
親を失った小さなヒナにとって、もっとも必要なものは何でしょうか。
餌や水はもちろん重要ですが、生まれて間もない鳥のヒナにとっては、体を温め、安心して隠れられる「母親のような存在」も欠かせません。
米国の野生動物保護施設や動物保護団体では、そんな孤児のヒナたちのために、少し意外な道具が使われています。
それは「羽根ぼうき」です。
見た目だけ聞くと、まるで童話のような話に思えるかもしれません。
しかしこの羽根ぼうきは、単なるかわいい演出ではありません。
親鳥を失い、強いストレスを受けたヒナたちが安心して過ごすための、実用的な「代理母」として使われているのです。
目次
- 羽根ぼうきが母親代わりに
- 人間に慣れすぎないための工夫も
羽根ぼうきが母親代わりに
このほど、米国ペンシルベニア州のレイヴン・リッジ野生動物センターに、母親を失った2羽の七面鳥のヒナが運び込まれました。
ヒナたちは生後わずか1日か2日ほどで、道路を走っているところを発見されたといいます。
その道路では、母鳥と兄弟の1羽が死んでいたとされ、ヒナたちは突然、母親の保護を失ってしまった状態でした。
七面鳥は「早成性」の鳥です。
これは、ふ化してすぐにある程度自分で歩き回り、餌を食べられるタイプの鳥を指します。
アオカケスやコマツグミのように、巣の中で親から餌をもらい続けるヒナとは異なり、七面鳥やキジのヒナは生まれて間もなく自力で動くことができます。
ただし、自立しているように見えても、母鳥が不要になるわけではありません。
体温調節が十分でない時期のヒナにとって、母鳥の体の下に潜り込むことは、温かさを得るだけでなく、外敵や不安から身を守るための大切な行動です。
そのため、保護施設のスタッフはヒナたちを保育器に入れ、温かい環境を整えました。
そして保育器の中に吊るされたのが、羽根ぼうきでした。
【実際の画像がこちら】
ヒナたちは、その羽根の下へ潜り込むことで、母鳥の羽の下に隠れているような感覚を得られます。
レイヴン・リッジ野生動物センターの所長トレイシー・ヤング氏は、羽根ぼうきについて「安全で、温かい場所」だと説明しています。
実際、羽根ぼうきを入れた後、ヒナたちは以前より落ち着き、餌をよく食べるようになり、体重も増えていったといいます。
つまり羽根ぼうきは、ヒナたちを甘やかすための小道具ではなく、回復を助けるための環境づくりの一部だったのです。
人間に慣れすぎないための工夫も
同じような工夫は、アイオワ州でも報告されています。
アイオワ州動物保護連盟には、セイラービル・ダムの近くを1羽で歩き回っていた孤児のヒナが運び込まれました。
このヒナは同団体のセカンド・チャンス・ランチで保護され、スタッフはヒートランプと羽根ぼうきを備えた囲いを用意しました。
そしてヒナを羽根ぼうきの下に入れると、すぐにその役割を理解したように、羽根ぼうきの下へ寄り添って暖を取ったといいます。
【実際の画像ページがこちら】
ここで重要なのは、ヒナが本当に「これは自分の母親だ」と人間のように考えている、という意味ではありません。
むしろ、柔らかい羽の下に潜れること、暗く守られた空間に入れること、温かい場所に身を寄せられることが、ヒナ本来の行動に合っているのです。
この一方で、保護施設では、動物を人間に慣れさせすぎない工夫も重要になります。
野生へ戻す予定の動物が人間に依存してしまうと、自然界で生きていくうえで不利になる可能性があるからです。
そのため、レイヴン・リッジ野生動物センターでは、七面鳥のヒナの保育器に成鳥の七面鳥の写真も置いています。
本物の親鳥はいなくても、ヒナたちが大人の七面鳥の姿を目にできるようにするためです。
こうした工夫は、野生動物のリハビリでは珍しいものではありません。
過去には、若いアカギツネを世話するスタッフがキツネのマスクを着け、人間に慣れすぎないよう配慮した例もあります。
人間から見るとユーモラスな光景でも、その目的はあくまで、動物ができるだけ自然に近い状態で安心し、回復することにあります。
母鳥を失ったヒナたちは、やがて十分に成長し、自分で体温を保てるようになると、より大きなケージへ移され、その後は屋外環境に慣らされていきます。
そして最終的には、野生へ戻される予定です。
羽根ぼうきは本物の母親にはなれません。
しかし、孤児になったヒナにとっては、初めての夜を越え、餌を食べ、体重を増やすための小さな避難場所になります。
人間にはただの掃除道具に見えるものが、ヒナにとっては命をつなぐ「羽の屋根」になるのです。
参考文献
Orphaned baby turkeys think a feather duster is their mom
https://www.popsci.com/environment/orphaned-baby-turkey-feather-duster/
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

