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会議で”ムキにならない”ために、VR「三人称視点」が役立つ

会議で”ムキにならない”ために、VR「三人称視点」が役立つ

「VR」三人称視点が議論を変えるかも / Credit:Canva

会議や話し合いの場で、自分の意見にこだわってしまった経験はないでしょうか。

最初は冷静だったはずなのに、気付けば「自分が正しいことを証明したい」という気持ちが強くなり、相手の意見を落ち着いて受け止めにくくなることがあります。

もし、そんな状態を防ぐ簡単な方法があるとしたらどうでしょう。

その方法とは、議論中の自分を少し離れた場所から眺めることです。

早稲田大学の研究チームは、バーチャルリアリティ(VR)空間で参加者に「三人称視点」を体験させながら議論させました。

その結果、議論後に他人の最終意見をより正確に推測でき、対立も減ることを発見しました。

本研究は2026年4月13日、ヒューマンコンピュータインタラクション分野の国際会議「The ACM CHI Conference on Human Factors in Computing Systems(CHI)2026」で発表・公開されています。

目次

  • 自分を「一歩引いて見る」と、議論は変わるのか?
  • 「三人称視点」で対立は減るが、共感も少し弱まる

自分を「一歩引いて見る」と、議論は変わるのか?

組織やチームの意思決定では、メンバーが自分の利得や価値観だけにとらわれず、広い視点から議論に参加することが重要です。

しかし実際の会議では、自分の意見を守ろうとするあまり、相手の発言を新しい情報として受け止めにくくなることがあります。

この問題に関わるのが「セルフディスタンシング」です。

これは、自己から心理的に距離を置き、自分の体験を第三者のような視点から見つめ直すことを指します。

過去の研究では、セルフディスタンシングが感情調節や自己制御、行動変容に良い影響を与えることが示されてきました。

ただし、現在進行中の議論でこれを行うのは簡単ではありません。

会議の最中に「今の自分を第三者のように見てください」と言われても、現実にはなかなか実践できないからです。

そこで研究チームは、没入型のVR空間を利用しました。

VRでは参加者がアバターとして会議に参加でき、視点の位置も自由に設定できます。

実験には、一般から募集した144人、48組の3人グループが参加しました。

参加者は20歳から49歳で、各グループは初対面の3人で構成されています。

研究チームは、参加者を「一人称視点」と「三人称視点」の2条件に分けました。

一人称視点では、自分のアバターの頭部から周囲を見ます。

三人称視点では、自分のアバターの少し後ろ、少し上の位置から、自分自身と相手を眺めます。

VRでの一人称視点と三人称視点 / Credit:市野 順子(早稲田大学)ら, CHI2026, CC BY 4.0

そして彼らはVR空間で2種類の意思決定課題に取り組みました。

その結果、三人称視点では、自己の最終意見がグループのコンセンサスと一致する程度が高まり、他者の最終意見を推測する正確さも向上しました。

また、会話の流れを調節するジェスチャーが増え、グループ内の葛藤は減少しました。

一方で、相手の感情に自分の感情が影響される感覚は弱まっていました。

つまり、三人称視点は議論を冷静で合意形成しやすい方向に導く一方、感情的な結びつきには弱点もある可能性が示されたのです。

より詳細な結果は次項で見ていきましょう。

「三人称視点」で対立は減るが、共感も少し弱まる

今回の研究で特に興味深いのは、三人称視点の参加者が、単に冷静になっただけではない点です。

議論後、研究チームは各参加者に、他のメンバーが最終的にどのような意見を持っていたと思うかを尋ねました。

その結果、三人称視点の参加者は、一人称視点の参加者よりも他者の最終意見を正確に推測できていました。

つまり、自分を少し離れた場所から見ることで、自分の主張だけに入り込みすぎず、相手の意見を把握しやすくなった可能性があります。

さらに、グループ内の葛藤も低下しました。

研究では、価値観の違いや対人関係の軋轢を示す「関係葛藤」と、意見の対立を示す「課題葛藤」の両方が調べられました。

その結果、どちらの葛藤も一人称視点より小さくなっていました。

インタビューでも、一人称視点の参加者からは、対立についてのコメントが多く寄せられたのに対し、三人称視点の参加者からは妥協点の模索や意見のすり合わせに関するコメントが多く見られました。

加えて、三人称視点の参加者は、グループのコンセンサスに対して、自分の最終意見も一致していると答える傾向が高まりました。

これは、単に場の空気に流されて合意したのではなく、最終的な結論に本人も納得していたことを示しています。

ただし、良いことばかりではありません。

三人称視点では、グループ内の感情の相互依存性が低下していました。

これは、自己と他者の間で感情や態度がどれくらい影響し合ったと感じたかを示す指標です。

つまり、相手の意見は把握しやすくなった一方で、相手の感情には巻き込まれにくくなっていたのです。

インタビューでも、三人称視点の参加者からは、相手の感情が分かりにくかったことや、感情よりも議事進行を優先したことに関するコメントが多く見られました。

そのため研究チームは、三人称視点は対立が生じやすい局面では有効である一方、共感や傾聴が重視される局面には適さない可能性があると考えています。

たとえば、経営会議や部門間の利害調整のように、感情的対立を抑えて合意形成する場面では役立つかもしれません。

一方で、メンタルヘルス面談やカウンセリング、チームビルディングのように、感情的な近さが重要な場面では注意が必要です。

研究チームは将来的に、議論の状況に応じて視点を切り替える仕組みが有効ではないかと提案しています。

議論が加熱したときには三人称視点で冷静さを促し、共感や参加感が必要なときには一人称視点に戻すというわけです。

この研究は、VR技術に更なる可能性とメリットがあることを教えてくれました。

VRで自分を少し離れた場所から見ることは、状況を正確に理解するための有効な手段なのかもしれません。

参考文献

「一歩引いて見る」ことで議論は変わる ―バーチャル空間での三人称視点が集団意思決定に与える影響を解明―(PDF)
https://www.interaction-ipsj.org/proceedings/2026/data/pdf/INT26005.pdf

元論文

Effects of Embodied Self-Distancing in Virtual Environments on Group Decision-Making
https://doi.org/10.1145/3772318.3791367

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

配信元: ナゾロジー

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