
「FoMO」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
日本語ではしばしば「取り残される恐怖」と訳されますが、これだけでは少し抽象的です。
たとえば、最近ニュースやCMでよく見かける有名人について、自分だけ「誰それ?」となってしまう。
友人たちが話題にしているソーシャルゲームを、自分だけ遊んでおらず、会話についていけない。
SNSで多くの人が盛り上がっているイベントや配信を、自分は見逃していた。
このようなとき、単に「知らなかった」で済む人もいれば、「自分だけ大事な流れに乗れていないのではないか」と焦りや不安を感じる人もいます。
Fear of Missing Out(FoMO)とは、他者が自分のいないところで楽しい経験や価値ある交流をしていると感じたとき、自分だけその流れに参加できていないのではないかと不安になる心理傾向です。
これまでの研究では、FoMOが高い人ほど、SNSに依存しやすい傾向が報告されてきましたが、SNSは単なる情報収集ツールではありません。
そこで中国・西北師範大学(Northwest Normal University)のZhichen Chen氏らは、FoMOが高い人と低い人で、SNSでポジティブなフィードバックを受けたとき脳波反応にどのような違いがあるか調査を行いました。
すると、FoMOが高い人はそうでない人よりも、「いいね」をより重要な情報として脳が処理している可能性が示されたのです。
ここからは承認欲求から説明されがちだったSNSで注目を集めようとする行動を、FoMOの文脈から異なる動機で説明できるかもしれません。
この研究の詳細は、2025年12月付けで科学雑誌『Journal of Affective Disorders』に掲載されています。
目次
- 「自分だけ知らない」「自分だけ乗れていない」と感じる不安
- 「自分も参加している」という感覚が行動を強める可能性
「自分だけ知らない」「自分だけ乗れていない」と感じる不安
これまでの研究で、FoMOが高い人ほど、仕事中や授業中など別のことに集中すべき場面でもSNSを見てしまったり、睡眠の妨げになるなど「問題的な利用」が報告されて来ました。
FoMOの高い人は、他者が自分のいないところで楽しい経験や価値ある交流をしているのではないか? 自分だけ参加できていないのではないか? という不安が強く、そのため他者の近況や流行の動きを絶えずチェックできるSNSから離れにくくなると考えられるのです。
一方でSNSには、情報を見るだけでなく、自分の投稿に対して「いいね」やコメントのような反応が返ってくるフィードバックもあります。
しかし、これまでFoMOが高い人については、情報のチェックという文脈でSNSが語られることが多く、SNSからのフィードバックをどのように処理しているのかは十分に分かっていませんでした。
そこで今回の研究者たちは、この点を調べるため、FoMOが高い人と低い人を比較し、SNSのフィードバックを受け取ったときの脳波反応に違いがあるのかを調査しました。
実験に参加したのは大学生67名です。
研究チームは、参加者のFoMOの程度を質問紙で測定し、その得点に基づいて、高FoMO群32名と低FoMO群35名に分けました。
そのうえで参加者には、社会的インセンティブ遅延課題(Social Incentive Delay Task)と呼ばれる実験課題に取り組んでもらいました。
実験では、画面に合図が出たら、参加者にできるだけ速くボタンを押してもらいます。その反応が十分に速かった場合には、「いいね」のアイコンが表示されます。
反対に、反応が遅かった場合には、親指を下げた低評価のアイコンが表示されます。また、成績にかかわらず何も表示されない中立的な条件も用意されていました。
そして、このフィードバックを受けたときの参加者の脳波を測定したのです。特に注目されたのは、P300という脳波です。
P300は、脳がその情報をどれくらい重要なものとして扱ったかを示す手がかりになる脳波です。
すると、高FoMO群では、「いいね」を受けたときに、低FoMO群よりもP300が大きく現れていました。
またネガティブなフィードバックや中立的なフィードバックでは、高FoMO群と低FoMO群の間に差は確認されませんでした。
つまり高FoMO群は低FoMO群よりも「いいね」を重要な情報として捉えやすい傾向が見られたのです。
また、同じ研究者の別の研究では、高FoMO群は低FoMO群よりも、集団に受け入れられる場面を見たとき、注意が継続する脳波が確認される傾向も報告されています。
FoMOは、人とつながっていたい、集団の中に居場所を持ちたいという所属欲求が満たされにくい状態と関係すると考えられています。
そのため、SNSで「いいね」を集める人はよく承認欲求を満たそうとしていると言われますが、高FoMOの人たちにおいては、所属欲求を満たすためのサインとして「いいね」が重要になっている可能性があります。
そしてここには、多くの人には不可解な行動として映る、様々な社会現象を理解する手がかりが隠れているかもしれません。
「自分も参加している」という感覚が行動を強める可能性
研究者たちは、FoMOが高い人では、ポジティブな社会的フィードバックに対する神経的な感受性が高まっている可能性があると考えています。
FoMOは、自分だけが他者との楽しい経験や価値ある交流から外れているのではないかという不安と関係します。
そのため、SNS上で返ってくる「いいね」に近い肯定的な反応は、高FoMOの人にとって、単なるよい結果ではなく、社会的承認に関わる重要な手がかりとして処理されやすいのかもしれません。
研究者が直接言及しているのはここまでですが、この研究には現代のSNS行動を考える上で示唆があります。
私たちは、SNS上で「いいね」を集めたいと行動する人を「承認欲求」という言葉で説明しがちです。
しかし、FoMOの視点を入れると、SNS上の反応にはもう一つ別の意味が見えてきます。
それは、「自分もその話題や人の輪に入れている」という確認です。
例えば、ある配信者や作品が急に話題になり、タイムライン上で名前を見かける機会が増えていったとします。
その話題をよく知らない人は、ただ「最近よく見るな」と思うだけかもしれません。
しかし、FoMOが高い人では、「自分がこの流行に参加できていない」という不安が強まりやすい傾向があります。
そのため、なんとか話題に入ろうと関連する投稿を行った際に、ファンからの「いいね」やコメントがついたとき、「自分もこの流れの中に入れた」という所属欲求を満たすサインになる可能性が考えられるのです。
こうした背景を考慮すると、不可解に思えた人たちの行動も理解できるかもしれません。
推し活は最近よく話題に上がるワードですが、これは本来、好きな作品や人物を応援し、同じ関心を持つ人々と楽しみを共有する活動として認識されています。
それ自体を悪いものとして扱うべきではありませんが、一方で、本人の負担を超えた課金やイベント参加、グッズの多重購入、布教行動など、一般的な理解を超えた過剰な活動に走る人たちもいます。
こうした過剰な推し活に走る人たちは、対象が「好きだから」という以外に、FoMOに由来する「所属欲求」に関連する不安があるかもしれません。
ある話題に参加し、反応をもらうことで、「自分もこのコミュニティにいる」「自分も流れに乗れている」と感じられるなら、その反応はさらなる行動への後押しをする可能性があります。
話題のゲームに過度な課金をしてその様子を投稿したり、グッズの多重購入を投稿するなどの行動は、自分が流行のコミュニティの一員として認められるための、所属欲求を満たすための行動なのかもしれません。
もちろん、今回の論文は、推し活や、ファンコミュニティなどについては言及していません。そうした行動を調査した研究でもありません。
ただ研究者たちは、このような神経的な反応の違いが、問題的なSNS利用などのリスクを考えるうえで役立つ可能性があると述べています。
「いいね」は、誰にとっても同じ重さを持つわけではないようです。
ある人にとっては、それは単なる好意的な反応です。
しかし、FoMOが高い人にとっては、「自分が流れに乗れている」「人と一緒に楽しめている」と確かめるためのサインとして、より強く処理される場合があるのです。
この視点を持つと、SNS上の行動は「承認欲求が強い」だけでなく、「取り残される不安の解消」という別の視点から理解できるかもしれません。
元論文
Chasing the “Like”: High FoMO elevates P300 responses to positive social feedback
https://doi.org/10.1016/j.jad.2025.121064
ライター
相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。
編集者
ナゾロジー 編集部

