
中国北西部の甘粛(かんしゅく)省にある昌馬(チャンマー)盆地は、古代の鳥たちの化石が大量に見つかる場所として知られています。
しかし、そこに眠っていたのは美しい鳥の化石だけではありませんでした。
研究者たちは長年、この場所で見つかる砕けた鳥の骨に注目してきました。
それらは、現代のフクロウが食べた獲物の骨や羽を吐き戻した「ペリット」によく似ていたため、誰かが古代の鳥を食べていたのではないかと考えられていたのです。
ただ、肝心の「犯人」は見つかっていませんでした。
ところが今回、米カーネギー自然史博物館(CMNH)らの研究チームは、この謎に迫る新種の羽毛恐竜を発見しました。
新たに付けられた学名は「ジアン・チャンマエンシス(Jian changmaensis)」です。
ヴェロキラプトルの近縁にあたるミクロラプトル類で、腕と脚に長い羽毛を備えた、まるで4枚の翼を持つ小さなドラゴンのような恐竜だった可能性があります。
研究成果は2026年6月4日付で学術誌『Annals of Carnegie Museum』に掲載されました。
目次
- 鳥の化石だらけの場所に、1体だけ見つかった「鳥ではない恐竜」
- 空を飛ぶ鳥ではなく「森を滑空する捕食者」だった可能性
鳥の化石だらけの場所に、1体だけ見つかった「鳥ではない恐竜」
昌馬盆地は、白亜紀前期の約1億2400万〜1億2000万年前に形成された地層を含む地域です。
当時のこの場所には大きな湖が広がり、その周辺には鳥、魚、カメなど、さまざまな生き物が暮らしていたと考えられています。
とくに有名なのが、古代の鳥類化石です。
研究者たちは2002年以降、この地域で100点を超える鳥類の部分骨格を発見してきました。
中には羽毛や皮膚、爪の鞘といった軟組織が保存されたものもあり、昌馬盆地は世界的にも重要な鳥類化石産地の一つとされています。
【発見された化石の画像がこちら】
ところが、その一方で奇妙な問題もありました。
この地で見つかる鳥の骨の多くは、きれいな全身骨格ではなく、細かく砕けた断片でした。
しかもその見た目は、現代のフクロウが消化できなかった骨や羽を吐き戻したペリットによく似ていたのです。
つまり、古代の昌馬盆地では、鳥たちを食べていた捕食者がいた可能性がありました。
しかし、長い間その候補となる動物の化石は見つかっていませんでした。
今回発見された新種の羽毛恐竜ジアン・チャンマエンシス(Jian changmaensis)は、その空白を埋める存在として注目されています。
見つかった化石は、左肩と前肢の一部だけです。
具体的には、癒合した肩甲骨、上腕骨、橈骨、尺骨などの部分的な骨でした。
一見すると、ごく限られた材料に思えます。
しかし研究者たちは、これらの骨の形から、この標本がこれまで知られていなかった新種のミクロラプトル類であると判断しました。
研究者は、この恐竜について「この場所で見つかった鳥ではない唯一の恐竜であり、肉食で、ここで見つかっている他の生き物よりもずっと大きかった」と説明しています。
ジアン・チャンマエンシスは、同じミクロラプトル類の中では比較的大型だったようです。
見つかった上腕骨の一部は約10センチあり、全体の翼開長は約1.2メートル、メンフクロウほどの大きさだったと推定されています。
ミクロラプトル類の多くはカラス程度の大きさだったとされるため、ジアン・チャンマエンシスはその中でもかなり目立つ捕食者だった可能性があります。
では、この「4枚翼の恐竜」は、どのように暮らしていたのでしょうか。
空を飛ぶ鳥ではなく「森を滑空する捕食者」だった可能性
ジアン・チャンマエンシスは鳥ではありませんが、鳥を生み出した恐竜の系統に非常に近い仲間でした。
ミクロラプトル類は、鉤爪や鎌状の足の爪といった肉食恐竜らしい特徴を持つ一方で、全身に羽毛をまとい、鳥と恐竜の境界を思わせる姿をしていました。
とくに特徴的なのが、腕だけでなく脚にも発達した羽毛を持っていた点です。
そのため、ジアン・チャンマエンシスも、近縁種と同じように前肢と後肢の両方に翼のような構造を備えていた可能性が高いと考えられています。
まさに、4枚の翼を持つ小さなドラゴンのような姿です。
【研究チームが復元したジアン・チャンマエンシスのイメージ画像がこちら】
ただし、この恐竜は現代の鳥のように羽ばたいて自在に空を飛べたわけではなさそうです。
チームによれば、今回の新種を含むミクロラプトル類は、本格的な動力飛行はできなかったものの、ムササビのように滑空することはできた可能性があります。
つまり、空高く舞い上がってハヤブサのように急降下する捕食者ではなく、木の上から木の上へと滑るように移動し、枝の間や樹冠で獲物を狙うタイプの捕食者だったのかもしれません。
白亜紀の湖畔の森で、4枚の翼を広げて木々の間を滑る小さな捕食者。
その姿は、恐竜と鳥の境界が、私たちの想像以上にあいまいで豊かなものだったことを教えてくれます。
化石はまだ肩と前肢の一部しか見つかっていません。
しかし、もし将来、頭骨や脚、羽毛の保存された標本が見つかれば、この「4枚翼のドラゴン」がどのように生き、何を食べ、どれほど巧みに森を滑空していたのかが、さらに鮮明に見えてくるはずです。
古代中国の森を飛び回っていたのは、鳥だけではありませんでした。
その影には、翼を4枚持つ小さな恐竜ハンターも潜んでいたのです。
参考文献
New Velociraptor cousin was a ‘4-winged’ dragon that hunted prey from the trees of ancient China, fossil find hints
https://www.livescience.com/animals/dinosaurs/new-velociraptor-cousin-was-a-4-winged-dragon-that-hunted-prey-from-the-trees-of-ancient-china-fossil-find-hints
Velociraptor’s cousin flew like a flying squirrel
https://www.popsci.com/science/four-wing-dinosaur/
元論文
FIRST NON-AVIAN THEROPOD (DROMAEOSAURIDAE, MICRORAPTORINAE) FROM THE BIRD-BEARING LOWER CRETACEOUS XIAGOU FORMATION OF THE CHANGMA BASIN, GANSU PROVINCE, NORTHWESTERN CHINA(PDF)
https://carnegiemnh.org/wp-content/uploads/2026/06/Jian-changmaensis-Annals-of-Carnegie-Museum.pdf
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

