
同じ仕事をしたのに、自分だけ報酬が少ない場面に出くわしたら、多くの人は「それは不公平だ」と感じるはずです。
アメリカ・ジョージア州立大学(GSU)などの研究チームは今回、チンパンジーの群れ全体が自由に参加できる実験を行い、彼らが不公平な報酬にどう反応するかを調べました。
その結果、チンパンジーは自分だけ低価値の食べ物を受け取り、他の個体が高価値の食べ物を受け取ると、報酬を拒否しやすくなることが分かりました。
研究の詳細は、2026年5月20日付で『Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences』に掲載されています。
目次
- 群れの中で試された「不公平への反応」
- 報酬の価値と「親しい仲間」が反応を左右した
群れの中で試された「不公平への反応」
人間社会では、公平さは重要な感覚です。
同じ作業をしたのに、自分だけ報酬が少なければ、多くの人は不満を抱くでしょう。
こうした「自分と相手の取り分の差」への反応は、不平等嫌悪(inequality aversion)と呼ばれます。
動物を対象にした研究は過去にも行われてきましたが、それらの多くは、2個体だけを向かい合わせる二者実験でした。
二者実験は条件をそろえやすい一方で、動物たちが本来暮らす群れの複雑な社会関係を反映しにくいという限界があります。
そこで研究チームは、群れ全体がその場にいる状態で、参加したい個体が自由に参加できる「物と報酬を交換する実験」を行いました。
対象となったのは、アメリカ・テキサス州のNational Center for Chimpanzee Careで暮らすチンパンジーたちで、最終的な解析には27個体が含まれました。
実験では、チンパンジーがトークンを実験者に渡すと、食べ物を受け取れます。
報酬には、低価値・中価値・高価値の3段階の食べ物が用意されました。
低価値にはセロリやニンジン、中価値にはピーナッツ、オレンジ、リンゴ、高価値にはブドウやバナナが、群れごとの好みに合わせて使われました。
実験条件には、全員が同じ報酬を受け取る公平条件、1個体だけが他の個体より低い、または高い報酬を受け取る不公平条件がありました。
さらに、より良い食べ物を見せたあと、実際にはそれより価値の低い食べ物を渡すコントラスト条件も設けられました。
これは、チンパンジーが本当に他個体との比較に反応しているのか、それとも単に「良い食べ物を見せられたのにもらえなかった」ことに反応しているのかを切り分けるためです。
その結果、チンパンジーは自分だけ低価値の食べ物を受け取り、他の個体がより良い食べ物を受け取ると、報酬を拒否しやすくなることが分かりました。
拒否行動には、食べ物を受け取らない、落とす、捨てる、メッシュ越しに押し返すといった行動が含まれます。
では、この反応はどんな条件で強まり、どんな条件では弱まったのでしょうか。より詳細な結果は次項で見ていきます。
報酬の価値と「親しい仲間」が反応を左右した
今回の研究で重要なのは、チンパンジーがどんな不公平にも同じように反応したわけではない点です。
最もはっきりした反応が見られたのは、自分が低価値の食べ物を受け取り、他の個体が高価値の食べ物を受け取る場合でした。
たとえば、自分はセロリやニンジンなのに、他の個体はブドウやバナナをもらっているような状況です。
このような大きな報酬差があると、チンパンジーは自分の報酬を拒否しやすくなりました。
一方で、自分が中価値の食べ物を受け取っている場合には、他の個体が高価値の食べ物を受け取っていても、拒否反応はほとんど見られませんでした。
つまり、チンパンジーは「相手の方が少しでも良いものをもらったら嫌がる」わけではありません。
自分が受け取る報酬が十分に価値あるものなら、相手がさらに良いものをもらっていても、それを受け入れる傾向があったのです。
また、自分だけが他の個体より良い報酬を受け取る「有利な不公平」では、報酬を拒否する行動はほとんど見られませんでした。
このため、本研究が示しているのは、主に「自分が損をする不公平」への反応です。
さらに意外だったのが、社会的関係の影響です。
研究チームは、接触、毛づくろい、近くにいる頻度などをもとに、チンパンジー同士の親しさを評価しました。
すると、特に自分が低価値報酬を受け取り、他の個体が高価値報酬を受け取る場面では、親しい相手が近くにいるほど、報酬を拒否しやすくなっていました。
これは、人間やボノボで報告されてきた傾向とは異なります。
人間やボノボでは、親しい相手との不公平には比較的寛容になりやすい傾向があります。
しかし今回のチンパンジーでは、むしろ親しい仲間が近くにいると、不公平への反応が強まっていたのです。
なぜそうなるのかは、まだはっきりしていません。
研究チームは、親しい相手には注意を向けやすいため不公平に気づきやすかった可能性や、親しい相手が重要な協力相手でもあるため、その相手との報酬差をより強く気にした可能性を挙げています。
ただし、この研究は「チンパンジーに人間と同じ正義感がある」と示したものではありません。
測定されたのは、あくまで食べ物を受け取らない、捨てる、押し返すといった報酬拒否の行動です。
それでも今回の結果は、チンパンジーの反応が単なる損得だけでは説明できないことを示しています。
チンパンジーの反応は、報酬の差だけでなく、その場にいる相手との関係にも左右されるのです。
参考文献
Chimpanzees react negatively to unfairness, especially when close partners are nearby
https://phys.org/news/2026-06-chimpanzees-react-negatively-unfairness-partners.html
元論文
Chimpanzees’ responses to inequity in a group context are influenced by food quality and their relationships with the group members present
https://doi.org/10.1098/rspb.2026.0397
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

