
「誰かに相談したい。でも、親や友人には言いにくい」
そんなとき、若者たちの相談相手は、もはや人間だけではなくなっているのかもしれません。
近年、ChatGPTやGoogle GeminiのようなAIチャットボットは、調べものや文章作成だけでなく、気持ちを整理したり、不安を聞いてもらったりする相手としても使われるようになっています。
では実際に、若者はどれほどAIに「心の悩み」を打ち明けているのでしょうか。
米ランド研究所(RAND)の研究チームは、アメリカの12〜21歳を対象に、メンタルヘルスの助言を求めてAIチャットボットを利用した経験を調査。
その結果、アメリカの若者のおよそ5人に1人が、悲しみ、不安、怒り、ストレスを感じたときに、AIチャットボットへ助言を求めたことがあると推定されました。
研究の詳細は2026年6月1日付で学術誌『JAMA Pediatrics』に掲載されています。
目次
- 若者の5人に1人が、AIに心の悩みを相談していた
- 「役に立った」と感じても、6割以上は誰にも話していない
若者の5人に1人が、AIに心の悩みを相談していた
若者のメンタルヘルスをめぐる状況は、日本だけでなく、米国でも深刻な課題となっています。
米国疾病予防管理センター(CDC)のデータでは、米国の高校生の約3人に1人が、過去30日間のほとんど、または常にメンタルヘルスの状態がよくなかったと報告しています。
さらに2023年の調査では、20.4%が自殺を真剣に考えたことがあると答え、10人に1人近くが少なくとも1回は自殺を試みたことがあると報告しています。
一方で、専門家による支援にすぐつながれる若者ばかりではありません。
予約が取りにくい、費用がかかる、近くに相談先がない、あるいは誰かに知られるのが怖いなど、メンタルヘルス支援にはいくつもの壁があります。
こうした状況の中で、急速に身近になったのがAIチャットボットです。
研究チームは、米国在住の12〜21歳の若者1727人にオンライン調査への参加を依頼し、そのうち1009人が調査を完了しました。
回答結果には統計的な重み付けが行われ、米国の同年代の若者約4282万人を代表するデータとして分析されています。
調査では、参加者に対して「悲しい、怒っている、不安、ストレスを感じているときに、助言や助けを求めてAIチャットボットを使ったことがあるか」が尋ねられました。
その結果、19.2%が「使ったことがある」と回答しました。
これは、米国の12〜21歳の若者に換算すると、約820万人に相当します。
つまり、AIチャットボットへのメンタルヘルス相談は、ごく一部の特殊な使い方ではなく、すでに若者の間でかなり広がっている行動だと考えられるのです。
利用頻度にも注目すべき点があります。
AIチャットボットを使ったことがある若者のうち、42.8%は少なくとも月1回以上、メンタルヘルスに関する助言を求めていました。
さらに5.8%は、毎日またはほぼ毎日使っていると報告しています。
これはAIが、単発の「お試し相談」ではなく、日常的な心の拠り所のように使われている可能性を示しています。
「役に立った」と感じても、6割以上は誰にも話していない
興味深いのは、AIチャットボットを利用した若者の多くが、その体験を肯定的に受け止めていたことです。
利用者の91.7%は、AIチャットボットから得た助言を「非常に役立った」または「ある程度役立った」と評価していました。
誰にも言えない悩みを、いつでも、すぐに、否定されずに書き込める。
この手軽さは、若者にとって大きな安心感につながっているのかもしれません。
しかし、ここには重要な注意点があります。
この研究で分かったのは、あくまで若者自身が「役に立った」と感じたということです。
AIチャットボットの助言が、医学的・心理学的に正確だったか、安全だったかを検証したわけではありません。
研究者たちは、チャットボットが相手に過度に同調したり、褒めたりする傾向によって、「助けられた」と感じやすくなっている可能性にも注意を促しています。
そして、もう一つ大きな問題があります。
AIチャットボットに心の悩みを相談した若者のうち、63.3%は、そのことを誰にも話していませんでした。
相談した相手としては、友人が28.0%、親・教師・医師などの信頼できる大人が16.4%でした。
つまり、多くの若者はAIに相談していながら、その事実を周囲の人間には共有していなかったのです。
この「隠れた利用」は、AIチャットボットをめぐる問題を難しくしています。
AIの利用そのものを単純に否定すれば、若者はさらに相談を隠すかもしれません。
しかし、AIの助言を完全に信じ込んでしまえば、深刻な不安や抑うつ、自傷のリスクがある場合に、専門的な支援へつながる機会を逃す可能性もあります。
また今回の研究では、女性や年齢が高めの10代、そして過去6カ月以内にメンタルヘルスについて医師と話したことがある若者ほど、AIチャットボットを利用する傾向が高いことも示されました。
これは、AI相談が「医療につながっていない人だけの代替手段」ではないことを示しています。
すでに医師に相談している若者も、日常の不安や気持ちの整理のためにAIを併用している可能性があるのです。
研究者たちは、AIチャットボットがすでに若者のメンタルヘルス情報環境の一部になっていると指摘しています。
だからこそ、保護者や医師、教育関係者は、若者に対して「AIなんて使うな」と頭ごなしに否定するのではなく、どのように使っているのかを自然に話し合う必要があります。
AIは、つらい気持ちを言葉にするきっかけにはなるかもしれません。
しかし、深刻な心の不調を診断したり、治療したりする専門家ではありません。
重要なのは、AIを「秘密の相談相手」に閉じ込めないことです。
若者がAIに打ち明けた言葉を、必要なときには人間の支援につなげられるようにする。
それがこれからのメンタルヘルス支援に求められる新しい課題なのかもしれません。
参考文献
1 in 5 teens turn to AI chatbots for mental health advice, but a majority of them keep it secret
https://medicalxpress.com/news/2026-06-teens-ai-chatbots-mental-health.html
元論文
AI Chatbot Use and Disclosure for Mental Health Among US Adolescents and Young Adults
https://doi.org/10.1001/jamapediatrics.2026.2015
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

