
私たちは服を選ぶとき、暑さや寒さ、動きやすさだけでなく、その場に合っているか、あるいは自分がどう見せたいかという点について考えます。
ファッションは快適さよりも、社会的にどんな印象を与えるかに焦点が向けられがちです。
そのため心理学や進化心理学の分野では、衣服は身体の特徴を強調したり、反対に目立ちにくくしたりするものとして研究されてきました。
たとえば、体のラインがわかりやすい服、肌の露出が多い服、フォーマルな服装は、それぞれ見る側に異なる印象を与える可能性があります。
しかし、どんなファッションが見る側にどんな印象を与えるのか? それはそのスタイルを選んだ人の意図と一致するのか? という疑問は様々な服装に焦点を当てて一つ一つアンケート調査していくしかありません。
そんなファッションの影響において、一風変わった題材で調査を行った研究が報告されました。
スロバキア科学アカデミー動物学研究所(Institute of Zoology, Slovak Academy of Sciences)のPavol Prokop氏らは、ブラジャーの着用の有無と、それを見たときの男女の印象について調査を行いました。
すると、男女共にノーブラの人は魅力的に見えるという結果が得られたのです。
また男性はノーブラの女性は性的に開放的という印象を抱く傾向が見られましたが、ノーブラを選択した女性の性格を調査してみると、実際はそんな特性はないことも明らかになっています
この研究の詳細は、2026年4月付けで科学雑誌『Frontiers in Psychology』に掲載されています。
目次
- なんでノーブラの印象なんて調査したのか?
- ノーブラだと開放的な人に見られやすいが、本人の性格を示すとは限らない
なんでノーブラの印象なんて調査したのか?
研究者たちは、衣服には身体を「見せる」役割と「隠す」役割があると考えています。
露出の多い服、身体のラインを強調する服は、魅力を高める方向に働き易いことが過去の研究から指摘されています。
しかし、当然すべての人が身体のラインを強調したいと考えるわけではなく、隠したりラインをわかりづらくしたりする場合もあります。
それは自身のコンプレックスと関連する場合もありますし、デートで相手の気を惹く、面接で誠実な印象を与えるなどの印象を調節する戦略になる場合もあります。
服装によって、実際周囲はどんな風に感じるのかを理解することは心理学においても社会的な意味においても重要なテーマです。
そして、今回の研究チームが着目したのは、ノーブラだと人はどんな印象を受けるのか? という問題です。
進化心理学的には、胸は魅力に関わる重要なパーツと捉えられています。ブラジャーは、身体を支える下着であると同時に、胸の形や輪郭の見え方にも関わる衣服です。
そのため研究者たちは、ブラジャーを着けない状態が、見る側にどのような印象を与えるのかに注目したのです。
ここで重要なのは、下着であるブラジャーは直接見えるものではないため、単純に快適さの問題でつけないという選択肢が可能だということです。
そのため服装を選んだ本人と、それを見る側の人間との間で、意識や印象の乖離が起きる可能性があります。
こうした点に着目しつつ、研究者たちは次の二つの点を調べました。
一つは、女性本人が公共の場や自宅でどのくらいブラジャーを着けるのかという行動です。
もう一つは、ブラジャーありとなしの写真を見た男女が、その女性をどのように評価するのかという印象です。
調査対象となったのは、スロバキアの異性愛成人686人です。内訳は女性409人、男性277人で、年齢は18歳から61歳でした。
女性参加者には、夏の公共の場と自宅でどれくらいブラジャーを着けるかを尋ねました。
さらに、自尊心、胸への満足度、胸の大きさや形、メディア接触の頻度、性的ハラスメントへの不安なども調べました。
一方、男性参加者には、胸のサイズの好みや、性的行動に関する傾向、ノーブラ女性に対する印象などを調べる項目が含まれていました。
印象評価では、白いTシャツを着た女性の胴体写真を使いました。
同じ女性について「ブラジャーあり」と「ブラジャーなし」の写真を10組用意し、全男性参加者277人と一部の女性参加者158人に見せました。
参加者は、それぞれの写真ペアについて「どちらがより魅力的に見えるか」「どちらがよりパートナーに誠実そうに見えるか」を選びました。
ここで言う「魅力」とは恋愛や性的関心の対象としての印象であり、「パートナーへの誠実さ」とは恋人や配偶者との関係に対して一途そうに見えるか、つまり浮気しにくそうに見えるかという印象を指します。
ノーブラだと開放的な人に見られやすいが、本人の性格を示すとは限らない
調査の結果、公共の場でノーブラになる女性は少数派でした。
女性409人のうち321人、つまり78.5%は、公共の場ではほとんどいつもブラジャーを着けると答えました。
一方で、公共の場でもほとんどブラジャーを着けないと答えた女性は9人で、全体の2.2%でした。
自宅ではブラジャーを着けない頻度が高くなり、公共の場とは傾向が大きく異なっていました。
この違いは、ブラジャーの着用が単なる身体的な快適さだけでなく、周囲からの見られ方や社会的な規範とも関係している可能性を示しています。
公共の場でノーブラになりやすい傾向は、自尊心の高さ、胸への満足度の高さ、胸の形への自己評価、シリコンインプラントの有無と関連していました。
反対に、性的ハラスメントへの不安が強い女性ほど、公共の場でノーブラになりにくい傾向がありました。
つまり、女性が公共の場で服装を選ぶとき、快適さだけでなく、誤解や不快な反応を避ける意識も関わっている可能性があります。
一方、写真評価では、ブラジャーを着けていない状態は男女の評価者から魅力的に見られやすい傾向がありました。
男性評価者は、ブラジャーなしの写真をブラジャーありの写真よりも性的に魅力的だと選びやすく、女性評価者にも同じ方向の傾向が見られました。
ただし、この結果は白いTシャツを着た胴体写真を比較した条件で得られたものです。
顔、表情、会話、服全体の雰囲気、場所の状況などは今回の評価に含まれていません。
そのため、「どんな場面でもノーブラが魅力的に見られる」と解釈することはできません。
研究が示したのは、ブラジャーの有無が身体の見え方を変え、その見え方が魅力の判断に影響し得るということです。
しかし、魅力的に見られやすいことには別の側面もありました。
男性評価者は、ブラジャーなしの女性を「パートナーに対して誠実でなさそう」、つまり「浮気しやすそう」と判断する傾向も示しました。
特に、短期的な性的関係への開放性が高い男性や、性的ハラスメントを行う意図が高い男性ほど、ノーブラを不誠実さの手がかりとして受け取りやすい傾向がありました。
ここで重要なのは、これは女性本人の実際の性格を示すものではないという点です。
研究者たちは当初、短期的な性的関係に開放的な女性ほど、公共の場でノーブラになりやすい可能性も考えていました。
しかし実際には、公共の場でのノーブラ頻度は、女性本人の短期的な性的関係への開放性とは関連していませんでした。
つまり、見る側がノーブラを「性的に開放的そう」「浮気しやすそう」と受け取ったとしても、その印象が本人の実際の傾向を正しく表しているとは言えません。
女性がノーブラを選択する意図は主に次の4つの理由でした。
第一に、身体への満足感や自信です。自分の胸の形や見た目に満足している人ほど、ブラジャーで補正したり隠したりする必要をあまり感じない傾向が見られました。
第二に、快適さです。特に自宅ではノーブラがかなり多く、これは性的アピールというより、締めつけを避けたい、楽でいたい、などの理由があり、自宅外でノーブラを選択する人にも、アピール目的より、主にこちらの理由が影響する傾向が見られました。
第三に、ファッションや自己表現です。服の形や素材、流行、着たいシルエットによっては、ブラジャーを着けない、あるいは目立たない下着を選ぶことがあります。
第四に、公共の場では逆に、ハラスメントや誤解を避けるためにブラを着けるという人も多くいました。今回のデータでは、性的ハラスメントへの不安が強い女性ほど公共の場でノーブラになりにくい傾向がありました。
つまり、ブラジャーをつける人は性的な目を避けるという目的があった一方で、ブラジャーをつけない人は単に楽だからという理由が中心になりがちだったのです。
なお、この研究結果はスロバキアの異性愛成人を対象としたものであるため、異なる文化を持つ地域や人種では結果が異なる可能性があります。
今回の研究で重要なのは、服装の見え方と、そこに他人が読み込む意味の間にズレが生じることです。
ここからわかるのは、多くの人が社会的な目を気にしてファッションを選ぶ傾向があるため、自分にとって楽な服装を選ぶ人が誤解を受けやすくなる可能性です。
この研究は、女性の服装選びが単なる好みや快適さだけでなく、社会的な視線や誤解への意識とも結びついていることを示しています。
人目を気にしすぎるのもよくありませんが、見る人の印象はたいていその格好を選んだ本人の意図とは別に意味で服装を捉える傾向がある点には注意したほうが良いかもしれません。
元論文
Women’s and men’s perceptions of (not) wearing a bra in public
https://doi.org/10.3389/fpsyg.2026.1797201
ライター
相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。
編集者
ナゾロジー 編集部

