
リモートワークは、通勤の負担を減らし、自分のペースで働ける制度として、多くの人に歓迎されてきました。
そのため「在宅で働ける社員ほど、仕事への満足度が高く、会社にも長く残りやすい」と考えられがちです。
しかし、アメリカ、アリゾナ州立大学(Arizona State University)などの研究チームが約16万5000人の従業員データを分析したところ、リモートワークと満足度の関係は、思ったほど単純ではないことが分かりました。
リモートワークをしている社員は満足度が高いように見える一方で、それだけで離職を防げるとは限らない可能性があるのです。
この研究は、2026年2月13日付で学術誌『Management Science』にオンライン掲載されました。
目次
- リモートワークで働く人は、「離職」について考えやすい
- リモートワークが「効く人」と「効きにくい人」の違い
リモートワークで働く人は、「離職」について考えやすい
新型コロナウイルス感染症の流行以降、リモートワークは一気に広がりました。
通勤時間がなくなり、自宅で集中しやすくなり、家庭の事情とも両立しやすい働き方として、在宅勤務やハイブリッド勤務は多くの人に支持されています。
実際、単純に比較すると、リモートワークをしている従業員は、完全出社の従業員よりも仕事への満足度が高いように見えます。
しかし、ここには注意が必要です。
リモートワークを認めている会社は、そもそも給与水準が高かったり、専門職が多かったり、職場文化が良かったりする可能性があります。
つまり、社員が満足している理由は、本当に「自宅で働いているから」なのか、それともリモートワークを導入できるような、もともと働きやすい職場にいるからなのかを切り分ける必要があります。
この点を検証するため、研究チームは2020年から2023年にかけて、アメリカの7万3000社以上に所属する約16万5000人の従業員データを分析しました。
対象には、リモート勤務、ハイブリッド勤務、完全出社など、さまざまな働き方の従業員が含まれています。
研究では、リモートワークの頻度と仕事満足度、そして会社を辞めたいと考えているかどうかを調べました。
その際、給与、職種、従業員の属性、さらに職場で評価されていると感じるか、管理職を信頼できるか、コミュニケーションがうまく機能しているか、成長機会があるか、報酬制度が公平かといった職場の特徴も統計的に考慮しました。
その結果、最初はリモートワークの頻度が高いほど仕事満足度が高いように見えたものの、上記の要素を考慮すると、その関係は大きく弱まりました。
さらに、職場条件や給与などを考慮した後では、リモート勤務者のほうが、「今後6カ月以内に会社を辞めることを考えている」と答えやすい傾向も見られました。
つまり、リモートワークは満足度と関係しているように見えても、それだけで社員を幸せにしたり、会社につなぎとめたりする万能薬ではなかったのです。
では、なぜこのような結果になったのでしょうか。より詳細な結果は、次項で見ていきます。
リモートワークが「効く人」と「効きにくい人」の違い
この研究で重要なのは、リモートワークの効果が全員に同じように現れるわけではないという点です。
リモートワークの頻度が高いことと満足度の高さがより強く結びついていたのは、リアルタイムの連携や細かなチーム調整をあまり必要としない仕事に就いている従業員でした。
個人で集中して進める分析、執筆、設計、資料作成などの仕事では、オフィスにいることの利点よりも、自分の環境で集中できる利点のほうが大きくなる場合があります。
一方で、常に同僚と相談しながら進める仕事や、即時の判断、チーム間の調整が多い仕事では、画面越しのやり取りが負担になり、リモートワークが必ずしも満足度の高さと結びつくとは限りません。
また、直属の上司をあまり好ましく評価していない従業員ほど、リモートワークの頻度の高さと満足度の高さが結びつきやすいことも示されました。
上司との関係が良くない場合、出社して顔を合わせることや、近くで監視されているように感じることがストレスになるかもしれません。
リモートワークでは、そうした直接的な接触が減り、心理的な距離を取りやすくなる場合があります。
ただし、これは「上司との関係が悪ければリモートワークにすれば解決する」という意味ではありません。
リモートワークが問題そのものを解決しているのではなく、問題との距離を取らせているだけの可能性があります。
この点は、離職意向の結果とも関係しています。
リモートワークでは、仕事がオフィスという特定の場所に結びつきにくくなります。
そして毎日同じ場所に通い、同僚と顔を合わせる感覚が弱まると、「この会社で働いている」という結びつきも薄くなる可能性があります。
つまり、リモートワークは満足度の高さと結びつく場合がある一方で、会社に残りたい気持ちまで強めるとは限らないのです。
むしろリモートワークが続くことで、そうした気持ちが弱っていく可能性すらあるのです。
この研究はリモートワークを考えるうえで重要な視点を与えてくれます。
リモートワークは、社員を幸せにする魔法の制度ではありません。
社員を本当に幸せにし、会社に残りたいと思わせるには、働く場所だけでなく、その向こう側にある信頼と職場の質が欠かせないのかもしれません。
参考文献
Remote work may not be what makes employees happy, study finds
https://phys.org/news/2026-06-remote-employees-happy.html
元論文
How Do Different Remote Work Arrangements Impact Employee Job Satisfaction and Retention?
https://doi.org/10.1287/mnsc.2024.07017
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

