学んで、学んで、感じる。
カールのかかった頭髪を揺らす上ノ坊駿介は、神出鬼没の動きとしなやかな走りで光る。
2026年6月2日。コベルコ神戸スティーラーズの先発フルバックとして、ジャパンラグビーリーグワン1部のプレーオフ準決勝に出た。
最高気温30度超の晴天のもと、1万5412人を集めた東京・秩父宮ラグビー場での大一番である。
「最初は緊張もありましたけど、徐々にほぐれていきました」
東京サントリーサンゴリアスを69―23で下した。恐るべき波状攻撃の序章を奏でたのは前半6分。赤の背番号15がハーフ線付近の中央から右方向へ回り込み、防御の裏側へキックパスを放つ。先制トライをお膳立てした。
さらに独自色を示したのが、続く18分のワンシーンである。
スティーラーズが敵陣10メートル線付近左のラインアウトから攻撃開始。向こうの圧でやや後退しながら、ハーフ線付近後方からセンターのタリ・イオアサが直進した。
2人にタックルされながらも前のめりになって味方フッカーのアッシュ・ディクソンへパス。次の繋ぎ次第で勢いがつきそうな場所にいたのが、上ノ坊だった。
ディクソンが目の前の防御2名を引き寄せたその右脇でパスを受け取り、右側に膨らみながら別なタックラーをひらりとかわしながら10メートル線に達した。
まもなく後方にいたロックのブロディ・レタリックへバックフリップパスを渡すと、レタリックをサポートしたウイングの植田和磨がスピードを活かしてラインブレイク。サンゴリアスのペナルティーを誘い、約3分後には敵陣ゴール前左で上ノ坊がトライを決めた。そのトライも、複数の追っ手に囲まれていたウイングのイノケ・ブルアを援護した形だ。
そこでボールをもらえばブレイクできるであろう場所に立ち、その通りにブレイクするのが真骨頂だ。
本人は「いつも最後の最後まで相手のディフェンスを見て、本当にギリギリのところで判断を」。ディフェンスコーチのピート・マーチィ、アタックコーチのマイク・ブレアの名を挙げながら、こう答える。
「(普段は)ディフェンスはピートが、アタックではマイクがいいアドバイスをくれます。ただ(本番では)シンプルに、シンプルに、シンプルにと、あまり考え込み過ぎず、自分の得意な間合い、感覚でプレーしようとしています」 学んで、学んで、感じる人なのが伝わる上ノ坊は、身長183センチ、体重88キロの22歳。昨年末までは天理大でプレーしていた。いまのリーグワンには、大学4年生が卒業前から公式戦に出られるアーリーエントリーの制度で参加する。
世間の年度が変わったいまも実質0年目の扱いながら、レギュラーシーズン第7節でデビュー戦ハットトリックを記録するや13戦連続で出場中だ。トライラインを割ったのはこの日が11度目で、アーリーエントリー組初の新人賞獲得へも期待が高まる。
学生時代、23歳以下日本代表に選ばれている。その時にコーチングを受けた現日本代表のエディー・ジョーンズヘッドコーチからは、本人が4月24日に謹慎処分を受ける直前にこう期待された。
「どんどんステップアップしてくれること、神戸があのような選手にチャンスを与えてくれることは嬉しい。ワールドクラスでは一貫性が求められる。全部のパスをキャッチし、よいキックを放たなくてはいけない。その点は凄く成長している。これからはよりパワフルに、より速くなる必要があります」
本人はただいまを生きる。生来のスペース感覚と技術を大きなステージでも堂々と活かしながら、地に足をつける。
「大きな舞台はあまり経験したことがなく、得意かと言われたらそうじゃないのかもしれないですが、楽しめたのかなと。(毎回)試合に向けていい準備ができています。(リーグワンが)終わったら、ちょっとゆっくりしに行きたいとは思っています。もし(代表活動に)行けるのであれば、また気持ちを切り替えて頑張りたいです」
振り返れば昨年の初夏、リーダーを務めていた天理大ラグビー部が動きを止めた。一部の部員に不祥事があり、残された100名超の選手もフィールドに出づらくなった。
後のライジングスターは、ひとり寮の部屋で漠たる不安にさいなまれた。すでに進路は決まっていたから、早めに大学を辞してスティーラーズの世話になろうかと考えたこともあった。
結局は、夏から活動再開のグループを最後まで引っ張ると決めた。かくしていまに至る。
「こうしてラグビーができることが当たり前じゃない。感謝の気持ちは常にあります。あの期間があったからこそ、そう強く思えたのかなと」
6月7日の国立競技場を無心で駆けることができるのは、嬉しい。
取材・文●向風見也(ラグビーライター)
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