
動画配信サービスや音楽アプリを開くと、私たちはすぐに「あなたへのオススメ」に迎えられます。
それは自分の好みをよく理解してくれる便利な機能ですが、もしその正確さが、長い目で見るとエンタメ体験をつまらなくしているとしたらどうでしょうか。
このほど、カナダ・トロント大学(University of Toronto)の研究者は、オススメ機能のアルゴリズムがユーザーの好みの変化に与える影響を数理モデルで検討。
その結果、短期的な好みの反応を正確に読み取りすぎるオススメ機能は、ユーザーをいつもの好みに閉じ込め、長期的には満足度を下げる可能性があることが示されました。
研究の詳細は2026年4月17日付で学術誌『Journal of Cultural Economics』に掲載されています。
目次
- 「好きなものばかり」が、好きなものを減らしていく
- 不完全なオススメ機能の方が、新しい好みを育てる可能性
「好きなものばかり」が、好きなものを減らしていく
音楽、映画、動画、小説などの楽しみ方は、最初から完全に決まっているわけではありません。
最初はピンとこなかったジャンルでも、何度か触れるうちに聴き方や見方が分かり、だんだん好きになることがあります。
一方で、好きなものでも浴びるように繰り返されると、やがて飽きてしまいます。
研究主任のサムスン・ナイト(Samsun Knight)氏はこの関係を「適度な接触で好感度が高まり、過剰な接触で好感度が下がる逆U字型の曲線」としてモデル化しました。

問題は、現在の多くの推薦システム(オススメ機能)が、ユーザーの「今の好みの反応」を重視していることです。
たとえば、ある人がなじみのない音楽ジャンルをスキップした場合、アルゴリズムは「このジャンルはその人に合わない」と判断しやすくなります。
しかし実際には、その人はまだそのジャンルの楽しみ方を知らないだけかもしれません。
もし数年かけて触れていれば、将来は大好きになっていた可能性もあります。
ところが、短期的な反応だけを見る推薦システムでは、ユーザーの好みの芽が育つ前に推薦候補から外されてしまうのです。
ナイト氏は、ヒップホップのような音楽ジャンルを一つの例として挙げています。
新しい音楽様式は、登場直後には多くの人にとって耳慣れず、時には不快に感じられることもあります。
しかし時間をかけて接触することで、人々はその魅力を理解し、やがて大きな文化として受け入れていきます。
もし過去に現在ほど強力な推薦アルゴリズムが存在していたなら、初期の低評価によって新しいジャンルが広がる機会を失っていたかもしれません。
不完全なオススメ機能の方が、新しい好みを育てる可能性
今回の研究は、実際のユーザーを長期間追跡したものではなく、好みが変化する仕組みを数式で表した理論モデルに基づいています。
モデルでは、ユーザーが特定のコンテンツ様式に触れることで親しみを増し、触れすぎることで飽きるという過程が設定されました。
そして、どのコンテンツを見せればユーザーの反応が高まるかを判断する、複数のタイプの推薦システム(オススメ機能のアルゴリズム)が比較されました。
その結果、非常に正確な推薦システムほど、新しいコンテンツを十分に試さなくなる傾向が示されました。
一度「これは反応が悪い」と判断されたジャンルは、十分に育つ前に排除されます。
一方で、すでに反応が良いコンテンツは繰り返し推薦され、最終的にはユーザーが飽きてしまいます。
つまり正確すぎるアルゴリズムは、自分が集めたデータによって自分の判断を正しいものに見せながら、実はユーザーの好みの幅を狭めてしまうのです。
興味深いのは、少し不完全な推薦システムのほうが、長期的には満足度を高める場合があったことです。
モデルに適度な予測誤差、つまり少しのランダム性を入れると、アルゴリズムは時々、ユーザーが普段なら選ばないコンテンツを表示します。
その偶然の出会いが、新しいジャンルへの親しみを育てるきっかけになります。
また、いつものお気に入りから一時的に離れることで、飽きを防ぐ効果もあります。
もちろん、完全にランダムな推薦が良いという意味ではありません。
重要なのは、短期的なクリックや再生時間だけを追いかけるのではなく、ユーザーの好みが時間をかけて変わることを前提に、適度な探索を残すことです。
ナイト氏は、推薦システムが単に好みを反映するだけでなく、将来の好みを形づくる存在でもあると考えています。
参考文献
Recommendation algorithms might be making your entertainment boring, new research suggests
https://www.psypost.org/recommendation-algorithms-might-be-making-your-entertainment-boring-new-research-suggests/
元論文
Engagement-based curation and the evolution of taste
https://doi.org/10.1007/s10824-026-09591-3
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

