出場48か国という史上最大規模の大会であるサッカーの北中米ワールドカップ(W杯)が現地6月11日(日本時間12日)に開幕した。数多くある注目点のひとつに、ベテラン選手たちの存在が挙げられる。
今大会の登録メンバーを見ると、43歳のスコットランド代表GKクレイグ・ゴードンを筆頭に、41歳のクリスティアーノ・ロナウド(ポルトガル)、40歳のギジェルモ・オチョア(メキシコ)、ルカ・モドリッチ(クロアチア)、エディン・ジェコ(ボスニア・ヘルツェゴビナ)、マヌエル・ノイアー(ドイツ)らが名を連ねている。さらに日本代表の長友佑都も39歳で5度目のW杯に臨み、リオネル・メッシ(アルゼンチン)も大会期間中に39歳を迎える。
特筆すべきは、40歳を超えるフィールドプレーヤーが複数存在する点だ。これまでのW杯の歴史を振り返っても極めて珍しい現象であり、サッカー界が新たな時代に入った事実を示している。かつて、40歳を超えてこの大舞台に立ったフィールドプレーヤーといえば、1994年アメリカ大会のロジェ・ミラ(カメルーン/42歳)くらいしか例がなかった。しかし今回は、ロナウド、モドリッチ、ジェコらがその仲間入りを果たし、かつては例外だった存在が、ひとつの潮流にすらなりつつある。
では、なぜ現在のサッカー界では、これほど多くのベテラン選手が第一線で活躍できるのか? 米スポーツ専門局『ESPN』は、この興味深い現象について特集記事を掲載し、その背景を詳しく分析している。
記事の中で大きく取り上げられたのは、40歳でボスニア・ヘルツェゴビナをW杯へ導いたジェコだ。かつてヴォルフスブルク、マンチェスター・シティ、ローマ、インテルなど強豪クラブで活躍した点取り屋は、実は2025-26シーズン途中には引退も考えていたという。フィオレンティーナでは思うような結果を残せず、「キャリアは終わったかもしれない」と考えた時期もあった。しかし、冬にドイツ2部(当時)のシャルケへ移籍すると状況は一変。熱狂的なサポーターやクラブの雰囲気が再び情熱を呼び起こし、チームのブンデスリーガ昇格に貢献した。
記事の中で、ジェコは長寿の秘訣について「朝起きると身体のあちこちが痛む」と苦笑しながらも、「20歳の頃よりもずっと多くのケアが必要だが、サッカーが好きだから続けられる」と語っている。同メディアは、「練習後のコーヒータイムを削り、リカバリーやストレッチに時間を費やすようになった他、プレースタイルも変化させた。彼は若い頃のように走り回るのではなく、経験やポジショニングを活かして勝負するスタイルへ適応した」と分析する。 こうした変化は、ロナウドやモドリッチにも共通しているという。前者は徹底した食事管理やトレーニングで知られ、ポルトガル代表のロベルト・マルティネス監督は「彼は常に、昨日より良くなろうとしている。勝利への飢えが衰えない」と評価する。一方、モドリッチについては、レアル・マドリー時代のフィジカル責任者アントニオ・ピントゥス氏による「練習、栄養、回復への取り組みが並外れている」との証言が紹介されている。
もっともESPNは、「単純に本人たちの努力だけではない」とも指摘する。「スポーツ科学の進歩も大きな要因」だとして、「研究によれば、サッカー選手のスピード能力は平均25.7歳、持久力は24.8歳、瞬発力は26歳頃にピークを迎えるという。つまり40歳を超えてトップレベルを維持すること自体が本来は極めて困難だ。それでもベテランたちが活躍できるのは、年齢による衰えに合わせて役割を変えているからだ」と説明する。
これは、例えばスピードが落ちた選手は、サイドではなく中央へポジションを移し、走力よりも判断力や経験を活かして、チームに変わらぬ貢献を示せるというものだ。ロナウドについて言えば、若い頃のような爆発的な突破力は失われたが、プレーの「最適化」によって得点力を維持している。
一方で、専門家たちからは懸念も示されていると、ESPNは伝える。「現在の若手選手たちは、早くから過密日程の中で膨大な試合数をこなしているため、今後、ロナウドやモドリッチほど長くプレーできない可能性がある」という指摘もある。実際にFIFPRO(国際プロサッカー選手会)は、近年の試合数増加に警鐘を鳴らしている。記事でも、「現在の若手選手は、同年代のデイビッド・ベッカム(元イングランド代表)やロナウジーニョ(元ブラジル代表)と比較して3~4倍の試合数をこなしている」と紹介されている。
さらに興味深いのは、ロナウド、モドリッチ、ジェコらがいずれも、代表チームのキャプテンを務めている点だ。同メディアは、「彼らの価値は単なる戦力としてだけではなく、チームメイトから絶大な信頼を集める精神的支柱としての役割にもある」と分析する。経験やリーダーシップが、加齢による身体能力の低下を補っている。
選手の寿命が年々伸びている中でも、さすがに40代でのプレーは極めて特殊な事例というのが現在の見方だが、今大会はこうした偉人たちによってサッカー界の常識が覆される歴史的な大会となるのかもしれない。
構成●THE DIGEST編集部
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