
ジョニー・デップが、6月9日に63歳の誕生日を迎えた。浮き沈みが激しいエンタメ界で、デップ自身もメジャー作品から遠のいた時代はあったが、今も間違いなくハリウッドを代表するトップスターの1人だ。今回は多くの出演作から代表的なものをピックアップしながら、40年を超える俳優キャリアを振り返ってみたい。(以下、出演作のネタバレを含みます)
■名作ホラー映画シリーズの第1作でスクリーンデビュー
1963年6月9日生まれのデップは、高校を中退し、ミュージシャンを目指してハリウッドのあるロサンゼルスに移り住んだ。俳優になるきっかけの有名なエピソードが、ニコラス・ケイジに勧められたということだ。
ケイジに紹介されたエージェントが用意した初めてのオーディションで役をつかんだデップ。それが1984年公開の映画「エルム街の悪夢」だった。シリーズ化することになる同作で、デップは主人公のボーイフレンドとして、少しかわいさの残るイケメンぶりを放ったが、殺人鬼フレディに殺されてしまう展開だった。
一躍ブレークしたのは、1987年に放送開始したティーン向けのテレビドラマシリーズ「21ジャンプストリート」。高校への潜入捜査を命じられた警官の役で主演を務め、アイドル的人気を得る。
■せりふの少ない異形のキャラクターで高い演技力を発揮
映画初主演を飾ったのは、不良少年がお嬢様と恋に落ちる「クライ・ベイビー」(1990年)。そして同年、もう一つの作品「シザーハンズ」が大ヒットした。のちに盟友として多くのタッグを組むティム・バートン監督がメガホンをとったファンタジーで、デップは老発明家によって生み出された“手”がハサミの人造人間・エドワードを演じた。
優しい心を持つ彼は、最初は人気者になり、恋もするが、次第に危険な化け物として町の人々に追い詰められる。デップは、美しい顔にハサミによる傷跡がいくつもあるメークアップを施し、わずかな言葉しか発せない純真無垢なエドワードの思いを表情や仕草で繊細に表現。愛しい人を抱きしめたいのに傷つけるから抱きしめられない…その切なさが伝わる演技は、多くの人が涙した名シーンだ。

■ヒューマンドラマや名監督とのタッグでキャリアを積み上げる
トム・クルーズ、ブラッド・ピットらと並ぶ若手トップスターの地位を確立したデップ。ただ彼は、ハリウッドの王道の一つでもあるヒロイックではない作品も選んでいく。
タイトルロールを演じた「ギルバート・グレイプ」(1993年)では、弟役のレオナルド・ディカプリオが重い知的障がいのあるキャラクターを見事に表現し、「第66回アカデミー賞」助演男優賞にノミネートされて脚光を集めたが、やはりデップがいてこその秀作ヒューマンドラマだ。
生まれてから24年間、暮らしている小さな町を出たことがないギルバート。父を亡くしてから、障がいのある弟と、夫を失ったショックで過食症になって身動きがとりにくいほど太ってしまった母の面倒を見て、2人の姉妹からも頼りにされて生きている。家族に縛られて小さな町でくすぶる青年の生きざまを細やかに見せた。
その他にもティム・バートンと再び組み、実在した“史上最低の映画監督”を描いた「エド・ウッド」(1994年)や、インディペンデント映画界を代表するジム・ジャームッシュ監督の「デッドマン」(1995年)、名優アル・パチーノと堂々渡り合った「フェイク」(1997年)、ホラー映画「スリーピー・ホロウ」(1999年)、ジュリエット・ビノシュと共演した「ショコラ」(2000年)など、伝記ものからラブコメまで多彩な作品に出演。大ヒットしたものも、そうでないものもあるが、見れば心に残る作品ばかりだ。
■“代表作”との出会い…ジャック・スパロウでさらなる魅力の開花
そして今に至るまでの最大といえる当たり役が巡ってくる。「パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち」(2003年/ディズニープラスにて見放題配信中)の“海賊”ジャック・スパロウだ。ディズニーランドのアトラクション「カリブの海賊」を映画化した同作は、2017年までに全5作品が製作されたメガヒットシリーズとなった。
自由を愛し、海を愛し、酒と女を愛するスパロウ。いい加減なようでいて、一度戦うとなれば優れた剣の使い手で、策略家でもあり、伝説の1人ともされる根っからの海賊。デップは海賊然としたコスチュームもこの上なくピッタリ似合い、大人も子どもも魅了する愛すべきキャラクターに仕上げた。「第76回アカデミー賞」主演男優賞にノミネートされ、同シリーズ大ヒットの大きな要素となった。
デップの特徴的なことに、「シザーハンズ」や「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズのような特異な見た目のキャラクターがピタッとハマるところがある。
特に盟友バートン監督との作品で顕著だが、「チャーリーとチョコレート工場」(2005年)でのおかっぱ頭にシルクハット、ベルベットコート、手袋を身に着けて杖を持った変わり者、「スウィーニー・トッド フリート街の悪夢の理髪師」(2007年)でのくまのような目の周りと青白い肌のメークをした殺人鬼、名作児童文学をベースにした「アリス・イン・ワンダーランド」(2010年ほか)シリーズでの白塗りメークにオレンジヘアという強烈な見た目の帽子職人・マッドハッター。特異性というインパクトに引っ張られ過ぎることなく、各キャラクターを成り立たせる塩梅が見事だ。

■製作者として硬派な作品も手掛け、エンタメ界の第一線で活躍し続ける
俳優活動の一方で、映画やドラマの製作会社「Infinitum Nihil(インフィニタム・ニヒル)」を立ち上げたデップ。同社では、「第84回アカデミー賞」で同年最多の11部門にノミネートされて5部門で受賞を果たしたマーティン・スコセッシ監督の「ヒューゴの不思議な発明」(2011年)や、バートン監督&デップ主演の「ダーク・シャドウ」(2012年)などの他、1970年代の日本の水俣病の様子を記録したアメリカ人写真家をテーマにした「MINAMATA-ミナマタ-」(2021年)という硬派な作品も手掛けた。
色々な騒動を経験しヒット作に恵まれないこともあったが、やはり人気も実力もある俳優。「ファンタスティック・ビースト」(2016年、2018年)シリーズ、「オリエント急行殺人事件」(2017年)、監督・製作を手掛けた「モディリアーニ!」(2025年)など注目作に出演。
2026年11月には、チャールズ・ディケンズの小説「クリスマス・キャロル」を原作にした「Ebenezer: A Christmas Carol(原題)」が公開予定。デップは主人公のエベネーザ・スクルージを演じる。
第一線で走り続けるデップ。今度はどんなキャラクターを見せてくれるのか。キャリアを重ねて大御所の域になっても、予測不能な“次の一手”が楽しみになる俳優だ。
◆文=ザテレビジョンシネマ部

