
毎日世話をしてくれる人の顔を、牛はちゃんと覚えているようです。
フランス国立農業・食料環境研究所(INRAE)のチームは、牛が見慣れた人間と見慣れない人間の顔を区別し、さらに顔と声を結びつけられることを明らかにしました。
牛は単なる「のんびりした家畜」ではなく、人との関係の中で相手を認識し、記憶している可能性があります。
研究成果は2026年5月20日付で学術誌『PLOS One』に掲載されました。
目次
- 牛は知らない人の顔ほど長く見つめた
- 顔と声を結びつけることもできた
牛は知らない人の顔ほど長く見つめた
牛は人間と非常に近い距離で暮らす家畜です。
毎日の給餌や搾乳、健康管理などを通じて、特定の世話係と繰り返し接しています。
そのため研究チームは、牛が「よく知っている人」と「知らない人」を顔で見分けられるのではないかと考えました。
実験には、フランスの施設で飼育されているプリム・ホルスタイン種の牛が参加しました。
チームは牛の前にスクリーンを用意し、見慣れた男性の顔と、牛にとって見慣れない男性の顔を映した動画を見せました。
このとき動画は無音で、牛がどちらの顔をどのくらい長く見るかが測定されました。

結果、牛は見慣れた人の顔よりも、見慣れない人の顔を長く見つめました。
これは、牛が少なくとも動画上の顔を手がかりに、知っている人と知らない人を区別できることを示しています。
ただし、この結果は「牛が知らない人を好きだった」という意味ではありません。
見慣れない顔は新しい刺激であり、牛にとって注意を向けるべき対象だった可能性があります。
そのため正確には、牛は知らない人の顔により強く注意を向けた、と理解するのがよいでしょう。
顔と声を結びつけることもできた
チームはさらに、牛が顔だけでなく、声も組み合わせて人間を認識できるかを調べました。
これは「クロスモーダル認識」と呼ばれる能力です。
視覚で得た顔の情報と、聴覚で得た声の情報を結びつけて、同じ相手として認識できるかを見るものです。
実験では、見慣れた人と見慣れない人の顔の動画を見せながら、どちらか一方の男性の声を再生。
このとき2人の男性は同じ文を話しており、言葉の内容ではなく、声そのものと顔の対応が調べられました。
すると牛は、流れている声と顔が一致している動画をより長く見つめました。
これは、牛が「この声はこの顔の人のものだ」と対応づけている可能性を示しています。
一方で、心拍数には大きな違いは見られませんでした。
つまり、見慣れた顔や声、見慣れない顔や声によって、牛が強い恐怖や興奮を示したわけではなさそうです。
今回の結果は、感情の大きな変化というより、注意の向け方や認識の違いとして捉えるのが適切です。
もちろん、動画と録音音声は、実際に人間と向き合う状況そのものではありません。
現実のやり取りでは、におい、姿勢、動き、距離感など、もっと多くの手がかりが含まれます。
それでも今回の研究は、牛が人間をぼんやりと「人間」として見ているだけでなく、顔や声を使って個別に識別している可能性を示しました。
牛にとって世話係は、ただ餌をくれる存在ではなく、顔と声をもった「見分けられる相手」なのかもしれません。
牛の福祉を考えるうえでも、こうした認知能力を理解することは重要です。
私たちが牛を見分けるように、牛もまた、私たちのことを静かに見分けているのかもしれません。
参考文献
Cows can tell humans apart, new study finds
https://www.popsci.com/environment/cows-tell-humans-apart/
Cows recognize a familiar human face
https://www.eurekalert.org/news-releases/1128053
元論文
Cows visually discriminate and cross-modally recognise familiar and unfamiliar human faces in videos
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0329529
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

