イタリアで11回目のクラブシーズンを終えたプロバレーボーラー・石川祐希。昨季から在籍するシル スーザ スカイ・ペルージャでの日々は、栄光と苦難が表裏一体の2シーズンとなった。今回、本人が自らの目線でその時間を振り返り、ロス五輪への切符獲得が至上命題となる今年の代表シーズンへ向けて主将としての覚悟を1時間にわたって語り尽くした超ロングインタビューを全3回に分けてお届けする。
第1回は、怪我と闘いながらCEVチャンピオンズリーグ(CL)、スクデット(リーグ優勝)、スーペルコッパと世界クラブ選手権を制して4冠を達成したペルージャでの今季、そして合計6個の金メダルを手中に収めた在籍2シーズンを石川自身の言葉で振り返る。
石川が2度目のCL優勝トロフィーを高らかに掲げてから36時間後、その姿はチームの本拠地であるイタリア中部の古都ペルージャにあった。取材場所は、世界的にその名を知られるイタリア語教育の名門、1925年創設の『ペルージャ外国人大学』。18世紀に貴族アンティノーリ家の邸宅として築かれた荘厳な校舎——これまで数多くの日本人学生たちが勉学に勤しんできた、日本とも深い縁を持つ歴史的空間で翌日には日本へ帰国するという背番号14が最強クラブで自らが体験し、見て感じ、吸収したことを率直に語ってくれた。
1シーズン目の昨季は、公式戦初戦のスーペルコッパでいきなりMVPを獲得して大会3連覇に貢献し、華々しく新天地デビュー。CLでは準決勝と決勝の舞台で強烈な存在感を見せつけて優勝の立役者となり、クラブに悲願の欧州初制覇をもたらした。
そして、2シーズン目の今季も開幕戦から先発出場。現地11月29日の練習中に左膝を痛めた最初の怪我まで105得点を叩き出して、同ポジションのアウトサイドヒッター(OH)陣(ポーランド代表カミル・セメニウク59得点、ウクライナ代表オレフ・プロトニツキ79得点)の中で突出した攻撃力を誇示した。その負傷から早期に復帰してホームでのCL初戦で先発に返り咲いたが、12月中旬から1週間にわたりブラジルで開催された世界クラブ選手権では準々決勝と準決勝に途中出場するも決勝はコートに立てず。チームは低迷を抜け出したセメニウクとプロトニツキをメインで起用してタイトルを獲得した。石川は2月1日のリーグ後半8節で先発出場を果たしたが、開始から間もなく今度は右膝内側側副靭帯を損傷。その回復に3カ月近くを要したことで、以降はコートに立つ機会を奪われた。――コートサイドで試合を見守る時間が多くなってしまった今季。自分にとってどんなシーズンでしたか?
「嬉しい部分もあり、悔しい部分もあるシーズンでした。8割が悔しい、、、嬉しいが2割ですね。やっぱりここペルージャに来たからには1シーズン目より多くのタイトルを獲ることだったり、僕がまだ手に入れていなかったスクデットっていうところを今シーズンは目標としていたので、嬉しいに関してはそれを達成できたことの1割。あとは、怪我で後半から出場する機会を逃したけれど代表での活動から合流してすぐ、シーズン前半は自分でも凄くいいパフォーマンスができていたと思うのでそこでの活躍が1割かな」
「調子が良かったシーズン前半に1回目の負傷でコートを外れることになり、また2月に右膝を痛めてしまいそれが思っていたよりも長引いてしまいました。故障は慢性的に繰り返すようなものではなくて、9年間ぐらいは同じような箇所を痛めていなかったんです。なので、不可抗力で仕方ないことと捉えていますけど、そこの悔しさは残っています」
「それでもやっぱり勝つことだったり、目標を達成するっていうところでチームの力になれた自負はあります。4月以降は練習に参加して少しずつではありましたけどパフォーマンスも上げることができて、勝利のためベストな準備に貢献してチームメートたちをコートへ送り出すことができたと思っています。出場機会が限られてしまいコート上で自らパフォーマンスを示すことが叶わなかったのは事実。けれど、数字に表れず選手たちとスタッフたちしか知り得ないところではありますけど、チームのために力を尽くすことができたと確信しています」
――今季後半の景色を一変させた怪我。長期離脱を余儀なくされた背景を伺えますか?
「当初は思ったよりも早く動き始めて、なかなか痛みが引かずに2回目の検査で靭帯は良くなってましたが、骨の方に炎症が強く出ていて、それで少し遅れてしまったところはありますね。なので、後になって考えてみたら初動がもうちょっとゆっくりだったら離脱期間が短くなったかなって思いはあります。それでも現場のトレーナーやドクターには少しでも早くコートに立てるようにケアやリハビリを行ってくれたので感謝してます。内側側副靭帯の怪我は結構難しい面があって痛みの出やすい箇所でもあるんで、アンラッキーと言うかやむを得ない面もあったかなと言うところです」
――ペルージャでの2シーズンを振り返り、総括してもらえますか?
「2シーズンやってみて僕が再確認できたポジティブなことと、まだ向上しなければいけない部分とがあります。攻撃面は全く問題なく僕と同じOHのセメニウク選手、プロトニツキ選手と並んで、、、よりも決める自信を持っています。ディフェンスに関しては彼らの方が優れていて僕は安定性が少し足りなかったなと感じています」
石川がすぐに名前を挙げたのは、同ポジションの2人、在籍4シーズンのセメニウクと7シーズンのプロトニツキ。両選手とも入団当初に直面した低調なパフォーマンスへの批判や限られた起用を乗り越えてチームを支える存在となった。
「ペルージャのようにレベルの高いチームで戦っているからこそ備わった彼らの安定性は、やっぱりさすがだなと思います。もちろん僕も今季は守備でも結果を出したかったところですが、怪我で後半から出場する機会が少なくなってしまったので何とも言えないところです」
「守備の安定性は、これからもっと高いレベルでバレーを続けてペルージャのようなチームに勝とうとする時、必要になってくると思っています。そこが学べたことはこの2シーズンで得た収穫の1つだと感じています」
そして、チームの戦術的な変化についても言及。今季に才能を爆発させ来季にSVリーグのサントリーサンバーズへ入団する見込みのオポジット(OP)の元チュニジア代表ワシム・ベンタラの存在が、チームのゲームプランを大きく塗り替えたという。
「昨季はOPベンタラ選手の調子が今季ほど良くなかったので、アタックに関してOHの需要がありました。OHに打数が集まれば集まるほど、他のOHよりもアタックに関して間違いなく良い僕が活躍できる環境にありました。今年に関してはベンタラ選手が本来持っているものをすべて発揮し絶好調を続けていたので彼に託す割合が格段に増え、OHの攻撃を減らしても試合が回る状況でした。そうなると僕以外の2人の方がバランス的に間違いなくいいなと外から見てて思いました」――そのバランスとは?
「レセプションですね。そこはやっぱり彼らの方が正確性もありますし、(セッターのイタリア代表シモーネ・)ジャンネッリ選手に対して高いパスを出すのが非常に上手いので。僕は2シーズンの間に高いパスを意識してだいぶ今は慣れてきましたけど、これまで身長の低いセッターとプレーしてきたので時間が必要でしたね。ペルージャで経験年数の多い彼らの方が安定していると思います。チームの中でOHは昨季と比べて攻撃よりもディフェンスの割合が増えて、(アンジェロ・)ロレンツェッティ監督は元来レセプションに重きを置いているので、なおさら今季はOHに守備力を求めたと思います」
「攻撃面で負担が少なくなったことでOH2人のレセプションとアタックの確率が上がったと思います。2選手のパフォーマンスが向上してきたところで僕は怪我をしてしまったので、その後は出場機会を得るのが正直に言って難しかったなと。OHの2人ともずっと積み上げてきたものもあるのと、とにかく彼らの調子が良すぎましたね(笑)」
本格復帰が叶ったのはプレーオフ決勝とCLのFinal Four(準決勝・決勝)を目前に控えたシーズン最終盤のことだった。練習に戻った石川のパフォーマンスを目にした多くの関係者やサポーターたちは、口を揃えてこう言った。「離脱前の凄いユウキが帰ってきた!」と。しかし、タイトルを懸けた大舞台が迫る中、固定メンバーで好調を維持してきたチームに割って入るには、残された時間があまりにも少なすぎた。
――練習に復帰後、コートに立つ機会を探る中で試みたことはありますか?
「僕にとってのアピールは“プレーで示す”の一択。今シーズンは怪我をしてしまって後半は練習に出られずそれができませんでした。ロレンツェッティ監督の方針の下、ペルージャは数々の大会で優勝を果たしてきているのでその采配は正しく評価されるべきであって、自分の出場機会に関してどうとかは全く思っていません。勝つために僕らが全力でプレーするのと同じく、監督はチームのために正しい選択をしてすべき仕事をしているだけですから」
きっぱりと言い放ったのは、どんな逆境にも揺らぐことのない強い信念。誰もが心の中で「そうありたい」と願いながらも、なかなか実践できない生き方を当たり前のように体現し続ける。それが、“石川祐希”なのだ。
第2回のテーマは、代表シーズンにネットを挟んで激しい火花を散らすことになるペルージャのチームメートたち。肩を並べて戦い、国を背負った瞬間にライバルへと変わる仲間たちのハイレベルなテクニックについて濃厚に語った内容をお届けする。
取材・文●佳子S.バディアーリ
【画像】日本代表に欠かせない存在!キャプテン石川祐希の躍動を厳選ショットで! Yuki Ishikawa photo gallery

