する傾向を指します。
もう1つは「完璧主義的懸念」です。
こちらは、失敗への恐れ、自分の判断への不安、他人から否定的に見られることへの恐れなどを含みます。
いわば「もっと上を目指したい」という前向きな側面と、「失敗したら終わりだ」と感じる苦しい側面があるのです。
分析の結果、1989年から2024年にかけて、大学生の自己申告による完璧主義は全体として上昇していました。
特に2000年代初頭以降は、「完璧主義的懸念」が「完璧主義的努力」よりも速いペースで増えていました。
つまり現代の若者は、単に向上心が高くなったというより、失敗や評価への不安をより強く抱えるようになっている可能性があります。
背景には「経済の停滞」と「格差拡大」がある可能性
では、なぜ若者の完璧主義は高まっているのでしょうか。
チームは、完璧主義の変化と、各国の経済状況との関係を調査。
その結果、1人当たり国内総生産の伸びが鈍くなることは、「完璧主義的努力」の高さと関連していました。
一方で、経済格差の拡大は、「完璧主義的懸念」のより急な増加と関連していました。
これは、「経済的なチャンスが少ない社会では、若者が自分をさらに追い込んで努力しようとする」可能性を示しています。
また、格差が広がる社会では、成功と失敗の差が大きく見えやすくなります。
その結果、「間違えてはいけない」「他人より劣って見られてはいけない」という不安が、若者の心理の中で大きな位置を占めるようになるのかもしれません。
もちろん、この研究は経済格差が完璧主義を直接生み出したと証明したものではありません。
分析から分かるのは、時代ごとの完璧主義の変化と、経済指標の変化が関連していたということです。
また、対象はアメリカ、カナダ、イギリスの大学生であり、すべての若者や日本の若者にそのまま当てはめられるわけではありません。
ただし、35年分の大規模データを用いた今回の研究は、若者の心の変化を「SNSのせい」とだけ片づけることに注意を促しています。
実際、完璧主義の上昇は、ソーシャルメディアが現在ほど広がる前から始まっていました。
チームは、スマートフォンやソーシャルメディアが影響を与えている可能性を否定しているわけではありません。
しかし、その奥には、競争の激化、経済的不安、格差の拡大といった、より深い社会的要因があるかもしれないのです。
また完璧主義は、うつや不安などのメンタルヘルス症状とも関連しています。
しかも、その関連は時代を通じて安定していました。
「完璧でなければならない」という感覚が広がるほど、若者の心にかかる負担も増えていく可能性があるのです。
若者のメンタルヘルスを考えるとき、必要なのはスマホを取り上げることだけではないのかもしれません。
失敗してもやり直せる社会、他人と比べすぎなくても生きていける環境をどう作るか。
完璧主義の増加は、若者個人の性格の問題ではなく、社会そのものが発しているプレッシャーの反映なのかもしれません。
参考文献
Young adults are more perfectionistic than ever before, study finds
https://medicalxpress.com/news/2026-05-young-adults-perfectionistic.html
元論文
Perfectionism Is Accelerating Over Time: A Cross-Temporal Meta-Analytic Review of 35 Years of College Student Data
https://doi.org/10.1037/bul0000518
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

