
6月23日(火)は沖縄県が定める「慰霊の日」。太平洋戦争末期に起きた地上戦によって数多くの命が失われた沖縄は、その後1972年の本土復帰に至るまで米軍の統治下に置かれていた。人々の苦悩と再興を期して立ち上がった時代の空気や人々の息遣いを、映像作品はタイムカプセルのように保存している。本稿では激動の時代を映し出した作品から復帰後の沖縄カルチャーを映し出したドキュメンタリーまで、“歴史を伝える映像世界”をピックアップ。長きにわたって独自の歴史を歩んだ沖縄の今と昔を、各時代の名作映画とともに振り返る。
■復帰前の沖縄の情景を記録した映画「海流」
1959年に製作された映画「海流」は、沖縄が日本へ返還される前の時代背景を克明に映し出す貴重な劇映画だ。米軍統治下という特殊な環境下…日本本土との往来に厳格な渡航制限が存在した時代において、実際の風景をフィルムに収めた記録としての価値は極めて高い。
物語は週刊女性に連載された新田次郎の同名小説を映画化。台湾沖で遭難した紅洋丸の乗組員・豊野(大木実)が密輸船に救われたことから、物語は始まる。口封じに危うく殺されそうになったところを、命からがら逃げ延びた先が沖縄だった。助けてくれた密輸船の船長に従って本土へ帰還する日を待つ豊野だが、現地で生活を送るなか知り合った富川(岡田茉莉子)らと不思議な縁を築くことになる…。
同映画において注目すべきは、当時の複雑な社会情勢をありのままに描いた点だ。本土への行き来に「日本渡航証明書」を携える必要があった当時、映像のなかでも右側通行の交通事情やドル紙幣での経済活動など“米国統治下”を色濃く映し出す風景があちこちで見られる。何気ない街頭の看板や通行人のファッションなど、あらゆる背景美術がそのまま貴重な歴史のアーカイブと言えるだろう。
単なる娯楽作の枠を超えた価値を持つ本作。キャストたちが見せるすれ違いと哀切の物語はもちろん、現代の私たちが“沖縄のこれまで”に思いを馳せる極めて貴重な資料としても楽しむことができる。
■伝説のバンドを追ったドキュメンタリー「紫 MURASAKI 伝説のロック・スピリッツ」
沖縄の歴史を深く語る上で、巨大な米軍基地の存在とそこから派生した独自の音楽カルチャーは切り離すことができない。政治に翻弄され、社会的な混迷を極めた沖縄の本土復帰が決定する1972年より少し前…1970年代の混迷期に結成されたロックバンドが「紫」だ。
2022年に公開されたドキュメンタリー映画「紫 MURASAKI 伝説のロック・スピリッツ」は、日本のロックシーン全体にも多大な影響を与えた伝説のバンド「紫」の軌跡を克明に追った映画。
同作では「紫」メンバーが、結成からこれまでの活動や沖縄本土復帰当時の熱気を振り返る。そして1975年の本土デビューを目の当たりにしていたLOUDNESSや影山ヒロノブ、紫に影響を受けた聖飢魔IIやPATA(X JAPAN)らが出演。それぞれの視点から見た「紫」の歩みを語っていく。
「紫」と言えば音楽誌「ミュージック・ライフ」の人気投票で国内部門グループ第1位を獲得するなど、当時のロックシーンを牽引する存在。そんな彼らがベトナム戦争に関連する社会情勢の動き、そして本土復帰という大きな過渡期を振り返るだけでなく、コロナ禍に見舞われてなお立ち上がる“現代”の姿までを映し出す。
■若者の再生を描く「ゴーヤーちゃんぷるー」
時代が大きく進んだ21世紀の沖縄は、過去の悲劇を継承しながらも新しいポップカルチャーの発信地へと変貌を遂げていく。時代は進み、2000年代。当時の若者たちが抱えるリアルな苦悩を描いたのが映画「ゴーヤーちゃんぷるー」だ。
「ゴーヤーちゃんぷるー」は児童文学「まぶらいの島」を映画化した作品で、当時16歳だった多部未華子が主演を務める。多部が劇中で演じたのは学校でいじめられ、父の死をきっかけに不登校となってしまった15歳の女子高校生・鈴木ひろみ。彼女は息詰まる都会を離れ、インターネットを通じて知り合った“メル友”…ケンムンが暮らす沖縄の西表島へ旅立つことを決意する。
実は西表島は父と別れた母・喜美子(風吹ジュン)が暮らす場所でもあった。しかしいざ母と再会しても、ひろみの頭に“一度は父のもとに置いていかれた”という暗い考えが頭をよぎってしまう。母にもケンムンにも本名を伝えることができないままで悩むひろみ。だが沖縄ののどかで雄大な自然と開放的な人々に触れるうち、段々とひろみの閉じた心にも変化が生まれていく…。
2000年代の映像作品に映る沖縄は、「南国」としての性質が強くなる。本土復帰から30年以上が経過した2005年に公開された同作において、沖縄は都会で冷え切ったひろみの心を溶かす優しい場所として描かれるのだ。
悲劇的な過去をただ見つめるだけでなく、懸命に歩みを進めてきた沖縄。映画「ゴーヤーちゃんぷるー」には戦争を経ても変わらない自然、地元民の心が感じられる。
今回紹介した3作を、CS放送「衛星劇場」が「オキナワ映画特集」と題して6月に放送。いずれの作品もこれまでテレビ放送・配信されておらず、沖縄が辿ってきた軌跡を映像で確認できる貴重な機会だ。
「海流」は6月12日(金)昼5時30分ほかから、「紫 MURASAKI 伝説のロック・スピリッツ」は6月5日(金)昼5時30分ほかから、「ゴーヤーちゃんぷるー」は6月4日(木)朝8時30分ほかからオンエアされる。
大量の最新情報が止めどなくあふれる現代。忘れないために“過去”を振り返る機会は、意識して“立ち止まる”しかない。文字だけではあいまいになる歴史の輪郭を、映像作品で改めて見つめてみるのもいいだろう。

