上半期のマイル王を決める安田記念(GⅠ、東京・芝1600m)が6月7日に行なわれ、先行策をとった単勝8番人気のシックスペンス(牡5歳/美浦・田中博康厩舎)が激戦を制して優勝。シックスペンスはGⅠ初制覇、田中博康調教師は本レース初制覇となり、手綱をとった武豊騎手は歴代最多となる4勝目を挙げた。走破時計は1分32秒1だった。
クビ差の2着同着には1番人気のガイアフォース(牡7歳/栗東・杉山晴紀厩舎)と、7番人気のワールズエンド(牡5歳/栗東・池添学厩舎)が入賞。一方、2番人気に推されたトロヴァトーレ(牡5歳/美浦・鹿戸雄一厩舎)は伸びを欠いて9着に大敗し、3番人気のレーベンスティール(牡6歳/美浦・田中博康厩舎)も直線でいっぱいになり、7着に終わった。
レースはそこそこ流れ、1分32秒台という標準的な走破時計を記録していながら、どこか座りの悪い、不思議なムードの漂うマイルの頂上決戦だった。
ゲートが開くと、奪取の鋭いワールズエンドがハナを奪い、鞍上がやや仕掛け気味にシックスペンスが2番手の好位置を確保。その後ワールズエンドが飛ばしたので、それから数馬身離れたシックスペンスは実質的に2番手集団を引き連れて逃げているような格好になった。
3番手から6番人気のセイウンハーデス(牡7歳/栗東・橋口慎介厩舎)を追走し、以下、4番手にレーベンスティール、4番人気のパンジャタワー(牡4歳/栗東・橋口慎介厩舎)、5番人気のステレンボッシュ(牝5歳/美浦・宮田敬介厩舎)らが並び、ガイアフォースは8~9番手の外目をキープ。そして注目のトロヴァトーレは後方の15番手を進んだ。
1000mの通過ラップは57秒9と、GⅠであれば平均的と言えるペース。逃げているワールズエンドにとってはややキツいだろうが、離れた2番手に付けたシックスペンス以下の先団、中団には理想的なペースとなったはずだ。そして注目すべきは、600m-800mで11秒6、800m-1000mで11秒8と、直線を迎える前にややラップが緩んで、逃げ・先行勢に息が入っていたこと。これが最後の粘りにつながっていく。
そして迎えた直線。まだ手綱を押さえたままワールズエンドが先頭、シックスペンスが2番手の構図は崩れず、中団から後方にポジションをとっていた有力馬は外へと進路を取りつつラストスパートにかかる。直線も半ばを過ぎて坂上へ来るとワールズエンドがやや苦しくなり、シックスペンスが先頭を窺う態勢となり、外からはガイアフォース、パンジャタワーが伸びてくる。ゴール100m前、優勝争いはワールズエンド、シックスペンス、ガイアフォースに絞られ、この3頭の激しい追い比べの末、わずかにクビ差でシックスペンスが栄冠を掴んでいた。大激戦になった2着争いは、長い写真判定の末、ワールズエンドとガイアフォースは同着となった。 武豊騎手は安田記念ではアドマイヤズーム(牡4歳/栗東・友道康夫厩舎)に騎乗予定だったが、同馬が蹄の怪我で出走を回避したため、武騎手は”手が空いた”状態になってしまった。そこへ飛び込んできたのが、それまで騎乗経験がないシックスペンスへの騎乗依頼だったのだから、勝負の綾とは分からないものだ。
「いい仕事ができたと思います。急きょの騎乗でしたが、結果を出す事ができてとても嬉しいです。(プランは)乗ったことがあるジョッキーにも色々と聞いていましたし、調教師ともレース前にじっくり打ち合わせをして、それを考えて乗りました。調教師からも『前に行っても粘れる調教をしてきました』と聞いていたので、ハナに行ってもいいくらいの気持ちでした」とは武豊騎手。馬の能力や癖を探りながらの騎乗でしっかりした結果を出すのだから、さすが“レジェンド”と呼ばれるだけはある。ちなみにこの勝利は、自身の持つJRA・GⅠ最年長勝利記録を57歳2か月24日に更新するものとなった。
キズナ産駒のシックスペンスは2月まで、定年で調教師を引退した国枝栄元調教師の厩舎に所属していた。国枝厩舎の解散にともなって田中博康厩舎へ移籍。初戦のマイラーズカップ(GⅡ)は7着に終わったが、そのあと試行錯誤を積み重ね、調教で効果があったブリンカーを実戦で装着することに決定した。
また、レース前日の土曜日にも異例の馬場入りを敢行し、ダートコースでキャンターを済ませたあと、Wコースへ行って馬なりで終い1ハロン12秒1(5ハロン77秒5)の時計を叩き出していたという。こうした失敗を恐れない探求心の強さに、勝率0.161、連対率0.269、3着内率0.452という優れた数字を叩き出している田中博康厩舎のスタッフ力を感じる次第である(数字は7日現在)。
2着同着となったガイアフォースの安田記念の成績は、4着→4着→2着→2着。他にJRA・GⅠの2着が2回あり、シルバーコレクターという有り難くない呼び名を付けられそうな成績だ。ジャンタルマンタルがいないここはテッペンを極めるチャンスだったが、逃げ・先行勢の粘りの前に屈したのは、スーパーな切れ味を持たない差し馬の宿命とでも言うべきものかもしれない。それでも、7歳になっての衰えは見えず、順調にいけば秋のマイルチャンピオンシップ(GⅠ、京都・芝1600m)ではまた人気の中心になっていることだろう。
ワールズエンドの2着は立派のひと言。「残念でした。ゲートで座るようなところがあったのが悔やまれます。それでもスタートの速さでリカバリーしてくれました。思ったようなペースで行けたのですが、残り50mでバタッと止まってしまいました。交わされてからも頑張っていましたし、自分のペースで行けば、この先も面白いと思います」とは、思い切った騎乗で見せ場を作った津村明秀騎手。京王杯スプリングカップ(GⅡ)を逃げ切ったスピード能力が伊達ではないことをこの一戦で証明した。
大敗したなかで気になるのは、東京の重賞を2連勝していたことから2番人気に推されたトロヴァトーレである。後方15番手からの追走となり、上がりは出走馬中3位の33秒1の脚を使ったが、いかんせん道中の位置取りが悪すぎて9着まで挽回するのが精一杯だった。
手綱をとったクリストフ・ルメール騎手は、「こういう枠(大外の17番枠)で、残念ながらポジションが後ろ過ぎて、直線でも大外になってしまいました。伸びてくれましたが、良いポジションを取れなくて、良い結果を出せませんでした」と無念な心の内を明かす。トロヴァトーレは昨年の安田記念にも出走していて17着に大敗している。昨年とは臨戦過程での実績が違うとは言うものの、マイルのGⅠ戦でのタイトな流れに対応しきれていない要素があったのではないかと筆者は考えている。
文●三好達彦
【動画】安田記念のジョッキーカメラ
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