全国のラーメンを食べ歩くラーメンライター、井手隊長です。
東京・八王子のご当地ラーメンとして知られる「八王子ラーメン」。醤油ベースのスープに刻みタマネギを浮かべたシンプルなスタイルが特徴で、今や全国的にも知られる存在となった。
そんな八王子ラーメンの街で、長年地元の人々に愛され続けている老舗町中華がある。1978年創業の「ラーメン ちとせ」だ。
お店は昔ながらの町中華そのものといった佇まい。創業したのは現在の店主のお母様。現在は店主ご夫妻で店を切り盛りしている。
「ちとせ」といえば、何といっても驚くほどリーズナブルな価格設定と、他ではなかなか見られない真っ黒なラーメンで知られる人気店だ。
今回注文したのは看板メニューの「ラーメン」(430円)。
今どき430円という価格だけでも驚きだが、さらに運ばれてきた一杯を見て思わず目を疑った。
スープが真っ黒なのである。
一般的な八王子ラーメンは濃いめの醤油色をしていることが多いが、「ちとせ」の一杯はそのさらに上をいく。まるでブラックラーメンのような漆黒のスープが丼を覆い尽くしている。もし予備知識なしにこの外観のお店に入り、このラーメンが突然出てきたらかなり驚くだろう。
具材はチャーシュー、刻みタマネギ、インゲン、ノリ。麺は細めストレート。
この黒さの秘密は醤油ダレにある。
店主によると、大豆を発酵させ、チャーシューを煮て煮詰めるなどして作ったオリジナルの醤油ダレなのだという。長年受け継がれてきた製法によって生み出される独特の色合いは、まさに「ちとせ」だけのものだ。
見た目だけを見ると相当しょっぱそうに感じる。しかし実際にスープを口にすると、その印象は良い意味で裏切られる。もちろん醤油の存在感はしっかりあるが、見た目ほどのしょっぱさはなく、意外なほどスルスルと飲めてしまう。
ここに合わせる麺はどこか素朴で少しポソッとした食感。この黒いスープに少し主張のあるこの麺が面白い。たっぷりと浮かぶ刻みタマネギも印象的だ。
八王子ラーメンらしい特徴をしっかり備えながらも、味わいそのものは完全に「ちとせ流」。ご当地ラーメンの枠に収まりきらないオリジナリティを感じさせる。
この日は比較的空いていたこともあり、店主さんと少し話をすることができた。長く続く店には必ず理由があるが、「ちとせ」もまさにそんな一軒だろう。派手な宣伝をするわけでもなく、流行を追いかけるわけでもない。それでも創業から半世紀近く、多くの人がこの味を求めて足を運び続けている。
430円という価格にも驚かされるが、それ以上に驚くのは、この店でしか食べられない味が今も変わらず提供されていることだ。
八王子ラーメンを食べ歩いている人はもちろん、昔ながらの町中華が好きな人にもぜひ訪れてほしい一軒。真っ黒な見た目に身構えながら一口すすれば、その奥に隠された優しさと奥深さにきっと魅了されるはずだ。
ラーメン ちとせ
東京都八王子市南新町8
(執筆者: 井手隊長)
