
「しっかり寝たはずなのに、なぜか疲れが取れない」
そんな夜の悩みは、枕や寝る時間だけでなく、その日に何を食べたかとも関係しているかもしれません。
近年、睡眠と食事の関係に注目が集まっています。
特に重要視されているのが、野菜、果物、豆類、全粒穀物、ナッツ類などに多く含まれる「食物繊維」です。
イスラエルのワイツマン科学研究所は、成人3500人以上の食事記録と睡眠データを分析し、食物繊維を多く摂った人ほど、その夜に深い睡眠の時間が長い傾向があることが示されました。
さらに、食べる植物性食品の種類が多い人ほど、寝つきがやや良く、睡眠中の心拍数も低い傾向が見られました。
目次
- 深い睡眠に関係していたのは「食物繊維」だった
- 腸内細菌が「眠りやすい体」を支えている可能性
深い睡眠に関係していたのは「食物繊維」だった
睡眠の質を考えるとき、多くの人はまずカフェインやアルコール、就寝前のスマートフォンを思い浮かべるかもしれません。
もちろんそれらも重要ですが、今回の研究で注目されたのは、日中の食事に含まれる食物繊維でした。
研究チームは、平均年齢53歳の成人3500人以上を対象に、2日間の食事記録と夜間の睡眠データを分析。
参加者は食べたものをスマートフォンアプリに記録し、夜には胸、手首、指に装着する睡眠測定装置を使って、睡眠中の状態を調べられました。
この装置は、いびき、血中酸素濃度、心拍、呼吸数などを測定し、浅い睡眠、深い睡眠、急速眼球運動睡眠(REM睡眠)などの睡眠段階を推定するものです。
その結果、1日の食物繊維摂取量が参加者全体の平均である21グラムを上回る人は、それを下回る人に比べて、深い睡眠であるN3の時間が3.4%長く、浅い睡眠の時間が2.3%短い傾向がありました。
深い睡眠は、体や脳の回復に関わる重要な睡眠段階です。
つまり、食物繊維を多く摂る人は、ただ長く眠っているというより、より回復的な睡眠に近づいていた可能性があります。
ここで重要なのは、チームが「前日の食事と睡眠」も考慮していた点です。
単に普段から健康的な人ほどよく眠る、というだけでなく、その日に食べたものがその夜の睡眠とどう関係するかを調べようとしたのです。
もちろん、この研究だけで「食物繊維を食べれば必ず深く眠れる」とまでは言えません。
しかし、野菜、果物、豆類、全粒穀物、ナッツ類を増やすことは、もともと健康のために推奨されており、多くの人にとってリスクの低い生活改善です。
睡眠のために特別な食品を探すよりも、まずは皿の中に食物繊維を増やすことが、現実的な第一歩になるのです。
腸内細菌が「眠りやすい体」を支えている可能性
では、なぜ食物繊維が睡眠と関係するのでしょうか。
その鍵を握っていると考えられているのが、腸内に共生する細菌たちです。
私たちの体内には、数十兆もの微生物がすんでいます。
この微生物の集まりは微生物叢、あるいはマイクロバイオータと呼ばれ、消化や免疫だけでなく、炎症、ストレス反応、さらには睡眠にも関係していると考えられています。
食物繊維は、人間自身の消化酵素では分解しにくい成分です。
しかし、腸内細菌にとっては重要なエサになります。
腸内細菌が食物繊維を発酵させると、酪酸などの短鎖脂肪酸が作られます。
こうした物質は、体内の炎症を抑えたり、ストレス反応に関わる神経内分泌系に影響したりする可能性があります。
ストレス反応が過剰になると、夜間のコルチゾールが高まり、眠りが浅くなったり、途中で目が覚めやすくなったりします。
一方で、腸内細菌叢が健やかに働いていれば、体を「休息と消化」のモードへ切り替える助けになる可能性があるのです。
また、今回の分析では、1日に5種類以上の植物性食品を食べた人ほど、寝つきがやや早く、睡眠中の心拍数も低い傾向が見られました。
植物性食品の種類が多い食事は、食物繊維だけでなく、ビタミン、ミネラル、ポリフェノールなど、さまざまな成分を体に届けます。
たとえば、野菜だけを増やすのではなく、豆類、全粒穀物、果物、ナッツ類、発酵食品などを少しずつ組み合わせることで、腸内細菌にとっても多様な栄養源が生まれます。
ヨーグルト、ケフィア、ザワークラウト、キムチなどの発酵食品も、有益な細菌や腸内環境を支える食品として紹介されています。
さらに、地中海食のように、野菜、果物、豆類、全粒穀物、ナッツ類を多く含み、超加工食品を控える食事パターンは、腸内細菌の多様性にとって有益だとされています。
そして、この関係は一方通行ではありません。
腸内細菌叢が睡眠に影響するだけでなく、睡眠不足も腸内細菌叢のバランスを乱す可能性があります。
わずか数日間の睡眠不足でも、腸内細菌の構成が変化し、炎症反応や腸管の透過性が高まる可能性があるとされています。
つまり、よく眠るために腸を整え、腸を整えるためによく眠るという、互いに支え合う関係があるのです。
睡眠の質を高めたいなら、「眠る直前に何をするか」だけでなく、「日中に腸内細菌へ何を届けるか」にも目を向ける必要があります。
完璧な食事を目指す必要はありません。
まずは、白いパンを全粒穀物に替える、昼食に豆類を足す、間食をナッツや果物にする、夕食に野菜をもう一品加える。
そんな小さな選択が、夜の深い眠りを支える土台になるかもしれません。
睡眠は、脳だけで完結するものではありません。
私たちが眠っている間も、腸の中の小さな住人たちは活動を続けています。
ぐっすり眠りたい夜の準備は、ベッドに入るずっと前、今日の食卓から始まっているのです。
参考文献
An Overlooked Factor Affects How Well You Sleep. Here Are 3 Tips to Hack It.
https://www.sciencealert.com/an-overlooked-factor-affects-how-well-you-sleep-here-are-3-tips-to-hack-it
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

