錦織圭選手が今季限りでの引退を発表しました。彼は男子テニス界で、90年代よりもタフな時代にありながらトップに入った、日本テニス界の未来を切り開いた存在です。難しいと思われていたことを成し遂げたのは革新的だったと言えるでしょう。
身長は178センチで、日本では決して小さいわけではありませんが、すごく大きくもありません。男子のプロ選手の平均身長は180後半から190センチなので、テニス界の中では小柄な部類に入ります。体格をカバーするためにエネルギーを使わなければいけない状況で、世界4位にまでいくことは簡単ではありません。
トップレベルに到達できたのは、彼の才能でしょう。ボールを扱う才能は抜群でしたし、予測力とゲームを組み立てる時の想像力に意外性があります。急にネットプレーをしたり、リターンエースを決めたりと、当たり前ではないショットの選択ができる発想力がありました。リターン、バックハンド、フットワークも良く、その辺りのバランスが取れていました。
ビッグサービスがあるとか、圧倒的にパワーで押せるというわかりやすいテニスではないぶん、世界のテニス界で対戦相手としては嫌な存在だったと思います。気がつくと術にはまり、流れを持っていかれるような強さがありました。日本人ならではの集中力を維持できる能力は、欧米の選手たちよりも高かったと思います。5セットに強く、逆転勝ちも多いタイプだったので、相手からすると最後まで気が抜けない、難しい対戦相手だったはずです。
引退は、遅かれ早かれ今年かなという予想はついていたので、発表の時期が来てしまったかということと同時に、これは誰にもいつか訪れる日なので、その決断をしたことに対する尊重の気持ちがありました。ただ、彼の引退は日本のテニス界、スポーツ界にとって一つの時代の終わりを意味するので、「錦織圭」という存在がいなくなることの影響を心配しています。
理想は錦織選手がまだ元気でプレーしている間に、下が追い上げてきて切磋琢磨するような時代があった中での世代交代でしょう。今はそこまで追い上げている選手がいないのが懸念点です。テニス人口やテニスファンが他の競技に流れている中で、この絶対的存在がいなくなると、なお響くのではないかと危惧されます。
文●伊達公子
撮影協力/株式会社SIXINCH.ジャパン
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