遠めからも目立つ。
国立競技場のメインスタンド下で、アーディ・サベアは際立っていた。赤いTシャツの裾を黒いハーフパンツにしまい、隆起した太ももはほぼむき出しだ。
はめているのは、ふちも、レンズも暖色のサングラスだった。
「つけるのは、勝った時だけです」
メインスタンド下の踊り場で微笑む。目を細め、口角を上げ、あたりの行き交う人々を見回していた。
多幸感がにじむのは当然だ。時は2026年6月7日。ジャパンラグビーリーグワンの決勝で、所属するコベルコ神戸スティーラーズがクボタスピアーズ船橋・東京ベイを22―13で破っていた。
旧トップリーグ時代の18年度以来となる日本一達成である。ロッカー室では誰もが喜び、飲み、歌った。
7番のサベアも要所で光った。キックオフ早々に身を挺してトライセーブ。以後も攻守で激しかった。
前半12分、自陣22メートルエリア中央で迫る走者を掴み上げる。スピアーズのアタックを断つ。
3点を先取された16分、中盤右中間で球を受ける。フットワークでタックルの芯をずらし、追っ手の脇をかいくぐるように前進する。勢いをつけ、反則を誘って同点に追いつく。
16―13とリードしていた後半12分、味方が自陣深い位置でキックレシーブからの足技連発でエリアを挽回。敵陣22メートルエリア左で接点ができると、それをサベアは同僚とともに乗り越える。まもなくその場を抜け出し、目の前のラックからボールを持ち出してタックラーを引きずって前に出る。19―13と加点する。
膠着状態でラスト10分を切れば、自陣ゴール前右で堅陣を築いてピンチを脱する。
しなやかなランも、懐の深い守りも、衝突の瞬間に強度が増すような印象を与えた。身長184センチ、体重105キロの32歳は微笑む。
「ただ、ラグビーをしていただけです。チームとして、自分たちのタンクを空にしようというマインドセットで戦えました。私も、役割を果たせて満足しています」
ラグビー王国のニュージーランド代表で通算106キャップ(代表出場数)を獲得。ワールドカップフランス大会で準優勝した2023年には、国際統括団体のワールドラグビーに男子15人制の世界最優秀選手にチョイスされた。
スティーラーズではこのほど2季ぶり2度目の1シーズン限定加入で、2度ともベストフィフティーンに選出された。これからは国内組から代表選手を選ぶニュージーランドのルールに沿い、帰国して来年のワールドカップ挑戦を目指しそうだ。もともとの拠点ながらスーパーラグビー撤退が報じられるモアナ・パシフィカを第一候補に掲げ、新天地を探す。
ただし今後リーグワンに参加するなら、長期契約を望むという。
勝利の美酒に酔った翌日、ジャケット姿でリーグの表彰式に出た後に話した。
「短期間の合流では準備期間を過ごせません。もっと地に足をつけてチームに溶け込むには(長い滞在がベター)2~3年チームにいられればさらにインパクトを示せますし、周りをリードできます」
その頃には、自国のレギュレーションがよりよいものに変わっていれば嬉しい。そう匂わせる。
左腕の内側には、母親の顔のタトゥーを刻む。サモアにルーツがある両親や家族を愛し、束の間の休息には必ず帰省する。兄のジュリアンともども一流プレーヤーとなるまでの過程を、こう振り返る。
「両親は、いまの自分がこの立場でいられる理由の全てです。実家が裕福で何でもそろっていたかと言えば、そうではありません。ただ2人は最大の愛を与えてくれ、何でも自分たちのためにしよう、チャンスを掴めるようにしようとしてくれました。ジュリアンも含めた私たちきょうだいが好きな仕事をできているのは、そのおかげです」
本質的な意味で足元を安定させ、かつ、芝の上ではどこか楽しげに激しいプレーを繰り返していたのだ。得難き個性の再来日は実現するか。
取材・文●向風見也(ラグビーライター)
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