ついに北中米W杯が開幕した。開幕と同時にサッカー日本代表は主将・遠藤航の負傷離脱を発表。追加招集されたのは、前線のポジションを主戦場とする町野修斗だった。なぜ同じボランチの守田英正や藤田譲瑠チマではなく、層の厚い前線のポジションが代役となったのか。この一見不可解な人選には、森保ジャパンの勝ち筋とチーム設計が色濃く表れている。
ボランチ不在をボランチで埋めない森保采配
北中米W杯開幕直後、日本代表に大きなアクシデントが起きた。主将の遠藤航が負傷のためチームを離脱し、代わって追加招集されたのは、同じボランチの選手ではなく、前線を主戦場とする町野修斗だった。
一見すると、これはわかりにくい人選である。遠藤は森保ジャパンの中盤の基準点であり、守備のスイッチを入れ、セカンドボールを拾い、試合の重心を整える存在だった。その穴を埋めるなら、経験、技術、欧州での実績を考えても守田の名前が最初に浮かぶ。
にもかかわらず、森保一監督は中盤の枚数を同型で補うのではなく、町野という攻撃のカードを加えた。
この選択が示しているのは、遠藤の代役を「遠藤と同じ仕事をする選手」として探したわけではない、ということだろう。大会中の選手変更は、単なるポジション補充ではなく、26人全体の再設計である。遠藤不在によって中盤の安定感は確実に落ちる。
だからこそ、森保監督は残った中盤陣で守備の構造を保ちつつ、別の局面で勝ち筋を増やす道を選んだのではないか。
町野の追加招集には、前線の高さ、収まり、ゴール前での一発という意味がある。強豪相手の試合では、長い時間ボールを握れない展開も想定される。押し込まれた後に、クリアボールを前線で時間に変えられる選手、セットプレーやクロスで相手に違う警戒を強いられる選手は、短期決戦では大きな価値を持つ。
遠藤を失ったことで守備の強度が下がるなら、守備的MFを1人足すよりも、出口を増やすことでチーム全体の負荷を下げる。そういう発想も成り立つ。
では、なぜ同ポジションの実力者である守田英正ではなかったのか。能力の問題だけでは説明できない。守田は欧州の高い強度の中でプレーし、ボールを受ける技術、相手を外す判断、前進させる力を持つ。むしろ個の能力で見れば、今回の追加招集候補として十分すぎる存在だ。
ただ、選考とは「うまい選手を上から順に選ぶ作業」ではない。大会中の代表チームに必要なのは、限られた準備期間で、すでに作られた約束事にどれだけ速く入れるかである。
とくに遠藤離脱後の中盤は、リスクを取って前に出るより、まずバランスを崩さないことが優先される。守田のように自分の考えを持ち、試合を動かせる選手は強力な武器である一方、チームの方向性と完全に重ならなければ、短期決戦では扱いが難しくなる。
町野招集に見える現実路線
この点について、スポーツライターのミムラユウスケ氏は集英社オンラインへの寄稿で、2024年アジアカップ準々決勝・イラン戦後に守田英正がベンチからの指示やチームとしての戦術的徹底を求めた発言を念頭に、「“あの一件”をもって守田英正を外したという意見はあまりに短絡的である」と指摘している。ミムラ氏の指摘を踏まえれば、守田が選ばれなかった理由は、単純な序列や能力評価だけではなく、チーム全体の思想との相性にあったと見るべきだろう。
もちろん、守田の考えは日本サッカーの未来にとって重要だ。格上相手に耐えて勝つだけでなく、主導権を握って勝つ。その理想を本気で口にできる選手は貴重である。だが、W杯本番の森保ジャパンが選んだのは、理想を広げることより、現実の勝率を最大化することにあるようだ。
遠藤離脱の影響は小さくない。中盤の守備、キャプテンシー、試合を落ち着かせる力を同時に失ったからだ。それでも町野招集は、森保監督が動揺して場当たり的に選んだというより、チーム全体の勝ち方を守るための選択に見える。
守田を選ばなかったことは、守田の否定ではない。むしろ、守田ほど強い思想を持つ選手だからこそ、今のチーム設計に入れる判断を最後まで下せなかった、ということではないか。
遠藤の不在で、日本代表の中盤は試される。そして町野の追加で、前線には新たな可能性が生まれた。守田を呼ばなかった決断の正否は、ピッチ上の結果でしか測れない。ただ一つ確かなのは、森保ジャパンがこの選手変更で選んだのは「穴埋め」ではなく、「勝ち方の再確認」だったということだ。
取材・文/集英社オンライン編集部

